まぼろしの海5

文字数 2,272文字


宝の山は出入り口から言うと奥側。残りの半分が番人の居住スペースだ。
番人が座るところだけ、ほし草が敷かれている。ふだんは、そこに陣どって、侵入者を待ちかまえているのだ。
番人の前を通らないでは、宝のありかへたどりつけなくなっている。

ディアディンはその場所をくまなくながめた。
すると、宝の山のてっぺん近くの壁に、ぽつりと小さな穴があるのを見つけた。くだり坂の途中にあった、あの穴だ。

(はあん……白しっぽが、ちゃんとアレに気づくかな)

とりあえず、全体は見たので、ディアディンは怪鳥をふりかえる。

「なあ? 宝に手をふれさえしなければ、まだ盗んだことにはならないんだろ?」

やりにくそうに、怪鳥はうなずいた。

「なら、なかに入るのは自由だな。もっと近くで見せてもらおうか。どの宝をもらってくか、じっくり選んでから決めなきゃな」

くふぁーっと、怪鳥が吐きだしたのは、ため息だったのかもしれない。変なやつが来てしまったなあと思っているのだ。

「宝石や黄金は富として持ってるか、貨幣と交換して使うしかない。使いきると、それきりだ。やっぱり魔法の使える魔法具のほうがいいよな。おまえが人間の言葉を話せたらなあ。どの品物に、どんな魔法の効果があるのか、聞いたのに」

「ウークークルクルピー」
「おまえ、腹くだしたみたいな音、たてるなよ」

「クルックルールー!」
「今のは、わかった。腹くだしとはなんだ! と言ったんだな。おこるなよ。かわいい冗談だ」

「クゥルールゥ?」

わかったような、わからないような会話をつづける。

そうしながら、そのへんの宝をさして、あれはなんだ、これはなんだ、ちょっとクチバシで持ちあげてくれと、怪鳥の気を自分にひきつける。

そして、余念なく例の穴をうかがっていると、待ちに待った白しっぽの顔がのぞいた。こっちを見おろしている。いちおう、それくらいの機転はあるらしい。

(よしよし。ちゃんと穴に気づいたな)

たのまれた石うすが、どのへんにあるかはわからない。が、最近に落としたらしいから、この山の表面のどこかにあるだろう。うまくすれば、すぐに見つかって、白しっぽが持っていってくれるかもしれない。

ディアディンは怪鳥の気を、さらに自分にだけ向けるため、奥の手をだした。

「アレコレありすぎて、なんか、疲れてきた。気分転換にカードでもしないか?」

ふところからカードをとりだす。カードやサイコロは、傭兵の数少ない娯楽だ。

ディアディンはサイコロより、いかさまのしやすいカードのほうが好きだ。部下から有り金をしぼりとっても、おもしろくないので、砦でイカサマはしないが、カードを持ち歩くのは、傭兵のたしなみだ。

もっとも、カードはともかく、香水をもっていたのは、たまたまだった。どうやら、今夜、自分はついている。

「あれ? カード、見たことないのか? しょうがないな。カードの説明からしなけりゃいけないのか」

ディアディンは怪鳥の前にカードをひろげてみせ、ときおり、かんたんな手品をおりまぜながら、遊びかたを教えてやる。
おかげで宝の番人の目は、大切な宝から離れ、ディアディンの手元に釘づけだ。

「だいたい、わかったろ? じっさいに遊んでみよう。最初は温情で、おまえがルールになれるまで、賭けはなしにしてやるよ」

さきに壁にもたれて座ったのは、怪鳥が宝に背をむける位置に誘導するためだ。

むかいあって座ると、ディアディンからは、天井付近の穴から這いだしてくる白しっぽがよく見える。正体がネズミなだけに、岩肌のでっぱりに手足をかけて、じょうずに下りてくる。

ディアディンがカードを切るあいだに、白しっぽは宝の山におりたった。
目的の石うすは、上から見たときに目星をつけていたらしい。音もなく宝の上を走ると、灰色の石ころのようなものをひろいあげた。
ふだん、人間の目を盗んで、台所から小麦をかっさらっているだけに、なれたものだ。

あとは来たときと同じく、壁をよじのぼって穴から出ていけばいい。

(これなら、万一のときの作戦は必要なかったかな)

万一の、というより、ディアディンの作戦はそっちがメインだった。

長姫の眷族は悪いやつらではないが幼稚だし、どこか頼りない。
まあ、そんなだから、ディアディンをたよってくるハメになるのだ。

今回も白しっぽに任せきりでは、どうせムリだろうと、たかをくくっていた。
でも、あんがい、思っていた以上の働きを、白しっぽはしてくれた。

「番人には手がないんだっけ。おれに見えないよう、手札を置いとく机が必要か。その手札、まだ、かくしとけよ。今、そこの机をはこんできてやる。今は運ぶだけで、盗むわけじゃないからな。おれをつかまえたりするなよ」

手札をくわえたまま、怪鳥がうなずく。

すばやく、白しっぽは宝のかげに隠れた。それを見すまして、ディアディンは金銀財宝に埋もれた机をはこんでくる。

そのあと、ディアディンは宝の番人と勝負を数回した。勝負は勝ったり、負けたり。

番人は初めてのカード遊びに夢中になっている。
これなら作戦二で考えていた、イカサマギャンブルでお宝をまきあげるというのも、充分いけそうだ。
いつか宝の強だつに再戦のチャンスがあれば、この作戦を使ってもいい。

さあ、白しっぽも、とっくに洞くつから出ていったことだろう。

と思って、ディアディンが顔をあげると、おどろいたことに、白しっぽは、まだ宝の山にいた。しきりにキョロキョロ、何かを探している。
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