その①

文字数 3,500文字

 夏休みが終わり、水蠆(やご)(いけ)高校は二学期を迎えた。まずは始業式。熱気がごった返す体育館の中で、校長先生のありがたそうな話を聞く。

「一年生にとっては最初の夏が終わりました。きっと、中学時代の流れのままの休日だったでしょう。しかしこれからはそうはいきません。二年生にとっては、高校生活が約半分終わりました。いよいよ後半戦です、気合いを入れていきましょう。そしてそして、三年生にとっては、最後の夏が終わりました。大学を受験する者、就職する者、色々でしょうが、ここからが勝負です。本学校の生徒として恥も悔いもない学校生活を……」

 熱さに負けない熱量で演説はなされるが、生徒たちは上の空。真面目な子ですら、ちゃんと聞いてはいないだろう。

(早く終われ…)
(長えよハゲメガネ…)

 心の声が聞こえてきそうだ。
 その数分後、賞状の授賞式があって、それで始業式は終わった。


 教室に戻ると、生徒たちは席に着いて一斉に、うちわを仰いで涼んだ。中にはクーラーのスイッチを勝手に入れる者、扇風機まで回し始める者、清涼スプレーをまき散らす者など。

「一体いつまで続くんだ、この暑さは?」

 一年四組の生徒である、(むかし)寛治(かんじ)が叫んだ。暦の上では九月なので、秋になっているはずなのだが、上空の太陽は手加減を一切してくれない。

「当分じゃない? 天気予報はそう言ってたよ」

 隣の席の(あき)(あかね)がそう答えた。実際に携帯電話を手に取って、ニュースサイトを見てみる。

「ほうら」

 検索結果によれば、まだ一週間ほどは涼しくならないらしい。

「勘弁してくれよ、死ぬ! 人間の蒸し焼きができちゃう!」
「そう簡単には死なないでしょう。熱中症と日射病に気をつければ」

 そんな会話をしていると、担任の藪繁(やぶしげ)太郎(たろう)先生が入ってくる。

「みんな、戻ったか?」

 そう言えば、みんなが教卓の方を向く。それを見れば、出欠確認はそれで終わり。いない生徒はいない。
 しかし、教室の後ろには空席が二つ。それを生徒たちに指摘されると、

「そうそう! 今日はみんなに転校生を紹介するぞ! 何と二人いる! さあ、入って来てくれ!」

 と言い、廊下で待たせている二人を招き入れた。
 二人とも、男子生徒だ。

「自己紹介を」

 頷き、まず最初に入ってきた男子が口を開いた。

小鬼(こおに)蓬莱(ほうらい)です。千葉県の別の市の学校にいました。よろしくお願いします」

 彼はそう言うと、頭を下げた。落ち着いた雰囲気の生徒だが、どこか冷たそうでもある。

「俺は、八重山(やえやま)斿倭(りゅうわ)。埼玉県出身です。早くみんなと仲良くしたいと思ってます、よろしく!」

 もう一人の方は蓬莱とは逆で、フレンドリーなイメージを抱かせる。

「みんな仲良くしろよ? さ、二人とも席に着いて。二限は数学だぞ!」

 後ろの空席に二人は座った。斿倭はすぐに横を向いて、

「同じ日に転校してくるとは、珍しいな。よろしくな」

 と、手を差し伸べたのだが肝心の蓬莱の方はというと、隣を向きはしたのだが、

「……」

 無言でスルーした。斿倭は無視されたことに立腹せず、教科書とノートを開いて前を向いた。


 この日の放課後は、転校生の話題で持ちきりだ。

「ねえ斿倭君に蓬莱君、学校内を案内するよ!」

 蒐が二人に声をかけた。彼女は彼らの前の席で、担任にも案内を頼まれたのだ。

「そうか! それは助かるよ、ありがとう」
「………私は、別にいいのだが…」

 しかしつれない返事をする蓬莱。

「それじゃあ困るよ! ちょっと来て!」

 蒐は強引に蓬莱を連れ出した。
 廊下に出て、保健室はどちらだとか、体育館に行くにはどの道を行くかを教えてもらう。

「んで、こっちに行くと美術室! 上は音楽室で、その上はコンピュータ室だよ。わからなくなったら、いつでも私に聞いてね」

 ウインクしながら教える蒐。

「じゃあ、購買部や食堂はどっち?」
「ああ、それね。その場合は……」

 斿倭の方は、彼女と早く打ち解けれている。が、蓬莱はそうではない。早く終わって欲しいという感じの顔だ。
 他にも斿倭は蒐に、授業の進行スピードが遅れていることなどを指摘していた。その間に蓬莱は、

「あれ、どっか行っちゃった?」

 何と二人からはぐれてしまったのだ。

「迷子になってるかもしれないよ、探さなきゃ!」
「おいおい…。何でいなくなんだよ…! もう世話が焼けるな!」

 走りだそうとした斿倭はを、蒐は止める。

「待って。一発で見つける方法があるの」
「えぇ?」

 蒐は胸ポケットから、ある物を取り出した。斿倭は当初、携帯で連絡を取るのかと思っていたが、その品は何と、校内の地図。それを床の上に広げて、さらにペンデュラムも取り出すと、

「これは、おまじないなんだけどね……探している人が、どこにいるのかを占うの」
「そんなので、見つかるのか?」
「まあ、見てて!」

 すると蒐、ペンデュラムを地図の上で揺らす。そして信じられないことが起きる。何と、ペンデュラムは物理法則を無視し、とある一点を指し示したのだ。

「理科室の前だね。じゃ、行こうか!」
「…………」

 この光景、本来ならば驚くべきことだ。だが斿倭は表情をピクリとも動かさない。

「やはり、お前もか」
「はい?」
「噂には聞いていたぜ。神通力者が集められている学校があるって、な」

 神通力という単語に、蒐も反応。

「じゃあ、あなたも?」
「そうなんだ」
「見せて」

 当然自分に神通力があると言えば、そのように言われる。しかし斿倭にはそれをかわす術がある。

「ここでは使えないんだ、ごめん。お前に危害を加えるのは、嫌な思いしかしないし」

 そう言われれば、蒐も無理に見せてみるとは言えない。

「……わかった。でももし使う時があったら、私にも見せてね」
「ああ! 約束だぜ!」

 二人はまず、蓬莱を探し出すことに専念。二階にいたので階段を降りて、さらに廊下を曲がる。

「いたぜ! もう、勝手にウロチョロすんなよな!」
「……ああ、すまない。ちょっと喉が渇いて水を飲んでいた」

 口だけの謝罪だ。蓬莱は本心で、謝っていない。

(何でここがわかった? 私は後ろを確認し、追われていないと判断したのに…。短時間でここを当てるとは、何をしたんだ?)

 疑問に思う。口にも顔にも出さないが、疑いは抱く。

「まあいいよ。それより案内はまだ終わってないんだ。今度は部活を見に行こうよ!」

 蒐はそう言って、二人を引っ張った。でも、

「俺、前の学校では部活なんてしてなかったんだよ……」

 斿倭がそう漏らすと、ここぞとばかりに便乗して蓬莱も、

「私も、学業に専念していたから…」

 と言う。つまりは部活動に関心はない、と。

「そう? じゃあ今日はここまで! 一旦教室に戻ろうか!」

 三人は一度、クラスに戻る。
 そこで待っているのが、(しろがね)(つかさ)
「やあ転校生! まさか、凡人なわけがないよな?」
「どういう意味だ?」
「濁すなよ、面倒だろう? 早い話、神通力を俺に見せな。今日はそれで勘弁してやるよ」
「勘弁……?」

 その言葉に、斿倭は反応する。そして蓬莱は、あることを察する。

(噂通りだな、この学校…! やはり意図的に神通力者が集められている。しかも厄介なことに、彼らはそれを自覚している! つまりは教室にいる生徒たち全員が自分たちのことを、神通力者とわかっている! 当然、入ってくる転校生も! ここで私の神通力を見せるのはちょっと………難しいこともあるが、避けたい…)

 しかし、ここは斿倭、

「いいぜ、その言葉を取り消させてやる!」
「ほほう? 俺に歯向かう気か、お前! やめとけやめとけ、俺の神通力は強い。敵うはずないんだ、お前みたいな雑魚が!」
「やってみないと、わからないじゃないか! そんなこと!」
「そこまで言うなら、いいぞ。体育館の裏に来い!」

 司は場所を指定した。

「ああ! 売られた喧嘩は買うっきゃねぇえ!」

 まずは司が教室を出た。それから斿倭と蒐も体育館裏に向かう。

(さっきの言葉が事実なら、斿倭も神通力者……。それを見極める義務が、私にはある)

 そう判断した結果、蓬莱もついて行くこととなった。
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