血ノ奴隷~Ⅶ
文字数 8,592文字
その存在を
対するは神教徒の
反政府態勢を示し暗殺をも
カーツェルを見て察したロージーが告げる。
「監視官の面々は職務を放棄して国外逃亡したそうよ。
まさか、バノマン
カーツェル様との契約を
偉大なる帝国魔導師を
あのアレセル
双方の狙いは
その策略を潰しかつ、異端ノ魔導師を引き込みたい
ロージーは
「カーツェル様なら気付いてはいるでしょうけど ... 」
「ええ。恐らく、私の兄は結社から〈
「なら ... 過激派の
軍警副総監が〈№〉持ちとくれば、旦那様の
「いいえ、ロージー。それはあくまで ... 旦那様が、
あの少年をお
つもりであれば
の話しです ... 」「 ... ... え?」
しかし
フロアで見上げてくる少年は、小さな鼻で スンスン と息を吸い。
カーツェルから漂うフェレンスの血の香りを確かめるようにしながら、小首を
絶句して青
「それにしても、
足の先から頭の
少年を
「
まるで
思いもよらぬタイミングで話が
まず、どうしてそうなったのかと。
聞かずにはいられないと言うか。
気になるでしょ。普通。
「だって ... だって ... 」
すると、
両手で顔を
「何を言っても、それしか着てくれないんですもの ... 」
「どうしても、〈ふ わ ふ わ〉が良いんですって。もう、お手上げよ ... 」
「 ... ... ハッ ! そう、それはね? 当然よ、何せこのあたしの見立てですからね ! 」
フンス と鼻息を切って胸を張ると、ブラウスの上のボタンが一つだけ、プツン と飛ぶ。
それを真横で見ていたカーツェルは、とても黙ってはいられないわけで。
「そんな事だろうとは思いましたが、あえて勧めるものでも、
威張る事でもありません。
口速に
その一方で、どうも居た
「まぁ、まぁ。 ご苦労だったな ... 」
「って! あんたね!! 塔の上から見てたクセに!!」
「やぁ、だって、俺の仕事と関係ないものなぁ!?」
ところが、次に始まったマリィとの
それよりも、涙ながらに立ち上がるリリィの
「それに ... それに ... その子 ... 」
小刻みに震える声。
白くて、小さな、何かを
そして言う。手にしたそれを胸の前に バッ !! と開いて。
「その子ってば! パンツ!!
何回、履かせてあげても脱いじゃうんです ぅぅぅ!!
姉さんが! こっそり! 素早く!
気付かれないように履かさせてあげても、いつの間にか脱いじゃうんです ぅぅぅ!!
だから ... だから ... ! いつも、お部屋の真ん中にパンツ落ちてて ... !
履いてくれたと思っても、いつの間にか落ちてて ... !
履かせても履かせても、やっぱり落ちてて ... ! もぅ、わたし、どうしよ ぉぉぉ!?」
。゚(゚´ω`)゚。 エ ――― ン !!
号泣。
ウェストの
よく聞くところのカボチャパンツである。
「おお ... っと、そうきたか」
「他人事みたいに言わないで!!
「やぁ、それくらい何だよ ... 」
フロアのローナーとマリィ。
「
「あら ♪ それじゃ、お姫様みたいにクルクル~ ってしたら、
見えちゃうわね ♪ 〈アレ〉♪」
「はしたないですよ ... 」
踊り場のカーツェルとロージー。
ふわふわのドレスを着て上機嫌な少年だが
とりあえずは要所を
「 オ、ヒメ、シャマ ァ ァ ~~~ ♪♪♪ 」
クルクル ~ ~ ふわわ ~ ~
「 キャアァアァアァァァ !! お
リリィの素早いフォローの
フリル下のモノは見事カボチャパンツで
が、
「プププ ... クク ... 」
まずは守衛が吹き出した。
「ブ ッ ハハハハハハ ッ !!」
「ハハハハハ !!」
「おい、ソード! アックス!
「す、すみません ... でも ... ハハハハハ !!」
「ガハハ !!」
次いではメイド達。
「フフフ ... 」
「どうしてお部屋の真ん中に?」
「わざわざ置いていたのかしら? 抗議?」
「ヤダ、カワイイ ... 」
顔を
カーツェルは待った。
だが、いつまで
こんな
ふと思い、気が
そんな彼の口元を見ていて、ロージーもまた微笑む。
視線を感じ、カーツェルは
彼は再び気を引き締めて
「お静かに ... !」
軍警の動向を
「旦那様のお帰りまで、守衛は少年の
他も例外ではありません。常に複数人で移動し仕事するように。
各自、持ち場を明確にしておくこと」
カーツェルの申し付けを聴き、一人 々 が姿勢を正していくのを見ながら、少年は思った。
「パ ... ン ... チュ ... 」
嫌でも
ドロワーズを握りしめるリリィの顔を チラリ と
涙で
けれども、話の最中に取り返して
モジモジ ... モジモジ ...
その動作が、また目立つ。
踊り場から言い渡すカーツェルは、終わり頃に一つだけ付け足した。
「それから、少年。
覚悟し、おいでなさい。 ... 以上!」
一言で締め
彼らはやがて、上役と打ち合わせるべく
フロアへと降りていくロージーが手を打つと、掃除担当のメイドが。
その場で持ち場を言い渡すローナーの
リリィはその場を離れる前に、少年の前で
そして、手にしたそれを
少年はカーツェルに言われたとおり。
受け取った下着を持って階段を駆け
ふわりふわりと揺らめくドレスの
足元を確認しながらやって来る
目で追うカーツェルは、
少しだけ恥ずかしそうに モジモジ と
すると、
黙って受け取り
片方ずつ順に靴を脱がせては、
カーツェルは、ある事を思い出し、気に掛けた。
そう言えば ... シャンテノンでの戦いの前。
フェレンスも、
その
まさか ... まさか ...
今更、心配しても仕方がないのに。
主人の
顔を
いやいや、それよりも今後、この少年をどう
「ふむ ... ... 」
「 フ、ム ?」
ドレスの上から整えてやり。
肩を押し回しては、後ろのリボンを
少年もまた、押し黙るのカーツェルを観察するかのように視線を ヒシ と見て追った。
彼から漂う ... フェレンスの魔ノ香が心地よい。
カーツェルの肩口で スンスン と
「 ツェル ! ニオイ、シャマ、ノ ! スル ! ヤッ ... パリ !!」
「え?」
それはきっと、移り香。
フェレンスの血から生成されたものであったからに違いない。
血の恩恵を受ける、
ある者は言った。
「しかし強すぎます。お陰で、居場所を特定するのも訳無いですが」
「隠すつもりが無いのだろう。この私が、あれだけ勧めた君すら
〈血ノ奴隷〉として召し
「 ... 自身の血に群がる魔物を狩るが効率的とでも、お考えなのでしょうか」
「一理ある。彼が君を受け入れようとしなかった理由にはならないが」
「 ... ... ... 」
「
「同じ等級に属する身としては、少々傷つきます」
「同じ? ... はてさて、それはどうかな?」
「 ... はっきりと仰って頂けないでしょうか」
ストレッチ・リムジンのキャビンにて向き合う両者共に、視線は窓の外。
「アシェル ... 修道院で長年、彼を世話してきた君よりも、あの少年よりも、
〈
無駄死にさせる気にはならなかったのだろう」
「バノマン枢機卿。もう一度、申し上げます。
はっきりと仰って頂かなくては ... 正直に御仕えする気が失せますので」
「ははは ... 口を
高齢の男が笑うと、紅蓮のローブを飾る埋め込みの宝石が妖艶に輝いた。
対して問うは、壮年の修道士。
「あの方は受け入れない ... そうと分かっていて私を差し向けた理由は?
あの方なら目もくれないはず ... そんな少年に何の憂慮がおありでしょう。
年齢にそぐわず厚みのある体格。肩口から胸元に垂れ落ちる白髪。
修道士が睨んだ男は
ただ、足元を見下げていた。
史実上。統一に先立ち、根幹を
歴代の王に限らず。所により革命を主導したギルドや民団の筆頭が寄り合い、
地位と国勢の保持に
安寧を
建国後、権威と権力が隔絶されて以来。
実際に国を治めたのは統一に
現代の大貴族
――― 地上に降る星は神々の意を宿す。
星を
アレセルの言うところによれば。
「ウォルテアの伝説と、星詠みについて調べてみましたが。
シャンテの民が地上を去るより以前に決別した同種族であるという説について、
事実に
そう言っても過言ではないのだ。
「仮にそれらの説が正しいのであれば、〈エレミア神教〉を名乗りながら
聖人の実像を ... 数ある出来事の当事者でもあったはずの預言者の名を、
秘密にしておかなければいけない理由として、納得は出来ます ... ... が ... 」
護送車両による移動中。
彼の話を聴きながら道先を見つめる。
フェレンスは
時に視線を
アレセルの
考え事に
ローブの
ようやっと我に返る。
「すまない、アレセル。聴いてはいた。 そう、教皇ですら〈使者〉と呼ばれているのだから。
実在するなら、彼ノ
シャンテと決別した側という説も現実味を帯びてくる ... ... 」
「つまり、フェレンス様を迎えに見えた
上の空だったくせに。
アレセルは彼の首筋に溜め息を吹き掛け、
そうしていると、また、フェレンスの顔が下を向く。
「私には、君の考えている事がよく分からない。
私のことを想ってくれていながら、
「それは ...
フェレンスは、彼を
「そもそも自身の幸福のために生きられない身。そのように生み出されたのだから」
「分かっています。だからこそ
定めあっての
ならば何度でも ... そう願わずにはいられないのです。
貴方様を守り抜いて死した
僕に彼ほどの力は無い。ですから、貴方様がうっかり力を与えてしまった ...
あの男に賭けるしか ... ... そうする事しか、僕には出来ないのです ... ... 」
鼻の先で脈を
肩を抱く
フェレンスは静かに言った。
「アレセル 、よさないか ... 運転手がこちらに気を取られている」
「〈
嫌であれば、お逃げ下さい。 僕から ... そして、この帝都に渦巻く陰謀から ... 」
お願いです... フェレンス様 ...
アレセルは繰り返す。
どうか ... ... どうか ... ...
しかし、フェレンスの手は胸を押して距離を置いた。
「 ... ... すまないが アレセル。それは出来ない ... ... 」
答えは変わらない。
変えられないのだ。
やはり、僕では ... ...
アレセルの瞳が悲痛を宿す。
そんな
立ち込む
嫉妬などといった言葉だけでは収まりがつかない想いが、脳裏を満たした瞬間だった。
フェレンスの首筋が視界に入り、気付けば歯を
しかし理性を失ってはいない。
ところが、素早く手で
心から
アレセルは
かと言って、思い
どうして、僕を選んで下さらなかったのですか ... ...
「フェレンス様 ... ... 」
それなのに、
あの男には、見えているのだろうか ... ...
思いを
〈アレセル。お前は昔から、特殊な力を受け継いだ私に
お前が異端ノ魔導師に向ける想いの強さに比べたら、他愛ない ... ... 〉
時を同じくして、クロイツもまた思いを
薄暗い樹海の底に
「何をお考えで?」
辺りを見張る部下の気に触らぬよう、
息を払う程度に
金糸のような髪をまとめる
森林の香りを
クロイツは、やがて答えた。
「弟の事だ。...
あれの方が
あれはな、昔、重大な罪を犯しているのだ。
裁かれずに済んだのは、フェレンスと関わった事を良しとしなかった
教会の働きかけがあったせい。私は最近、知らされた ... ... 」
「そりゃあまた... 重い話ですなぁ ... 」
「後悔を重ね打ち
「あ ... はい ... 」
「フェレンスに絶対服従の精霊よりも。
もしかするなら、奴を友と呼ぶ ... あの男よりも。
義理の母と妹のため、地下墓地に安置された死人の身を
心臓を
「悪魔に手渡す最後の心臓であるずだった ...
自身のそれを
「 ... ... ... 」
「 ... え。と言うか、それと言うのは、もしや ... 例え話では!?」
「「「 シィ ーーーーーーーーーーーーーーー ッッ !!」」」
想像して思わず語尾が強まり、大声を発するノシュウェルを皆が
人を
魔力を宿す血が通っていようと、多量に失えば
「元が
その場を追われて以来、彼の
人より
あの日。彼を生かすために
まさか寝返るとは予想外だった」
壮年の修道士は軽く溜め息をして
「 ... 問答無用ですか ... 」
問い詰めを聞き流されたかたち。
「彼の鼓動を補助する〈
我々のもとを去る事の危険性を知っていて ...
我々の動きから〈
「
なるほど。 ... 向かわせる予定の信者を開放して
修道士の
タイトインナーの内にロザリオをしまって、黒革のジャケットを
「彼女の
世界の修正を
アシェル ... 君の〈
車外に出て背筋を伸ばし、彼は答えた。
「
サンディブロンドの短髪が、帝都を吹き抜ける風に