魔ノ香~Ⅶ
文字数 8,628文字
異端ノ魔導師と、その
一般の民には周知されることのない世情。
いつの間にやら
手を
皆が ... もし、二人の素性を知ったなら、何を思うことだろう。
「お願いですから。 ね? もう、そろそろ出てきてはくれませんか?」
「 ヤ ... !」
「そう言わずに、どうか聞いて下さい。
あなたがそこに居たのでは、旦那様にゆっくりと、お休み頂くことが出来ません」
「 ... ... シャマ 、 ... ネ 、ル ?」
ローブを羽織るフェレンスの
「ああ、そうだな。そろそろ横になりたいとは思っている」
「ほら、聞いたでしょう ? ですから。 ね?」
「 ン ! ワカッタ。 ジャ ... シャマ、 ト、 イッショ ... ネル !! 」 (`・ω・´)キリリ!
〈 ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ ... !? どうして、そうなんの!?〉
ベッドに両
話が通じないのだ。
気持ちは分かるが。
突っ伏した執事の口元から若干の
もう少しだけ
何せ相手は
大声で怒鳴るわけにもいかなかろうて。
なおも
〈本人の意識の無いうちベッドに
ヌクヌクしたくらいで、どうしてそこまで
つーか、さ、 (`・ω・´)キリリ としながら、すっとぼけてんじゃねーよ!!〉
彼の台詞を書き込んだ吹き出し
「まさか、あの二人 ... あれがずっと、この調子だったんですか ... 」
横に立つクロイツは無言。
室内では、引き続き少年を
なんちゃって執事が、例によってキレかけ。
「いいでしょう ... これだけ説明しても
「 ヤ ァ ァァァ ――――― ... !!」
少年の
フェレンスは、全開になった
「 キ ャ ァ ッ !!」
ところが、少年。
「痛!... イ タタ ... ぃ 、痛、痛い ... 待てカーツェル、引くな。 ... あ、ちょっ... ! ... 」
「え? どうしたよ。 て ... うわっ!?」
少年が
「こらっ ! 放しなさい。
そんなに強く引っ張ったりしたら、旦那様が
ハゲ ... !?
耳を疑うような言葉も、ちょっと聞こえた。
しかも少年は
引っ張っているのは、お前だろうと言いたい。
だが、その時。どうしてか周囲が静まりかえったので。
はたと顔を上げ、カーツェルを見てみるフェレンス。
すると、自分の発した言葉を思い返し、フフ ッ ... とか何とか、吹き出しかける
主人の頭から目が放せずにいるのだから、命知らずって馬鹿なんだなと思う。
「 え。 今、 何を想像しのた ? 」
「 ええと ... ぃぇ 、 その ... ... (( プ クク ... )) 」
その上、笑い声まで
フェレンスを
内心、つっこまずにはいられないのだ。
何を考えているのか、実に分かりやすい男だと知る。
とは言え、そんな場面に同調して笑ってもいられない。
チラッ チラ ... と横目に様子を
こちらには目もくれず。ノシュウェルは ソワソワ とした気分。
上が
しゃしゃり出ておきながら、役に立てていないのは
そんな彼をまた、ジッ と
そっと手を放して、
見ていたカーツェルが、
すると今度は、ゆるり 々 ... 首が
「 ぅ ... ... く ... ... 」
フェレンスの
ちょいちょい繰り返している
「お前達は、仕置されたいのか?」
「「 ヤ ! 」」
二人は口を
小さい方も大きい方も ニコニコ と、満面の笑顔である。
ノシュウェルは思った。
あの異端ノ魔導師が
監視官の目も意識しながら。
「
その
カーツェルの提案だった。
二の舞にならぬようベッドに少年を座らせ、
遊んでやってると見せかけ、耳を
彼は続けて、こう
「早朝であれば ... 車中、旦那様のお
フェレンスの耳に息がかかる距離。
見取り窓の向こうに立つ二人にも見えるように、カーツェルは
〈 この子が夢を見ているうち ... 静かに、その場を去れば
なるほど。それが一番、手っ取り早そうだ。
目を細めるカーツェルに
ところが。久方ぶりにクロイツが口を開く。
「ノシュウェル。あの少年を連れて来い」
「は! ... ... って ... ... はぁ!?」
反射的に返事をしたが。
そんな彼に対し、クロイツは強く言い放つ。
「
そうしてノシュウェルは、今更ながらに納得したのだった。
ああ、そうか。先程の胸騒ぎは ... ...
そう。珍しく黙り込んでいたクロイツの、良心の
フェレンスも、そんな
指示だけして静かに、その場を去る。
見取り窓の手前に一人残されたノシュウェルは二の足を踏んでいるよう。
少年の身元がはっきりしないのであれば、利用するつもりと見受けた。
事に
人らしく考えれば有り
けれどもノシュウェルは、思い返すのだ。
いつか聞いた ... 兵士の言葉を。
『 クロイツ監視官、あの方にも年の離れた
あの人の過去に何があったかは知らないが。
想像を
兵士の
悲しげな面持ちを
ノシュウェルは、部屋の扉をノックし
場の雰囲気を
説明の必要はなさそうだと感じた。
ところが。
暗黙の了解と受け止め、一歩、少年の方へと踏み出した時。
正面に立ち入り、行く手を
沈黙を破ったのは彼。
「いったい何事で
監視官殿は
一通り説明してから通れよ ... ...
彼の鋭い視線が、そう言っていた。
答え
「申し訳ないが。それについては
「そうは
監視官殿のお考えは? 少年を
「それが、今はまだ何とも ... ... 」
「
いい加減に ... と、カーツェルは言いかけた。
しかし、そこに割って入るフェレンスの声。
「カーツェル ... 」
「はい、旦那様。
「いいや。今すぐに、ここへ」
聞くと
「 ハァ ...
振り返り、あらため
「彼は監視官の代弁を務めることに引け目を感じているようだ。お前には分からないか?」
フェレンスの声は
けれども思わぬ
カーツェルは不意に肩を
彼の主人は続ける。
「お前だって、上のやり方に疑問を抱くことはあるだろう。
私情を
〈上はこう言っている〉〈自分はこう思う〉
幼い子の事と思えば心苦しくもある。
それについては、彼も同じとは思わないか?
今のお前の立場で言うなら。
例え、お前に出来ても、それを相手に強要するなんて
... ... そんな ... ...
少しの
何が
そんなこと、てめーにとやかく言われる筋合いは ... ... あるし。
つか、てめーに許されるか許されないとかどうでも ... ... よくねーし。
何せ相手は主人であり、第一の友人だ。
だが、結局はお互いに、こうしよう、ああしよう、
フェレンスが強く言うことに反論する気など、初めからないのだ。
ただ、
それに対してだけは一言、言いたかった。
「 ...
仮に
その
対し彼の主人が姿勢を崩す事は決して無いので。
「恐らくは、そうなるだろうが」
「断じて許せません」
地を
カーツェルは
それにしても、どうしてこう
言い分は理解出来るのに、腹が立つ。
思った通りの反応に対し、フェレンスは微笑む。
「お前が時折、配慮を
一度、頭に上った血は、なかなか引かないだろう?
だが、お前の怒りは彼に向けられるべきではないと考えた。
いっそ私を
だから ... 今はまず、少年の
黙って聞いていれば、また一つ
「承知
お許し下さらなくて結構ですので。せめて、簡潔にお命じ下さい」
フェレンスは一呼吸置いて応じる。
「座りなさい。カーツェル」
「 ... ... ... 」
ああ ... 実に分かりやすい。
カーツェルの背を見てノシュウェルは思った。
言えば何だかんだ言うことを聞くのに。
この
黙った執事が少年の
下を向く彼の
「 ... 良い子だ」
ああ、なるほど、やはり ... ...
一方の少年はと言うと。カーツェルを
急に大人しくなった彼を心配しているよう。
目が合うと苦笑いするカーツェル。
ノシュウェルは、フェレンスの気遣いに
少年は執事の美しい姿勢をよく 々 見て。
執事は少年の背筋を押し込み、
シ ――― ... と人差し指を
その
「これらは
補佐官、
どうか
物事の根底にあるのは常に、苦渋苦難を
努力があるからこそ生きていられる。
自身の
逆も
本来であれば。
責任など問えようか。
誰に対してもそう。
どうやら少女の件も
お互い様ということだろう。
ノシュウェルは息を吸い込むと同時、自らの胸に
心に刻み、約束するとの軍士作法だ。
雰囲気に
警戒心は
明るい声で、息が
ふわりふわりと揺れる赤い髪が
健気な少年のこと。
か弱い存在を身近に感じることに
幼い頃のカーツェルであれば、剣術や体術、銃の
何より、やんちゃだったので。
対応をカーツェルに任せっきりだったのも、そのせい。
触れて良いものか、
だが、再び会うことは無い。
そう思えば、最後の気掛かりくらい自らの手で解消してもいいかと考える。
少年を抱え退室しかけていたノシュウェルを呼び止め、フェレンスはベッドから降り立った。
病み上がりの
少年の手を取り、巻きつけてあった布を
いつからの傷か ... 程度も知れないが。
切り傷くらいなら、とっくに跡形も無いはず。
ともすれば、もう巻いておく必要はない。
取ってやったうえ、別れを告げるつもりだったのだ。
少年は、フェレンスが布に触れるのを
「 ヤ! ... メ! ソレ、トル、ノ、 ... メ!」
けれどもフェレンスの声を聞くことに意識が行って、動作は
「怖がらなくていい。痛くはないだろう ? お前の傷は
フェレンスが布を手に取ったあと、手のひらを顔に向けてやると。
少年の目は キラキラ と、より一層の輝きを見せた。
「 ... ... フ ァ !? ナ、イ ! ... イタイ、ナイ !!」
傷が無い。痛くもない。そう言いたいのだろうか。
フェレンスは微笑み、
異変に気付いたのは、その時。
周辺に拡散しはじめた
フェレンスは危機感を
すると、それぞれが同じように鼻先に感じた〈何か〉を深く吸い込む
素早く手に持った布を確認する。
その内側には、とある印紙が折り込まれていた。
まずい ... ... !!
記された封印を見て
「彼から離れるんだ!!」
彼は少年を抱く部隊長を背で
〈ソレ〉は、布に
実のところ、〈香り〉と呼ばれるものとは程遠い。
多少強力であっても、
性の本能に
人の欲を
魔力の
全ての人間が当てられるわけではない。
危険なのは、心に強い負の思念を隠し持つ者である。
しかし、この時フェレンスがカーツェルを警戒した理由は、それに
ならば
カーツェルの呼吸が荒らぎはじめる。
答えは、彼の指先で チラチラ と