審理の門2

文字数 1,760文字


「わかった。こういうパターンは、たいてい一度、現実の世界に戻ると、どうにかなるんだ。ちょっとのあいだ、待ってくれ」

夢の世界で、にっちもさっちもいかないときは、現実世界で解決のいとぐちが見つかることが、これまでにもあった。

「そういえば、さっき、見まわりと言ってたな」
「悪しきものがナワバリに入ってこないよう、裏庭を見まわっています」
「僕ら、こう見えて戦士なんです」

戦士なら、ミミズではあるまい——

そう考えながら、翌日、裏庭へ行くと、彼らは蛇だった。

あてもなく裏庭をうろつくディアディンの足もとを、わりに大きな蛇が三匹まとまって、ニョロニョロしながら通りすぎたので、すぐにわかった。

ははぁん、こいつらか、と思って見ていると、庭師のリヒテルが通りかかって、ディアディンの目線をたどった。

「ああ、そいつらは殺さないでくださいよ。大事な花の木の幹をかじったり、花を荒らす悪いネズミを食べてくれるんです。人間は襲いませんから」

それだけ言って、忙しそうに肥料を運んでいく。

「なるほど。活躍してるじゃないか。それにしても……」

昨夜の三人は頭のてっぺんから、つまさきまで、鏡に映った一人の姿のようにそっくりだった。

だが、本体を見れば、ひとめでニセ者がどれだかわかった。
三匹のうち二匹は雪のような純白だが、一匹は黒かったのだ。
これで、どうして他の二匹が騙されているのか、不思議なくらいだ。

「悪いが、ちょっとガマンしてくれ」

ディアディンは、リヒテルが落としていったロープのきれはしをひろう。黒いやつの首にむすんだ。

次の満月の夜、長姫の部屋へ行くと、例の三人が待ちかまえていた。一人は首にロープをつけられて窮屈(きゅうくつ)そうだ。

「ちょっと、小隊長。なんでこんなことするんですか」
「ニョロが、かわいそうです。すぐに、これをはずしてください」

そうか。ニセ者はニョロか。

ディアディンは、なわをつけたままのニョロに手招きする。

「はずしてやるから、ちょっと来い」

部屋を出て二人きりになった。

「ニョロ。おまえがニセ者だな? かくしてもムダだぞ。そのロープがニセ者のあかしだ」

ニョロは肩をおとして観念した。

「ばれてしまいましたか。やっぱり、小隊長はすごい人ですね。そうです。私がニセ者です。双子や双子のまわりの者たちには、魔法で錯覚(さっかく)させているんです」

「なぜ、そんなことを?」

問いつめられたニョロは、悲しげにうなだれた。

「じつは、私はムニョロたちの言う、悪しきものです。悪しきものと言っても、いろんな一門がおりますが、われらは人間を襲うほどの魔物ではありません。ムニョロとウニョロの種族が戦っているのが、われらの一族でして……」

「長姫の眷族をかじるヤツらだろう?」

「そうです。あれも、われらの一門です。粗暴な連中ですよ。どういうわけか、私は生まれたときから、一門のなかでは落ちこぼれでした。親でさえ、卵のうちに食べてしまえばよかったと言うしまつです。私自身も、どうしても一門に、なじめません。
われらの一門ときたら、自分たちより弱い一門は、みさかいなく襲うし、一門どうしで食いあうし、暗澹(あんたん)たるものです。
私はずっと、仲のよいウニョロとムニョロにあこがれていました。私も彼らの兄弟だったらよかったな、兄弟になりたいな——そればかり考えているうちに、ついに一門を裏切って、こんなことをしてしまいました。ですが、正体がバレた以上、もう、ここにはいられません。もうしわけありませんでした」

そう言って、ニョロが立ち去ろうとするので、ディアディンは呼びとめた。

悪しきものたちは優しい笑顔を見せながら、平気でウソをつくから、一概(いちがい)には言えない。
が、どうも、このニョロすけは、ウソをついているように見えない。
以前、絵のバケモノのときは自分のカンにさからって失敗したので、今度はカンに、したがってみることにした。

「まあ、待てよ。おまえが本気で良きものになろうとしたのなら、ここは長姫に胸のうちを明かしてみては?」

「……そうですね。ゆるしてもらえるとは思えませんが、これまでのことをあやまらなければ。だまって行ってしまうのは卑怯ですね」

というわけで、ディアディンはニョロをつれて、長姫の部屋へ戻った。
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