やさしい雨4

文字数 1,591文字


「わあッ、ニョロが赤ん坊のオバケに食べられるぅー!」
「ニョロー、いま助けるぞ!」

双子が大さわぎして、このあと、しばらく、収拾がつかなくなった。

さすがに現場をおさえられて、ニョロは観念した。

「おちついてくれ。ムニョロ、ウニョロ。この子は私の子どもだよ。私を食べたりしない」

「ええッ、ニョロに子ども! オバケの子ども!」
「いつのまに、ニョロランさんは、こんなオバケの子どもを生んだんだ?」

「ウニョロ、変なこと言うなよ。ニョロランさんはオバケじゃないぞ」
「がーん! ニョロランさんはオバケだったのか?」

話が進まないので、ディアディンは双子をニョロから引きはなした。

「おまえたち二人は黙ってろ。おれが話す」

ディアディンが向きなおると、ニョロは目をふせた。

「このごろ、おまえのようすが変だったのは、この子どもを仲間たちにも隠して、一人で育ててたからだな。無謀な狩りをしてたのも、この子の食料だな?」
「そうです。小隊長にまで迷惑をかけて、もうしわけありません」

「そもそも、この子どもは、どうしたんだ? おまえの実の子ってわけじゃないんだろ?」
「こうして見つかってしまったかぎりは、すべて白状します」と言って、ニョロは語りだした。

「ひとつきほど前です。裏庭を見まわっているとき、卵を見つけました。親もいないので、このままでは悪しきものたちに食べられてしまうと思い、安全な場所に隠したのです。卵がかえってからは、食事をあたえ、そだててきました。この子が、ひとりだちできるまで、誰にもナイショにしておくつもりでした」

「ようするに、すて子だな」
「はい」

双子はそろって泣きだした。

「水くさいよ。ニョロ」
「なんで僕らに言ってくれなかったんだよォ」

「すまない。結婚したばかりで、自分の子どももいないのに、よその女が生んだ卵を大事にしてると知れば、ニョロランさんが気を悪くすると思って……」

ディアディンはヘビたちの会話に割って入る。

「いくら秘密を守るためとはいえ、おれに、あんな強烈な酸をあびせてくるなんて、ひどすぎる。まともにかぶってれば死んでたぞ」
「はあ? 追いたてたのはすまなかったですけど、酸というのはなんですか?」

ディアディンは昨夜の一件を話した。ニョロは顔色を変える。

「それは私のしたことではありません。近ごろ、裏庭に出るという、悪しきもののウワサは私も聞いています。そいつの仕業でしょう」

こうして巨大な赤ん坊を見てしまえば、ニョロの秘密がその一点につきることは納得できる。
しかし、昨夜のアレは、じつにタイミングがよかった。

「まさかと思うが……」

ディアディンは、利口そうな目をして大人たちをながめている赤ん坊を見つめた。

「ニョロが卵をひろったのは、ひとつき前だな? ウワサの悪しきものが出始めたのはいつごろだ?」
「そうですね。ここ二十日くらいでしょうか。なあ、ウニョロ、ムニョロ」
「うん。それくらいかな」

「なら、卵がかえったのは?」

ニョロはディアディンの考えに気づいて、ムッとした。

「ちがいますよ。この子がやったんじゃありません。この子は見てのとおり、まだ赤ん坊です。第一、この子は悪しきものではありません」

「そうは言うが、悪しきものが、うろつきだしたのは、ちょうど、この子どもが来たころだ。子どもでいるのも、油断させるための偽りの姿かもしれない」
「ちがいます! いくら小隊長でも、怒りますよ」

巣に子どもをかかえた動物は気が荒くなるという。ニョロも気が立っているらしかった。がんとして、ディアディンの意見を受けつけない。

「まあいい。ここからさきは、おまえたちの問題だ。おれはニョロの隠しごとをあばく、という約束をしたんであって、悪しきものを退治するとは言ってないんだからな。あとは、おまえたちで、なんとかしろ」と言って別れたものの、やはり、気になる。
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