まぼろしの海3

文字数 2,152文字


案内役はスノーホワイトの少女。

でも、今夜のたのみごとは、みんなが知っているらしい。
地下へ向かうディアディンのあとに、どこからか大勢あらわれて、ゾロゾロとついてくる。

これまでに、ディアディンが助けてやった連中だ。
ジャイアント族。スノーホワイト族。シルバースター族。バラの精。白蛇の精。時計の精。
みんな、見物にやってきたのだ。

「小隊長がトレジャーの洞くつに挑むんだってさ」
「あのお客さまの宝をとりにいくのか」
「成功するかな」
「どうかな。トレジャーは、うんと強いし……」

「きっと、やってくれるよ。小隊長は、あの恐ろしい赤服の巨人をやっつけてくれたし」
「それに、われらの宿敵ピクチャー族だって倒してくれたんだ。小隊長ならできるよ」

「がんばってくださいね。小隊長。ぶじに帰ってくるまで、みんなで待ってます」

応援してくれる気があるのはいいのだが、これだけ大勢で押しかけていけば、いくらなんでもトレジャー族に気づかれてしまう。
気持ちは、ありがたいが、ここで帰ってくれと言おうとして、ディアディンは気が変わった。
いっそ、この状況を利用してやろう。

「洞くつに着く前に聞いておきたいんだが、洞くつに挑むさい、禁止されてることはあるか? たとえば、トレジャー族をなぐってはいけないとか」

すると、シルバースターの美女(以前、案内してくれた巨乳)が教えてくれる。

「なぐったり蹴ったりなんかは自由ですよ。どうせ人間の剣は、トレジャー族には歯が立ちませんから」

スノーホワイトの女の子が地団駄(じだんだ)をふんだ。

「だめェっ。ぼくが案内をまかされてるんだから、ぼくが説明するんです。ぼくの役をとらないでよ」
「説明くらい、させてくれてもいいじゃないの。けちっ」
「ケチでもなんでも、ぼくが小隊長のお役に立つんです」
「なによ。わたしだって」

ディアディンのとりあいを始めるので苦笑した。

「まあまあ。ケンカしてるヒマはない。ここは、シルバースターのおまえが説明してくれ」

ぷくっと、ハツカネズミの精霊がふくれる。

その耳もとに、
「おまえには、あとで、もっと役に立ってもらうから」

言うと、機嫌が直った。

「それで、洞くつに挑む心構えなんだが、なかでしてはいけないことは?」
「いけないことは、とくにないです。でも、トレジャーたちは、こっちが攻撃すると攻撃してきますし、姿を見れば追いかけてきますよ」

「見つかったとたんに襲ってくるんじゃないのか?」
「トレジャーの宝物を持ってないかぎり、襲ってはきません。ただ行動をみはってるだけです」
「それはいい」

「そうですか? どこまでも、どこまでも、追いまわしてくるんです?」
「逃げられないのかな」

「ムリですね。彼らは、ものすごく目も耳も鼻もいいですから」
「やけに、くわしいな」
「じつは以前、キラキラがほしくて、わたしも挑戦してみたんです」

と言って、シルバースターの女は、ため息をつく。

「だけど、入ってすぐに見つかっちゃって。恐れをなして逃げだしました。まあ、あのときは宝を盗む前だったから、すんなり出してくれましたが」

ディアディンは、ある作戦を思いついた。

「じゃあ、最後に、もうひとつだけ聞かせてくれ。この挑戦は何度でもできるのか? 一人一回と決まっているとか?」
「そんな決まりはありません。もっとも、みんなトレジャーを恐れているので、何度も挑戦したりしないですけどね」

ディアディンは笑った。

「おまえたちは、ほんとに正直だな」
「もちろん! 正直はいいことです」

巨乳美女が、ゆたかな胸をはって言いきった。

そのころには、一同、地下の洞くつ前に到着していた。

地下は、幻想的に美しい。鍾乳(しょうにゅう)石におおわれ、どこからか入りこむ月光があたりじゅうに反射している。
洞くつのなかは光ゴケが発光し、さらに明るい。灯火がなくても充分、人間の目でもこまらない。
このなかに恐ろしい宝の番人がいるとは思えないほどだ。

「出てくるときジャマになるから、見物人は少しさがってろ。いいか? どんなことがあっても、絶対に、ここから一歩も前に出るなよ。たとえ、おれが失敗して、なかのやつに、つかまったとしてもだ」

洞くつから十歩ほど離れたところで、通せんぼして、ディアディンは、とりまきたちに誓わせた。

そのあと手招きして、案内のスノーホワイトの少女だけ呼びよせる。

「おまえは、おれの役に立ちたいんだったよな?」
「はい! なんでも言いつけてください」

兵隊のマネなんかして敬礼している。

「そういえば、名前は? まだ聞いてなかった」
「白しっぽです。隊長」

しっぽどころか、全身、まっしろなくせに——と、思いつつ、
「じゃあ、白しっぽ。おまえに、ひじょうに重要な任務をあたえる」
「ニンムって、なんですか?」
「……ああ、まあ、だから仕事だ」
「はいはい」

「これから、おれは洞くつに入る」
「はい」

「おまえは、おれが洞くつに入って、しばらくしたら追ってこい。トレジャー族は、今は一人しかいないんだろ。おれが、やつの目をひきつけておく。そのあいだに、おまえは長姫の客の宝物を——わかったな?」

ネズミの心臓には、これは許容量をこえる恐怖だったらしい。
アリの心臓より小さな度胸だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み