その⑤
文字数 2,061文字
銃口を彼に向け、トリガーを引く。
「……!」
これを蓬莱は凄まじい反応速度で避けた。そして同時に、ケルベロスが動いた。
「来るか!」
だが、ベンサレムに背を向けたのだ。
「……?」
意味がわからないベンサレム。だがその真意を直後に知ることになる。
何と、ガルーダに後ろから肩を掴まれたのだ。
「おわっ! バカな、いつの間に?」
「既に、だ。この吹雪、そして目の前にはケルベロス。嫌でも視線は狭く、そして釘付け。だからきみは私のズボンから足元に降りたヒヨコの存在に気がつかなかった! そのヒヨコがガルーダに変わって空を飛び、きみの背後を取ったのだ!」
ケルベロスで攻撃するつもりは、最初からなかったのである。
「離せ、この鳥め!」
ベンサレムがそう叫ぶと、ガルーダは爪の力を緩めて簡単に彼を放した。
「お、おい待て!」
真下には、ユニコーンが角を構えて待機している。落下したベンサレムの体は、その角に貫かれた。
「ぐがああががぎああああがあああ!」
だが、この程度では神通力者は死に至らない。
(な、何の! このユニコーンにワタシの神通力を使えば、角を抜く必要すらない! 待っていろホウライ! すぐに同じ痛みを味あわせてや……)
ここで、彼は気づく。足に既にクラーケンの触手が絡んでいる。しかもその先にいるのはクラーケンの胴体だけではない。炎が生き物のように蠢いていているのだ。自律する火、クトゥグアである。
「燃やし尽くす! 消え去れ!」
逃げようとしたベンサレムのとった行動はシンプルだった。ナイフを蓬莱目掛けて投げる。だがそれはトウテツの角に弾かれる。
(こ、こうなったら! クトゥグアがワタシに触れるその瞬間に神通力を使うしかない! そうすれば火傷はするだろうが、ワタシが死ぬことはない!)
そして考えたことを実行して見せる。物凄い熱さを感じ実際に皮膚が焼け焦げたが、クトゥグアに対して神通力を使えた。
「これでいい! ……ん?」
しかし、それが実は罠だったのである。
「何だこの寒さは? こんなに吹雪は厳しかったか?」
急にくしゃみが出て、しかも鼻水が凍るほどだ。
「きみの神通力……深くはわからない。だが、何か相手に触れなくて済むような力だろう。だとしたらクトゥグアに燃やされてもピンピンしているのは納得だ。でもその炎、きみのために必要だったら?」
「何を言う、ホウライ?」
蓬莱の横には、ウェンディゴがいる。この精霊が、周囲の吹雪を強烈なものにしているのだ。
「私と斿倭は温かい。クトゥグアの炎が真から体を温めてくれているからだ。でもきみは……?」
「し、しまった!」
そう、この時ベンサレムは寒さに抗う術を無くしたのである。このままでは凍死してしまうほどの寒さが彼を襲っているが、今神通力を解けば、クトゥグアの炎に焼かれて死ぬ。かと言って解かなければ、ウェンディゴに凍りつけさせられて死ぬ。
「く、クソ! ソイツにも神通力を使ってやる!」
ブルブル震えながら手を伸ばした。だが、ウェンディゴの前には、ユニコーンやクラーケン、ガルーダにケルベロス。見事に行く手を遮られている。
「邪魔者はワタシの神通力で……!」
干渉できなくさせれば、邪魔されることはない。だが、足が動かない。凍りついている以外にも理由がある。
(何だ……? 急に眠たくなってきたぞ? どうして眠い……んだ?)
その場に、バタリと倒れこんだベンサレム。瞼は閉じてしまっている。
「終わったな……」
すると、さっきまで影響を受けていなかったクトゥグアの炎が、ベンサレムの体を燃やし始めた。
「うわっ! コイツ、こんなところにいたのかよ!」
神通力が解かれたので、斿倭はベンサレムのことをようやく認識することができた。しかし戦いは既に終わっていた。
「よくわからない神通力だった。でももう大丈夫だ、斿倭! さあ、次に行こう!」
突然、吹雪が止んだ。
「おいコラ! 大人しくしろ!」
この吹雪の原因であるイーハトーヴが、将元と友里恵に捕まったのだ。疲労感を押し付けられ、しかも持ち上げられてしまってはもう手が出せない。
「………クッソ~! こんな奴らに…!」
悔しそうな表情だ。しかし極度の疲労感から、イーハトーヴは寝てしまった。隣にはニライカナイもいたが、彼は抵抗することなく投降。
「見つかったんじゃ、仕方がない…」
吹雪も環境汚染もこれで防げる。
同じ頃、オフィユカスはシャングリラと戦っていた。
「はひぃいいい………」
シャングリラは結構戦闘慣れしている神通力者だったが、オフィユカスの敵ではなかった。彼女の体を植物の根で拘束するとオフィユカスは吹雪が晴れたことに気づき、辺りを見回した。
「な、何ですかこれ……?」
近くで、戦いがあった様子だ。だが、かなり一方的だったらしい。
「……!」
これを蓬莱は凄まじい反応速度で避けた。そして同時に、ケルベロスが動いた。
「来るか!」
だが、ベンサレムに背を向けたのだ。
「……?」
意味がわからないベンサレム。だがその真意を直後に知ることになる。
何と、ガルーダに後ろから肩を掴まれたのだ。
「おわっ! バカな、いつの間に?」
「既に、だ。この吹雪、そして目の前にはケルベロス。嫌でも視線は狭く、そして釘付け。だからきみは私のズボンから足元に降りたヒヨコの存在に気がつかなかった! そのヒヨコがガルーダに変わって空を飛び、きみの背後を取ったのだ!」
ケルベロスで攻撃するつもりは、最初からなかったのである。
「離せ、この鳥め!」
ベンサレムがそう叫ぶと、ガルーダは爪の力を緩めて簡単に彼を放した。
「お、おい待て!」
真下には、ユニコーンが角を構えて待機している。落下したベンサレムの体は、その角に貫かれた。
「ぐがああががぎああああがあああ!」
だが、この程度では神通力者は死に至らない。
(な、何の! このユニコーンにワタシの神通力を使えば、角を抜く必要すらない! 待っていろホウライ! すぐに同じ痛みを味あわせてや……)
ここで、彼は気づく。足に既にクラーケンの触手が絡んでいる。しかもその先にいるのはクラーケンの胴体だけではない。炎が生き物のように蠢いていているのだ。自律する火、クトゥグアである。
「燃やし尽くす! 消え去れ!」
逃げようとしたベンサレムのとった行動はシンプルだった。ナイフを蓬莱目掛けて投げる。だがそれはトウテツの角に弾かれる。
(こ、こうなったら! クトゥグアがワタシに触れるその瞬間に神通力を使うしかない! そうすれば火傷はするだろうが、ワタシが死ぬことはない!)
そして考えたことを実行して見せる。物凄い熱さを感じ実際に皮膚が焼け焦げたが、クトゥグアに対して神通力を使えた。
「これでいい! ……ん?」
しかし、それが実は罠だったのである。
「何だこの寒さは? こんなに吹雪は厳しかったか?」
急にくしゃみが出て、しかも鼻水が凍るほどだ。
「きみの神通力……深くはわからない。だが、何か相手に触れなくて済むような力だろう。だとしたらクトゥグアに燃やされてもピンピンしているのは納得だ。でもその炎、きみのために必要だったら?」
「何を言う、ホウライ?」
蓬莱の横には、ウェンディゴがいる。この精霊が、周囲の吹雪を強烈なものにしているのだ。
「私と斿倭は温かい。クトゥグアの炎が真から体を温めてくれているからだ。でもきみは……?」
「し、しまった!」
そう、この時ベンサレムは寒さに抗う術を無くしたのである。このままでは凍死してしまうほどの寒さが彼を襲っているが、今神通力を解けば、クトゥグアの炎に焼かれて死ぬ。かと言って解かなければ、ウェンディゴに凍りつけさせられて死ぬ。
「く、クソ! ソイツにも神通力を使ってやる!」
ブルブル震えながら手を伸ばした。だが、ウェンディゴの前には、ユニコーンやクラーケン、ガルーダにケルベロス。見事に行く手を遮られている。
「邪魔者はワタシの神通力で……!」
干渉できなくさせれば、邪魔されることはない。だが、足が動かない。凍りついている以外にも理由がある。
(何だ……? 急に眠たくなってきたぞ? どうして眠い……んだ?)
その場に、バタリと倒れこんだベンサレム。瞼は閉じてしまっている。
「終わったな……」
すると、さっきまで影響を受けていなかったクトゥグアの炎が、ベンサレムの体を燃やし始めた。
「うわっ! コイツ、こんなところにいたのかよ!」
神通力が解かれたので、斿倭はベンサレムのことをようやく認識することができた。しかし戦いは既に終わっていた。
「よくわからない神通力だった。でももう大丈夫だ、斿倭! さあ、次に行こう!」
突然、吹雪が止んだ。
「おいコラ! 大人しくしろ!」
この吹雪の原因であるイーハトーヴが、将元と友里恵に捕まったのだ。疲労感を押し付けられ、しかも持ち上げられてしまってはもう手が出せない。
「………クッソ~! こんな奴らに…!」
悔しそうな表情だ。しかし極度の疲労感から、イーハトーヴは寝てしまった。隣にはニライカナイもいたが、彼は抵抗することなく投降。
「見つかったんじゃ、仕方がない…」
吹雪も環境汚染もこれで防げる。
同じ頃、オフィユカスはシャングリラと戦っていた。
「はひぃいいい………」
シャングリラは結構戦闘慣れしている神通力者だったが、オフィユカスの敵ではなかった。彼女の体を植物の根で拘束するとオフィユカスは吹雪が晴れたことに気づき、辺りを見回した。
「な、何ですかこれ……?」
近くで、戦いがあった様子だ。だが、かなり一方的だったらしい。