血ノ奴隷~Ⅹ
文字数 8,195文字
フェレンスの
すっかりと隠れてしまいそうな体格差。
持ち上げた
草と背の
ああ ... そこは、やめておけ ... ...
違和感を覚えたらしいフェレンスは、仕切りに騎士の
すると、庭園に面する施設の司書だろうか。通り掛かる気配。
『誰か来ます。グウィン ...
『いいえ、どうかこのまま。
『竜騎士であると知られては ... 』
『私が
『そんな ... !』
嫌でも聞こえてくる会話。
『何より、今、この状態では ... とても鎧なんて ... 』
『え? あ ... 具合が悪いなら、来る前に言ってくれたら良かったのに!』
違う。そうじゃない ... ...
下半身の状態を見せても、案の定フェレンスには伝わらない訳だが。
残念だったなエロ騎士め。ざまぁ見ろ!!
なんて、思ったところで声にならないのだから
『こればかりは、さすがに』
『なら、私が出て行って
『こんな格好で ... ですか ? 』
『
その上、フェレンスは
息だけ抜けていく
『嫌だ ... 行かないで ... 居て下さるだけでいい。こうして居て下されば、
情欲の込もる騎士の声を聴くと、カーツェルの腹の底に溜まりに溜まった
『
この、変態
「いい加減に ... ... し や が れ ――――――!!」
夢だった。当然。分かってる。
「 ハァ ... ハァ ... どうしてこんな ... 」
夢にまで出てくるのには、何か意味があるのだろうかと考えると、
ロージーに言われたことを思い出した。
俺と、奴が
心当たりがあるとすれば。理不尽なところとか。
笑えねーよ ... ...
投げたブーメランが自分に刺さる心持ち。
フェレンスの過去になど興味は無い。
出会ってから共に過ごした時間だけが、
なのに何だ。あの変態騎士め。共有する必要のない未練など。
何のために押し付けてくるのだろう。
「 ... ... 俺には関係ねーだろうが ... ... 」
馬鹿げてる。その一言に
それで終わり。今はもう、何も考えたくないのだ。
脱力して
そうでもなければ、寝付ける気がしなかった。
ところがだ。
「悪夢か。酷く
いざ
「ああ、もう、まいったぜ ... ... 」
良くぞ聞いて下さいました。
「 ... ... っ て ... ... 」
いや待て。
待て待て待て。
顔を上げると目が点。
「どわあぁあぁあああぁぁぁ!?」
心臓が
「内容は?」
目の前にはフェレンスが居た。
ドアに背を
「 ハァ、ハァ、 つか!! ここ俺の部屋じゃなかったっけ? だよな!? え!?
どうして、お前が居んの!? な なな な な 何、勝手に入って来てんだ!?」
早くに休むと言うので
そう言えば、着ているものが違う。
スラックスにベルトもしていない。
シャツだけ着込んで来たのか。
彼の
カーツェルは小刻みに息して気持ちを静めた。
しかも
「 ハァ ... 落ち着いて、答えるんだ。 ... 内容は?」
「 ハァ!? 何、
お
「カーツェル ... 聞きなさい」
「テメーがまず聞けっつってんだよ!!
どんだけ人の話スルーしてんだ! ああ!?
それから、まず、その
なぁ、なぁ、聞いてる ?
言っても
フェレンスは
空気読め。
これだから、
言ってんのは俺だけだけど。
カーツェルは目の下を引き
だが、よく考えてみると。無断で入室してくるくらいだ。
やはり
どう振る舞おうが、
それでいて
寝姿を盗み見られたことよりも、彼の
それなら、こちらにだって考えがある。
納得できる答えを聞くまで、そこから
追い返す。
フェレンスは
「聴く気がねーなら出て行けよ」
「答える気のない お前に言えたことか?
昼間もそう。初めから言わせる気の無い態度だったな」
痛い ... ...
「いいから戻れよ。夜中だぞ。いい加減にしろ」
「なら、答えやすいよう質問を変える。夢に見たのはグウィンの記憶か?」
確かに、その質問に答えるなら一言で済む。
「黙れよ ... 」
考えたくなかった。
「彼の
「お前らのことなんか知らねーつってんだよ。ほら、もう、大人しく戻って寝ろ ... 」
考えたくなかった。
「意識の
「黙れっつってんだろ ... !?」
大人しくなどと言っておきながら、自分はどうだ。
声を
不安を
「これは俺の問題だ!! テメーには一切関係ねー!!」
これは、そんな彼への
フェレンスは
そして、手の
〈 パシィ ――― ... !〉
カーツェルは短く切るように肩で息した。
「見上げた根性をしている ... 」
対して、低く、強く、言い
フェレンスは
「では、こちらの思うところも、お前にとって不都合であろうがなかろうが、
関係ないと言う訳か。... ... なるほど。いいだろう。私にしてみれば、むしろ好都合」
バリバリと凍てついていく湖面のように、熱を
ハッ とする。だが、考えていたのでは間に合わない。
二本の指で
「忘れたくない!!」
それ以上は言葉にすらならず。
両者共に口を閉ざし、見合っていると。フェレンスが先に手を下ろした。
制裁などと、
自分だってそう、単に彼を黙らせたかっただけと思う。
脅しかけに痛みを加える必要など無かったのだ。
緊迫した空気が フッ ... と
フェレンスは
「装置無しでの消去には
安心していい。そう簡単に
だが、様子がおかしい。
言葉尻が弱々しく、途切れ 々 。
背を向けるフェレンスを見れば、肩が、腕が、手が、震えている。
カーツェルは、これまで抱いていた恐れも体裁も投げ出して、目の前の背を包み込んだ。
「 ... ごめん ... ごめん ... 」
「
「いいや、違う。そうさせたのは俺じゃねーか。それに、この先のこともある」
この先 ... ...
フェレンスは深く
「この先。もしかしたら ...
お前が知られたくない事まで、夢に見る日がくるかもしれないだろ。
けど 許してくれ、フェレンス。俺は、それでもここに居なきゃいけない。
だから ... 例え、俺なのか、あの騎士なのかと思うような事があっても、
頼むから ... ... フェレンス、頼むから ... ... 」
彼は繰り返した。
「頼むから ... 変わってく俺を受け入れてくれ ... ... 」
とても居た
その耳元に
頼む ... フェレンス、頼む ...
「少し考えたい。離してくれないか ... 」
震えの収まらない手で
フェレンスは
思うように動かない
落ちてくる本のように整理のつかない気持ちを持て
彼によって
無言で部屋を去る背を見送りながら思い返していた。
先の夢においても、そう。
フェレンスは騎士の押しに弱かった。
何という
これは、
騎士の情に影響された結果か。
もう ... 自分ですら分からない。
彼は
フェレンスが置いていったらしい手持ちランタンの
どれくらい、そうしていただろう。
テラスとの
発光植物で
フェレンスは
寝室に戻ったところで、横になる気になどならなかったので。
一つ 々 、思い返しては再確認していたところ。
よくよく話して聞かせたうえ、
今更ではあるが。彼の口から〈この先〉と聞いて、真っ先に思ったのだ。
元より ... 彼を裏切るかたちで去るより他ないのだと。
引き下がる気のないカーツェルは、取り残されると予期していながら
こちらも予想はしていたのに、どうしてだろう。
呼吸をも
危機感を
少年期のカーツェルに付き
修道院裏手の高い
時に
彼の
思わず
頭を打っていたら命に関わると
その当時から悩まされていた痛み。
だが、度を越し始めたのは
いくら
かつて思い合った騎士の命が失われた日の情景が ...
フェレンスは胸元を
呼吸を整えていると、
廊下に立ち、扉の間近で耳を
制服のまま。真夜中を過ぎるというのに、
気配を
すると、同印の記されたリビングの扉が開かれる。
〈 カチャリ ... 〉
手も掛けていないのに。
フェレンスの私室のドアが、スッ ... と向こう側に
入室を許可されたものと思い、
扉に触れる直前だった。
彼は、向こう側から持ち手を握り
「そのまま、深呼吸を続けて下さい」
そして、
「負担を掛けて、すまない ... 」
「いいえ。お連れしたのは僕の方なのですから」
「あの男を裏切ることが、そんなにも ... お
「それは ... 出来ない ... 〈記憶〉が
ところが、胸元でシャツを
「すみません。もう、何も
答えを聞く前だが、アレセルの方から質問を取り下げた。
騎士に感化されていく ... あの男の〈この先〉に起こり
影響を受けたものと分かる行為を目の当たりにしてなお、
ゆっくりと寝かせてやりながら、
フェレンスの胸を
共鳴するかのように
動け ... ...
そう
深く息を吸って、止め、やがて吐き出す。
想い人の呼吸が落ち着きを取り戻していく
その体温を感じながら、アレセルもまた
知らず 々 、手に手を
指の
フェレンスが ... 彼を
その日。帝都の夜明けは真横から差す
立ってシャツを着込む
けれども、ふと気掛かりに思い振り向いた。
足早に戻る彼は、カーテンを少しだけ引いて立ち返る。
テラスを向いていたフェレンスの顔に日差しが掛からぬよう、
音を
ロージーは言う。
「どうしてこう、旦那様のお
あんたも、そう。付け入るようなマネして、
シャツだけ着込み制服を
「捻くれでもしないと、お傍に寄ることすら叶わないでしょう?
何もせず、気が狂う思いをするよりずっといい。 ... 満足ですよ ?
僕はあくまでも、あの
命
「お黙りなさいね、
あたしには、そうとしか思えないわ。あのコとは決定的に違うのよ。
あんたには旦那様のお心向きが見えない。あのコを盾にして
アレセルは視線を
存分に
「あの男が知ったら ... どうするでしょうね ... 」
目の置き場所は変わらない。
アレセルの口の
恐れたのではなく。狂気を受け流すつもり。
「あのコも、旦那様の〈心臓〉を
でも、いい気になるんじゃないわよ ... あたし達、
生かさず殺さず
とっくに
アレセルは鼻の先を上げて笑った。
「お
その
だが、思っても口にはしない。
そろそろ話を切り上げたかった。
「ふざけないで。分かったら、とっとと行ってちょうだい」
回り込んで後ろから
ロージーの前で速度を落とすと、案の定、
「早く!」
「痛いです ... 」
「イヤなら早く歩きなさいってば!」
「嫌です ... 」
あんたね ... ...
普段、真面目な男ほど、
あの執事
両者が共にロビーに面する角の向こうへ姿を消すと、ほぼ同時。
奥の
けれども、あのロージーのこと。
何かに付け、気を
彼は気にも
調理場や貯蔵庫の他、使用人部屋の
屋敷で
まず第一に主人の
使用人同士が
主人からの希望や予定の変更があれば、その時、調整する流れ。
フェレンスの私室を前に立ち止まった彼は、軽く深呼吸した。
昨夜の事もあり、気分が重い。
けれども切り
〈 コンコンコンコン ... 〉
短く四回。
毎朝の
返事が無くとも入るという意味合いを込めて。
起こしに来るのも役目の内なので。
この時ばかりは、気配り無用と思うが。
ああ見えて彼は
フェレンスはいつも、その音を聞き分け目覚めた。
スルリ ... ...
上掛けを
だが彼は
「さあ、旦那様、お時間で
「さあ! お目覚めを」
フェレンスは
「 ... ... ... 何を
「
聞き、あらため思う。
そうだろうとも ... ...
いつものことだと。
ところが、昨夜からだろうか。
「次期公判の通知はまだありません。書簡は全て管理官を通じ受け渡されますので、
届き次第、お知らせ致します。以上ですが。
本日の予定には余裕があります ... 何か、ご希望は
「
「
役目から
朝食後、管理官との
「それで
立ち歩き、クローゼットを前にするまでに、ベッドの上掛けを
「では、
旦那様の御仕度にはメイドを上がらせますので、ご
「分かった」
彼は、いつも通り
だが、その時。
「それはそうと ... フェレンス ... 」
背筋が ゾクリ と震え上がる。
耳元から
人差し指の
ピン と立てられた彼の指は、
「そう暗い顔するなって。今は話せない。けど、もう少しだけ待ってくれ」
もう少しだけ ... な?
その
けじめに
それと、その、
直後、カーツェルは何事も無かったかのようにシャツを着せ上げ。
ベストを取っては見合わせる。
彼の動作を目で追うも静止状態。
フェレンスの瞳には