やさしい雨3

文字数 1,742文字


ディアディンが物かげに隠れて、三匹を追っていくと、ニョロは背の高い木の集まるところへ入っていった。
するすると杉の木にのぼっていく。長い体をたわめ、じょうずに隣りの木の枝へとびうつる。

あとから追っていた二匹は、マネして、とんでみたものの、失敗して、へチャリと地面に落ちた。

二匹が目をまわしているうちに、すばやくニョロは去っていく。
ただし、ディアディンがつけていることには、まだ気づいていない。

慎重に追っていくと、奇妙にもニョロは狩りを始めた。
裏庭をあらす悪しきものを狩るのが彼らの仕事ではあるが、それなら何も双子をまいて、一人になることはなかったろう。

そのあと、ニョロは気がくるったように、貪欲そうな目のドブネズミや、凶暴なワシに果敢(かかん)に挑んでいった。ネズミはともかく、ワシはヘビの食料にしては、おかしい。

事実、ニョロは自分で食べるわけではないらしかった。エモノをしとめると、物かげに運んでいき、すぐにまた出てくる。そして、次々に新たな敵に向かっていくのだ。

やはり、何かが変だ。

いかに相手が、長姫の眷族に害をなす敵とはいえ、彼らはニョロたちの食料でもある。狩りつくしてしまえば、白ヘビたちの首もしめることになる。

第一、こんな、見さかいない狩りを続けていれば、いずれはニョロの身が危うくなる。ディアディンが見ているかぎりでも、しばしば、ヒヤリとすることがあった。

それにしても、ニョロは狩りのあと、決まって茂みのなかへ入っていくが、どこへ行っているのだろう。

ディアディンは、しとめたばかりのエモノをくわえて、ひきずっていくニョロのあとをつけた。

ひときわ深い木立ちのなかへ、ニョロは入っていく。

なにげなく、ニョロの入った茂みのなかをのぞきこんだディアディンは、そこにトグロをまくニョロの胴体に、もろに顔面をぶつけてしまった。

「いてッ」

鼻の頭をおさえるディアディンに仰天して、ニョロがキバをむいてくる。

「あ、こらこら。恩知らずな。おまえ、毒ヘビなんだろ?」

興奮したニョロは聞くものではない。カマクビをもたげて追いたててくる。

ディアディンは根負けして逃げだした。

その夜、ヘビのぬけがらをふところに忍ばせて、ディアディンは眠った。満月の夜のように、長姫たちの世界へ行くことができた。
廊下のかたすみで、蛇皮のマントを頭から、かぶっている自分を発見したときは、なさけなくなったが……。

ちょうど双子の部屋の前だ。
ディアディンは、ニョロに気づかれないように、双子をさそいだした。
昨夜のように、ニョロは今夜も出かけるだろうから、庭に先まわりしておくためだ。

現実の裏庭とは配置が違うが、昼間の茂みとおぼしきあたりに、たどりついた。
そこで、ニョロが来るのを待ちかまえる。

「なんか、匂いますね」

待っているあいだ、ウニョロとムニョロは落ちつかない。

「おれがいるから、人間の匂いがするんだろ?」
「そんなんじゃないですよ。変だなあ。生あったかい空気も感じるし……」
「いいから黙ってろ。また、ニョロに感づかれるぞ」

むりやり、黙らせて、木かげに身をひそめていると、ようやく、ニョロが姿をあらわす。

昨日、今日と尾行されて、ニョロ自身、疑われていることを自覚しているくせに、どうしても、ここへ来ないではいられないらしい。

ニョロが近づいてくると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

(子ども……? こんなところで、なぜ?)

ニョロは泣き声にさそわれるように、茂みの奥へ入っていった。
赤ん坊の泣き声は、ますます大きくなる。

ディアディンたちは三人そろって、ニョロの消えた茂みの奥へ首をつっこんだ。

そこに、ちょっとした空き地があった。落ち葉が集められ、寝床になっている。寝床には赤ん坊が寝かされていた。

ニョロにあやされて、キャイキャイ笑っているようすはカワイイ……カワイイが、しかし、その大きさは、ふつうじゃない。赤ん坊の今でさえ、すでにニョロの倍以上あった。
ニョロの腕にだかれて、しがみついているところは、だっこされてるんだか、今しもニョロを頭から丸のみしようとしてるんだか、判別に苦しむ。
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