薔薇戦争3

文字数 1,786文字



さて、次の満月が来た。

「さあ、今夜こそ、どちらが美しいか、決めてくださるのでしょうね?」

長姫の前につれだされ、両側からつめよられる。

「まあまあ、キレイな顔して、にらむなよ。どうだろう。しばらく個別に両家と話してみたいんだが」
「いいでしょう。こちらへ来てください」

ルビー家のほうが少しばかり気性が激しいらしく、オパール家が口をだす前に、さらうようにしてディアディンをつれていく。
一家の住居らしき赤い部屋に入れられた。壁から、絨毯(じゅうたん)から、一式、赤い。

「うちの子は美しいでしょう? もっと近くで見ていいですよ。穴があくほど見ても、非の打ちどころがないですからね」
「うん。うん。たしかに、すばらしい美女だ。ビロードのような赤い髪。シルクのような肌——」

それから、たっぷり三十分も、ディアディンは、ほめ続けた。
人間なら、うさんくさく思うほど大げさなお世辞でも、精霊たちは喜んで聞いている。
代表の娘が、ウットリとなったところで、そっと、耳もとでささやいてみる。

「いっそ、おれの妻にほしいな。どこかで二人きりで会えないか?」

さて、吉とでるか、凶とでるか……。

かたずをのんで待っていると、赤いバラの精は、ディアディンの手をにぎりしめてきた。

「あとで、花びらの間に来て。あそこなら、儀式のときしか誰も来ないから」

ディアディンが、ほめたときの長姫やバラの精たちの反応を見て、あんがい、いけるかなと思っていたが、うまくいった。
バラの精たちにとって、人間に愛されることは、心からの喜びなのだ。

「じゃあ、一時間後に。おれはオパール家のやつらを、てきとうに、あしらってくる。明かりを消して待っててくれ。決して声をたてるな。誰かに見つかってはいけない」

ささやきかわして、ディアディンは立ちあがった。他の赤バラたちに向かって言いわけする。

「今度はオパール家へ行ってみる。まあ、おまえたちのほうに決まったようなものだけどな」

こう言っておけば、ルビー家の連中も、しばらくはおとなしくしているだろう。

廊下には、ディアディンをさらわれたオパール家の面々が、手ぐすねひいて待ちかまえていた。

「来た!」

それっと、よってたかって自分たちの住居へ、ディアディンをつれていく。

「ねえ、ルビー家のやつらときたら、乱暴で強引でしょう? 本当の美しさには、やはり優雅さがある。そう思いませんか?」
「そうそう。そのとおり。おれも、そう思ってたんだ。その点、おまえのとこの代表選手は、上品そのものだよ。これ以上ないほど気品がある」

白バラの美女(のような美青年のような)をくどきたおすと、こっちもディアディンの言いなりになった。

ディアディンはコウモリのように、たくみにウソをつき続ける。なんだか一生ぶんのウソをついた気分だ。

「これから花びらの間へ来てくれないか? 結婚しよう」

こくん、と、うなずくので、

「誰にも見つからないように、明かりを持たずに来てくれ。なかへ入っても声をだすなよ」

すばやく耳うちして立ちあがる。

「おれは、おまえたちのほうに決めようと思う。でも、いきなり、長姫の前で告げられたら、ルビー家も面目がないだろう。今から伝えてくるから、少しのあいだ待っててくれ」

上機嫌の白バラたちの前から脱出すると、あとは暗がりをもとめて脱走をはかる。
物置らしい小さな部屋をみつけて、もぐりこんだ。妙に甘い香りのする、壁も床もネバネバの変な部屋だが、このさいゼイタクは言っていられない。

(なにしろ、子どもみたいな連中だからな。だまされたと知ったら、どうするだろう?)

二十分たち、三十分たつと、小隊長は遅いじゃないかと、さすがにバラの精たちはさわぎだした。
白バラと赤バラのどっちなのか、かくれているディアディンには知りようもないが、小隊長を返せと訴えている。

「なにを言うか。小隊長はおまえたちのところだろう? おまえたちこそ、早く返さないか。小隊長は、うちの子に決めたと言ったんだ」

「小隊長は、われらのほうに決めたから、おまえたちに断ってくるとおっしゃったんだぞ。変な言いがかりをつけないでくれ」

「変なことを言ってるのは、おまえたちだ。われらがウソをついてるとでもいうのか?」
「そうだ。おまえたちはウソつきだ」
「なに! われらを侮辱すると許さないぞ」
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