星のかけら2

文字数 1,989文字


その夜、いちおう、起きていられるかぎり、起きていようと、ディアディンは考えていた。しかし、いつのまにか眠っていた。

目がさめたのは、夜中だというのに、カラスのなき声がしたからだ。

いや、それとも、やはり眠ったまま夢を見ていたのだろうか?

夢のなかで室内を見まわすと、暗闇のなかに、見なれぬものがモゾモゾしていた。

机のあたりをうろうろしているのは、遠目には手乗りのサルみたいなものだ。ポケットにも入りそうな小さいのが二つ、助けあいながら机をよじのぼっている。

ディアディンは物音をたてないようにして、ベッドからおりた。腰をかがめたまま近づいて、寝台のかげから、いっきにとびだす。

「よし! つかまえたぞ。このイタズラこぞう」

小さいので、一匹はつかみそこねたが、一匹はつかまえた。
手のなかのものを見て、ディアディンは軽い立ちくらみをおぼえた。

「うそ……だろ?」

サルだろうと思っていたのは、サルではなかった。サルはサルだが、ただのサルじゃない。あまりサルらしくないデフォルメの、ぬいぐるみのサルだ。それが赤い服をきて、チョコチョコ動いているのだ。一匹なんか、頭に花かざりまでつけている。

どうやら、また長姫の世界に来てしまったぞ……。

「さては、おまえたちだな。シルバースターの宝物庫から、宝を盗みだしたのは。盗んだ宝をどこへやった?」

ディアディンの手をのがれようと、じたばたする(花かざりのほう)ので、ちょっと強くにぎる。
すると、もう一匹のほうが、つぶらな黒い目をうるませて、小さな手でディアディンの足にすがりついてくる。

「……そんな目で見るなよ。こいつを離してほしければ、盗んだ宝のありかに案内するんだ」

自由なほうは、ションボリしながら、ちょこまか歩きだす。いちおう、こっちの言ってることは理解しているらしい。

「そうそう。宝をかえせば、ゆるしてやらないこともない」

ときおり心配げに、ディアディンにつかまれた、つれをふりかえりながら、よちよち歩きの子どもみたいに歩いていく。

あとをつけていくうちに、城内のようすが、見なれたものではなくなった。長姫の領域に入ったのだ。
シルバースターの女がやってきて、ディアディンに声をかけた。

「今夜は満月ではないのに、よく来られましたね」
「こいつらのせいかな。おまえたちの宝を盗んだやつらだ」

女は首をかしげた。

「これは、われらの眷族ではありませんね」
「そうなのか? おれの頭にウジをわかせそうな、この愛くるしさ。てっきり、おまえらの仲間だと思った」

シルバースターの女は、ぎゃぎゃっと奇声をあげて、ディアディンをおどろかせた。笑い声だったらしい。

「小隊長殿は、こんなに小さい無力なものが苦手なんですねえ。まあ、離してやってください。宝さえ返してもらえれば、われらは、この子たちを傷つける気はありません」

「逃げても知らないぞ」
「逃げやしませんよ。もう降参しています。負けをみとめたものを、いたぶるのは卑怯です」

願いをきいてやって卑怯者呼ばわりされたんじゃ、わりにあわない。
女がいいと言うなら、まあいい。
ディアディンは手をはなした。

ぬいぐるみのサルは、ひらいた手のなかから、ピョコンと元気よくとびおりた。かけよってきた、もう一匹と抱きあっている。

キイキイ言ってるが、シルバースターには、サルたちの言葉がわかるようだ。

「兄妹ですね。『おにいちゃん。こわかったよ』『もう大丈夫だよ』と言っております」
「おさない兄妹か」
「そのようです」

手をつないで歩いていく二匹を追っていく。

まもなく回廊にかこまれた噴水(ふんすい)のある庭についた。
樹木のウロのなかが、子ザルたちの寝床であり、宝のかくし場所だ。

「あります。あります。われらの宝。ああ……やっぱり、キレイ。でも、これはなんでしょう?」

うろの奥に、青白く光るスープ皿みたいなものがあった。かすかに、またたきながら、ぼんやり光をはなち、それはそれは美しい。

子ザルたちがキイキイないた。

「星? 星だと言っておりますよ。これに乗ってきたのだそうです。なになに、ここまで来たときに、星がこわれて割れてしまった。これがないと帰れないので破片をさがしている……と。それはキラキラ光って、とてもキレイなものであると。ああ、それで、われらの宝物庫をあさっていたのですか」

ディアディンは、宝が戻ってきたのだから、もういいなと、いつ言ってやろうかと、口をはさむスキをうかがっていた。が、けっきょく、言えなかった。

「えッ? これが直らないと、ママに会えなくて、さびしくて死んでしまう? それは、かわいそうだ。なんとかしてやらないと。いますぐ、なんとかしてやらないと」

じっと三人(三びき?)に見つめられて、うッと、ディアディンは言葉につまった。
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