第2話 瀬名さん、こんにちは

文字数 635文字

気根(きね)くん、こんにちは」

 午後に入っているから、こんにちは、と生真面目な挨拶を彼女はしてきた。

瀬名(せな)さん、こんにちは」

 1年生の僕にとって、2つ年上だけれども2年生の彼女は、充分に長幼の序を守るべき先輩だ。丁寧に挨拶を返す。そのまま僕の向かいの席に座った。

「それ、A?」
「はい、Aです」


 ここの学食は、Aランチ、Bランチしか定食セットはない。しかも、おかずと小鉢のローテーションのみが入れ替わる、きわめて経済合理性の高いメニューだ。女性としては耐えられないのだろう。瀬名さんはきつねうどんとサラダだ。

「気根くんはゼミ、どれ取るとか考えてるの?」
「え、と。やっぱり経営系かなあ、と」
「あれ意外」
「そうですか?」
「あなたは絶対哲学系と思ってた」
「なぜ」
「いつも話が小難しいもん」
「難しけりゃ哲学、って訳じゃないですよ」
「わたしにとって理解不能な話は哲学なの」
「え」
「なに?」
「いや・・・じゃあ、瀬名さんと僕はコミュニケーションが取れてなかったんだ」
「あ、気付いてなかった?」
「ショックです・・・」

 昼食を食べ終わると、ベンダーの紙コップコーヒーを飲んでから瀬名さんと別れた。こんなに淡泊だけれども、一応僕の”彼女”である。けれども、僕のイメージしていた彼氏彼女とは全く異なる関係だ。大体、改まったデートというものをしたことがない。休みの日もコインランドリーで待ち合わせして、洗濯ものが乾くまで缶コーヒーを飲むぐらいだ。

「お金、無いもん」

 彼女の決まり文句が、かわいくはある。
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