第50話 瀬名さん、ほんとに添い寝ですよ!

文字数 1,983文字

素麺(ソーメン)パーティーが終わったと思ったら父親が梶田のおじちゃん一家を連れてきて、今度は酒盛りが始まった。
明智とシホは、

「明日仕事だから」

とバイトを理由に逃げて行った。

「あー。あなたが瀬名さん? 麗人の父です。どうせ麗人のことだから迷惑のかけ通しでしょう」
「いいえ、お父さまそんなことありません。麗人さんにはいつも助けて貰っています」

挨拶もそこそこに、だーっとお酒がテーブルに並べられた。梶田のおじちゃん一家も酒席にだーっ、となだれ込んでくる。

梶田のおじちゃんの家は三世代同居で全員で8人。じいちゃんばあちゃんに梶田のおじちゃん夫婦、それから従兄弟のカズさん夫婦、そしてその子供の・・・

「あらあら。2人とも寝ちゃってるわね」
「母さん、仏間んところに座布団敷いてタオルケットかけてやりな」

3歳の双子の姉弟、シズルちゃんとユズくんだ。花火の大音量をものともせずに途中からずっと寝っぱなしらしい。

「瀬名さん、ごめんね。そこに座布団重ねてあるでしょう? それでお願い。麗人、タオルケット2枚取ってきて」

母親の指示に従い、瀬名さんと僕とで姉弟の寝床を作ってやった。

「かわいい・・・」

さすがに3歳ともなると、しかも完全に寝ているのでずっしり重い。瀬名さんはシズルちゃんを抱えて座布団に寝かせると興味津々で覗き込んでいる。

「ほら、若い2人、こっち来て飲まんかー!」
「はーい」

梶田のおじちゃんに呼ばれて僕と瀬名んは声を揃え、宴たけなわの酒盛りに参加せざるを得なかった。

・・・・・・・・・・・・・・

「ふう・・・足元がふらつく」

僕は自分自身でも酔ったと自覚している。来客用の布団にタオルケットと枕を重ねて2階の自部屋に向かい一歩一歩階段を登っていた。

正直ここまで酔ったことはあまりない。父親、梶田のおじちゃん、おまけにカズさんまでが悪ノリして、

『一気飲みなんて野蛮なことはさせん。その代わり夫婦らしく三三九度で飲み干せい!』
『はあ?』

そういう訳の分からない訳で僕と瀬名さんはまるで神前婚のようにビールだろうがハイボールだろうが三三九度で飲んだ。

驚いたのは経済的理由から普段ほぼお酒を飲まない瀬名さんの酒豪ぶりだった。ビール、チューハイ、冷酒、挙句の果てにカズさんが九州土産だと言って持参した怪しげなどぶろくまですべて三三九度で飲み干した。

『ほお〜』

パチパチパチと拍手で讃えるおじちゃんたち。
その光景を最後に僕は記憶が無くなり、気がついたら布団を運んで自動歩行のように階段を上っていたのだ。

「ははは。別に客用の布団なんて要らないのになー。僕と瀬名さんは夫婦なんだからー」

あれ? 僕は何言ってるんだ? あ・・・でも、確かにそうだ。
だって、一緒の部屋で寝るってことはそういうことだろ?
そうだそうだ。
前みたいに二段ベッドの上下で寝るのと訳が違う。
一つの布団で、枕だけ並べて一緒に寝ればいいんだから。
なーんだ。だから三三九度だったんだ!

僕は最高に盛り上がった気分で自部屋の襖をがらっ、と開けた。

「麗人おじちゃーん!」

澄んだ声といたずらっぽい声とがコーラスで鳴り響いた。

「え?」

パジャマに着替えたシズルちゃんとユズくんに、ふおーん、とドライヤーをかけてあげている瀬名さん。

「ねえねえ。麗人おじちゃん、シズルと一緒に寝たい?」
「え? あ、うん?」
「やー! おじちゃんエッチ!」

ああ。
もうどうでもいい〜。

・・・・・・・・・・・・

「ようやく寝ましたね」
「うん。ふたりともかわいい」

子供たちが寝冷えしないようにクーラーはやや控えめ。代わりに寝付くまで瀬名さんがうちわで2人をあおいでやっていた。

「瀬名さん、あんなに飲んでよく平気ですね」
「うん。多分飲んだ瞬間に異次元のもう1人のわたしが飲んで、そのまた異次元のわたしが飲んでるから胃に吸収しないんだと思う」

こういうシュールな冗談が出るということは一応瀬名さんも酔ってるんだろう。

「ねえ、気根くん」
「はい」
「子供何人欲しい?」
「え?」
「何人欲しい?」
「えと・・・最低2人は・・・」
「わたしは駅伝ができるぐらい欲しいわ」
「はあ? 駅伝? それって具体的に何人ですか?」
「とにかくたくさんよ。箱根みたいに往路復路あったら20人ほどかしら」
「ははは」
「ねえ、気根くん」
「今度はなんですか」
「子供ってどうやったらできるか知ってる?」
「え!? いやその・・・」
「ねえ・・・・・」
「その・・・一緒に寝て、その・・・」
「ブー! 時間切れ! あのね、正解はね・・・」

僕はシズルちゃんとユズくん越しに見える瀬名さんのお酒で潤んだ目を息を飲んで見つめた。正解は・・・?

「キスすればいいのよ」
「はあ?」
「なんだー、気根くん。知らないのー?」

ははは、と無邪気に笑う瀬名さんに呆れて声をかけた。

「瀬名さん、まるで子供ですね・・・あれ?」

双子の姉弟と同等のあどけない顔で、もう寝息をたてていた。
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