その①
文字数 3,209文字
「着いたな…!」
シャイニングアイランドの目の前に来た。友里恵からメールで、『夜空の黄道』もここに向かっていることはわかっている。きっと中で待ち伏せしているのだろう。
「既にレオ、キャンサー、リブラは倒せている。駅前でアクエリアスとパイシーズだっけ? 斿倭が倒した。他にも名称不明だが、将元と友里恵が倒した神通力者も二人。合計七人。『夜空の黄道』はあと五人だろう」
そこまでは簡単に推測できる。推理が難しいのはここから先。
「では、残っている『夜空の黄道』たちはどんな形でこのシャイニングアイランドに潜んでいるのか? そして見られたくないものとは何か? 守りたい何か、がここにあると思われるのだが……」
既にそんなものがないことを知っている蓬莱には、見当がつかない。
「あるさ! きっとな! それを見つけ出すんだ!」
根拠のないことを斿倭が叫んだ。
(彼の前向きな発想は、見習うべきだな)
直感した蓬莱は、
「では、入ろう。将元と友里恵を待っていては、時間の無駄だ」
異議はなし。四人は鎖や有刺鉄線を飛び越えてシャイニングアイランド内部に侵入した。
廃園と言うものの、荒れている感じはあまりしない。
「確かにアトラクションのいくつかは壊れているみたいだけど、再建できないレベルではないよな? どうしてシャイニングアイランドは崩壊したんだろう?」
「その答えも、ここにあるかもよ?」
歩いている四人の内、蓬莱が違和感に気づく。
「止まれ!」
「どうした?」
「おかしい。あそこを見てみるんだ」
指差す先には、草むらがある。廃園になってからアスファルトを突き破って生えたのだろう。
「それがどうかしたの?」
苺がそう返すと、
「その隣だ!」
指の向きをちょっと変える。その先にも草むらがあるが、それは枯れている。その周りは少し濡れている。
「変だな…? 一メートルも離れてないのに、元気な草と枯れた草……。この差は何だ?」
首を傾げ、前に進む斿倭。すると、
「危ない!」
蓬莱が彼のことを引っ張って戻した。
「何だよ一体?」
「あそこだ!」
近くの売店のような建物の上に、人がいるのだ。
「ええ~バレたの? まじありえなくなーい?」
女である。彼女は手を振って水滴を飛ばしている。
「だるーい! でもちゃんと面倒みないと怒られちゃうし~? じゃあ始末するしかないじゃーん!」
彼女のコードネームは、スコーピオ。
「やい、降りて来い! 俺と勝負だ!」
唯一戦闘向きの神通力を持つ斿倭が叫んだ。
「え、何々? このスコーピオと戦って勝とうっていうの? チョーウザいんですけど? つーか、そんなの無理だし~?」
「やってもいないのに、よく言うぜ!」
「だってだーってぇ? アンタに負ける未来が見えない、みたいな? キャハハ!」
「そんなに自信満々なら、なおさら降りて来いよ!」
「めんどーい! ここからでもアンタを叩けるし? まあ別にいいじゃん?」
この時斿倭は、スコーピオには大した実力がないと思い込んでいた。
スコーピオはまた、指を弾いて水滴を撒いた。それを斿倭は避けた。
(大したことはないんだろうけどな、念のため……)
だが、それで正解だった。斿倭の足元には大きめのバッタが一匹いたのだが、スコーピオが繰り出した水滴がかかった瞬間、苦しみだしてそして死んだのである。
「毒…?」
本能的にそう呟いた。
「あっあ~! 何故かウチの神通力、バレてんじゃーん! おかしいな、今ので仕留められるはずだったのに~!」
危険を感じた斿倭は地割れを起こして売店の建物を崩壊させた。するとスコーピオはジャンプして地面に着地する。
「す~ごいね、アンタ! でもウチも負けてないし~?」
彼女の神通力は、指先から極めて危険な毒を繰り出すことである。近づくことは自殺行為そのもの。そしてそれを無意識の内に感じ取った斿倭は、ゆっくりと後ろに下がる。
「えええ? 逃げんの? やだやだ、チョーイケてないじゃん! カッコわ~る~い!」
明らかな挑発だ。
「蓬莱!」
突然斿倭が叫ぶ。
「どうした斿倭?」
「コイツは俺に任せて、先に進んでくれ。必ず後で追いつく!」
斿倭に任せてばかりでいいものか、蓬莱は悩んだ。だが斿倭の頼もしい背中を見て、
「……わかった! きみも十分気をつけてくれ!」
蒐や苺と共に先に進んだ。
「アンタ一人? チョーつまんないじゃん! これなら来ない方が一億倍マシだった~!」
「……言わせておけば、言ってくれるぜ…」
あの水滴が届かないほど離れてしまえば、こちらのもの。斿倭でなくてもそう考えるだろう。だが、
「ソーレ、死んじゃえ! キャハハのハ!」
弾き出された毒は、水平に飛んだ。
「おわっ!」
斿倭が顔を振ってかわす。その毒は数十メートル先の木に当たり、根元から枯らして腐らせた。
「かなり射程距離があるらしい……。そして一滴でも浴びるのは危険だ…!」
そう考えると、鳥肌が立つ。
「ええ、ビビってる? キャハ、可愛いね~」
表情を読み取ったスコーピオはさらに挑発を入れる。
「うるさい! 避ければ何も関係ないだろう!」
感情を逆なでされた斿倭は強がってみせた。
「ならさ~あ? やってみせてよ。どーせ無理じゃない?」
「……一気にカタを付ける!」
叫ぶと同時に動き出す斿倭。向かった先は何と、スコーピオの前。自殺行為とも思える行動だ。
「そぉれ! えーい!」
すかさずスコーピオ、毒を弾き出す。この距離なら確実に当たる。そう思っていた。のだが、
「甘い!」
足元の地面を盛り上がらせた。それは火山がその場にできたかのようだ。当然斿倭はその頂にいて、毒は当たらない。
「何々? いきなり何なの?」
驚いているスコーピオ。その様子を見下ろして斿倭は、
「これでもくらえ!」
火山を噴火させた。火山弾がスコーピオ目掛けて飛ぶ。マグマも噴き出し、彼女に迫る。
「ふぅん? 面白いねえ。でも意味はないじゃーん」
しかしスコーピオの動きも機敏。瞬くよりも速く逃げ、建物の残骸の上に避難する。瓦礫を持ち上げて、降ってくる火山弾にぶつけて砕いた。
「しかも、ここから狙い放題! いっくよ~!」
一見離れたから攻撃しにくいように見えるのだが、スコーピオには何も問題はない。この程度の距離なら、あってないようなもの。
しかし、彼女は自分の安全を確認してから攻撃に移ろうとした。その間に、
「……あれれ、おかしいな……? どうなってるの?」
地面より噴き出す煙が、斿倭のことを隠したのだ。
(どーせ、煙の中にいればやり過ごせるって思ってるんじゃないの? チョー無駄! あの世で公開すればいーわ!)
手を胸の前で交差させ、そして一気に広げる。広げたら今度は閉じる。これを何度も繰り返し、広範囲に毒をまき散らす。上下左右、隙間はない。
「さ~て死んだかな? どうだろう。死骸を確認しないと怒られそうだし、チョー面倒!」
そう呟きながら煙が治まるのを待っていると、
「悪かったな、面倒で!」
後ろから声がしたのだ。反射的に振り向くと、
「ていあああ!」
斿倭のパンチが既に動き出していた。
「ぐっぷ………!」
既に斿倭は地中に潜って移動し、スコーピオの後ろを取っていたのである。
容赦なく腹を撃ち抜いた拳。まともにそれを受けたスコーピオの意識一瞬で飛んだ。
「危ないヤツだったな……。こんな危険な神通力を持っているとなると、園内にいる『夜空の黄道』たちも強そうだ……」
シャイニングアイランドの目の前に来た。友里恵からメールで、『夜空の黄道』もここに向かっていることはわかっている。きっと中で待ち伏せしているのだろう。
「既にレオ、キャンサー、リブラは倒せている。駅前でアクエリアスとパイシーズだっけ? 斿倭が倒した。他にも名称不明だが、将元と友里恵が倒した神通力者も二人。合計七人。『夜空の黄道』はあと五人だろう」
そこまでは簡単に推測できる。推理が難しいのはここから先。
「では、残っている『夜空の黄道』たちはどんな形でこのシャイニングアイランドに潜んでいるのか? そして見られたくないものとは何か? 守りたい何か、がここにあると思われるのだが……」
既にそんなものがないことを知っている蓬莱には、見当がつかない。
「あるさ! きっとな! それを見つけ出すんだ!」
根拠のないことを斿倭が叫んだ。
(彼の前向きな発想は、見習うべきだな)
直感した蓬莱は、
「では、入ろう。将元と友里恵を待っていては、時間の無駄だ」
異議はなし。四人は鎖や有刺鉄線を飛び越えてシャイニングアイランド内部に侵入した。
廃園と言うものの、荒れている感じはあまりしない。
「確かにアトラクションのいくつかは壊れているみたいだけど、再建できないレベルではないよな? どうしてシャイニングアイランドは崩壊したんだろう?」
「その答えも、ここにあるかもよ?」
歩いている四人の内、蓬莱が違和感に気づく。
「止まれ!」
「どうした?」
「おかしい。あそこを見てみるんだ」
指差す先には、草むらがある。廃園になってからアスファルトを突き破って生えたのだろう。
「それがどうかしたの?」
苺がそう返すと、
「その隣だ!」
指の向きをちょっと変える。その先にも草むらがあるが、それは枯れている。その周りは少し濡れている。
「変だな…? 一メートルも離れてないのに、元気な草と枯れた草……。この差は何だ?」
首を傾げ、前に進む斿倭。すると、
「危ない!」
蓬莱が彼のことを引っ張って戻した。
「何だよ一体?」
「あそこだ!」
近くの売店のような建物の上に、人がいるのだ。
「ええ~バレたの? まじありえなくなーい?」
女である。彼女は手を振って水滴を飛ばしている。
「だるーい! でもちゃんと面倒みないと怒られちゃうし~? じゃあ始末するしかないじゃーん!」
彼女のコードネームは、スコーピオ。
「やい、降りて来い! 俺と勝負だ!」
唯一戦闘向きの神通力を持つ斿倭が叫んだ。
「え、何々? このスコーピオと戦って勝とうっていうの? チョーウザいんですけど? つーか、そんなの無理だし~?」
「やってもいないのに、よく言うぜ!」
「だってだーってぇ? アンタに負ける未来が見えない、みたいな? キャハハ!」
「そんなに自信満々なら、なおさら降りて来いよ!」
「めんどーい! ここからでもアンタを叩けるし? まあ別にいいじゃん?」
この時斿倭は、スコーピオには大した実力がないと思い込んでいた。
スコーピオはまた、指を弾いて水滴を撒いた。それを斿倭は避けた。
(大したことはないんだろうけどな、念のため……)
だが、それで正解だった。斿倭の足元には大きめのバッタが一匹いたのだが、スコーピオが繰り出した水滴がかかった瞬間、苦しみだしてそして死んだのである。
「毒…?」
本能的にそう呟いた。
「あっあ~! 何故かウチの神通力、バレてんじゃーん! おかしいな、今ので仕留められるはずだったのに~!」
危険を感じた斿倭は地割れを起こして売店の建物を崩壊させた。するとスコーピオはジャンプして地面に着地する。
「す~ごいね、アンタ! でもウチも負けてないし~?」
彼女の神通力は、指先から極めて危険な毒を繰り出すことである。近づくことは自殺行為そのもの。そしてそれを無意識の内に感じ取った斿倭は、ゆっくりと後ろに下がる。
「えええ? 逃げんの? やだやだ、チョーイケてないじゃん! カッコわ~る~い!」
明らかな挑発だ。
「蓬莱!」
突然斿倭が叫ぶ。
「どうした斿倭?」
「コイツは俺に任せて、先に進んでくれ。必ず後で追いつく!」
斿倭に任せてばかりでいいものか、蓬莱は悩んだ。だが斿倭の頼もしい背中を見て、
「……わかった! きみも十分気をつけてくれ!」
蒐や苺と共に先に進んだ。
「アンタ一人? チョーつまんないじゃん! これなら来ない方が一億倍マシだった~!」
「……言わせておけば、言ってくれるぜ…」
あの水滴が届かないほど離れてしまえば、こちらのもの。斿倭でなくてもそう考えるだろう。だが、
「ソーレ、死んじゃえ! キャハハのハ!」
弾き出された毒は、水平に飛んだ。
「おわっ!」
斿倭が顔を振ってかわす。その毒は数十メートル先の木に当たり、根元から枯らして腐らせた。
「かなり射程距離があるらしい……。そして一滴でも浴びるのは危険だ…!」
そう考えると、鳥肌が立つ。
「ええ、ビビってる? キャハ、可愛いね~」
表情を読み取ったスコーピオはさらに挑発を入れる。
「うるさい! 避ければ何も関係ないだろう!」
感情を逆なでされた斿倭は強がってみせた。
「ならさ~あ? やってみせてよ。どーせ無理じゃない?」
「……一気にカタを付ける!」
叫ぶと同時に動き出す斿倭。向かった先は何と、スコーピオの前。自殺行為とも思える行動だ。
「そぉれ! えーい!」
すかさずスコーピオ、毒を弾き出す。この距離なら確実に当たる。そう思っていた。のだが、
「甘い!」
足元の地面を盛り上がらせた。それは火山がその場にできたかのようだ。当然斿倭はその頂にいて、毒は当たらない。
「何々? いきなり何なの?」
驚いているスコーピオ。その様子を見下ろして斿倭は、
「これでもくらえ!」
火山を噴火させた。火山弾がスコーピオ目掛けて飛ぶ。マグマも噴き出し、彼女に迫る。
「ふぅん? 面白いねえ。でも意味はないじゃーん」
しかしスコーピオの動きも機敏。瞬くよりも速く逃げ、建物の残骸の上に避難する。瓦礫を持ち上げて、降ってくる火山弾にぶつけて砕いた。
「しかも、ここから狙い放題! いっくよ~!」
一見離れたから攻撃しにくいように見えるのだが、スコーピオには何も問題はない。この程度の距離なら、あってないようなもの。
しかし、彼女は自分の安全を確認してから攻撃に移ろうとした。その間に、
「……あれれ、おかしいな……? どうなってるの?」
地面より噴き出す煙が、斿倭のことを隠したのだ。
(どーせ、煙の中にいればやり過ごせるって思ってるんじゃないの? チョー無駄! あの世で公開すればいーわ!)
手を胸の前で交差させ、そして一気に広げる。広げたら今度は閉じる。これを何度も繰り返し、広範囲に毒をまき散らす。上下左右、隙間はない。
「さ~て死んだかな? どうだろう。死骸を確認しないと怒られそうだし、チョー面倒!」
そう呟きながら煙が治まるのを待っていると、
「悪かったな、面倒で!」
後ろから声がしたのだ。反射的に振り向くと、
「ていあああ!」
斿倭のパンチが既に動き出していた。
「ぐっぷ………!」
既に斿倭は地中に潜って移動し、スコーピオの後ろを取っていたのである。
容赦なく腹を撃ち抜いた拳。まともにそれを受けたスコーピオの意識一瞬で飛んだ。
「危ないヤツだったな……。こんな危険な神通力を持っているとなると、園内にいる『夜空の黄道』たちも強そうだ……」