その①

文字数 2,723文字

 オフィユカスが降参したので、この戦いは斿倭たちに軍配が上がった。すると残る『夜空の黄道』のヴィルゴ、ジェミニ、アリエス、カプリコーンたちは誰も悪あがきをしない。寧ろ素直に敗北を受け入れた。人質となっていた将元と友里恵は無事、解放された。そして敵意がないことの証明なのか、ヴィルゴがオフィユカスだけでなく斿倭や蓬莱たちの傷を全て癒した。

「お前たちの目的は何だ?」

 相手に会話する意思があるなら、話が通じる。そう考えて斿倭が聞いた。

「私たちは、とある人物を探しているのです」
「ほえ?」

 しかし意味がわかる返事ではなかった。誰かを捜索しているという言い分はわかるが、それが斿倭たちを襲う動機になり得ないのだ。

「それは誰のこと?」

 蒐が聞くと、

「教えられません」

 という返事。

「ですが、私たちにとってはとても大切な人なのです」

 オフィユカスは、彼女らの君主である今田豪のことを、その情報を出さない範囲で教えた。

「……ようはシャイニングアイランド再建のために戻って来てほしい、ということだな?」

 蓬莱が話をまとめた。他の人からすると飲み込みが速いように感じるだろう。だが彼からすれば既に知っていること。

「その通りです。こんな荒れ果てた園を復興できるのは、創った人物のみ。だからその人をどうしても探し出したいのです」
「でもさ…それが俺たちに襲い掛かる理由にはならないだろう?」
「いいえ。私たち『夜空の黄道』は全員で十三人。ですがここにいる六人以外、つまり残りの七人と連絡が取れない状態なのです。最初の一人がレオ」
「レオ! あの神通力者か!」

 斿倭はその名を聞いただけで思い出した。

「あなたたちのいる高校に、様子を探りに派遣しました。彼が戻って来なかったので、他の仲間も送り出してみました。あなたたちの様子を探るために高校近くの街に派遣した仲間もいます。ですが……」

 つまるところ、『夜空の黄道』は今田豪を探し出すことが最優先事項。その途中で仲間がいなくなる事案が発生したために、斿倭たちと戦うことになったのだ。

「でも待ってくれよ。その口ぶりだとまるで俺たちがお前らの仲間を監禁しているようじゃないか! レオは俺がちょっと場を離れた間に、どっかに行ったんだぜ?」
「そういう発言が飛び出すということは、違うのでしょうね」

 オフィユカスも物分かりが良く、斿倭たちが犯人でないことに納得してくれた。

「となると増々、誰が私たちの仲間を誘拐したのか…が、とても気になります」
「心当たりはないの?」

 苺が言うと、

「あるわけないわ! だって私たちは誰かに恨まれるようなことはしてないわ」

 ヴィルゴがそう断言。

「斿倭……。あなたは、神通力は誰かとわかり合うための力だ、と言いました。ならばその力を貸してください。せめて『夜空の黄道』の仲間だけでも、安否を確かめたいのです」

 オフィユカスは頭を下げて頼んだ。彼女だけではない。ヴィルゴら残りの『夜空の黄道』もだ。斿倭の考えは甘く幼いと感じながらも、自分たちを打ち破ったその実力を認めているのである。
 もちろん斿倭は、

「いいぜ! お前たちが探し出したいっていうシャイニングアイランドの創立者についてはよくわからないから協力できない。けど、仲間を思う気持ちは痛いほどわかる!」

 断らなかった。

 その日、斿倭たちと『夜空の黄道』は和解した。そして本来の斿倭たちの目的である、苺の神通力によるコンピュータへのハッキングを試してみる。

「どうだ? さっき、色部がどうのこうのとは言っていたが…?」
「うーん……。それ以上は全然出て来ない。ここにホストコンピュータがないのかも。それとも最初から、神通力者に関する情報がデータ化されていない……?」
「そうなの?」

 苺、将元、友里恵が先導して作業に当たる。その間、

「ならさ~あ? ホテルコロナに行ってみるのも手じゃん?」
「あそこの事務室が破壊されていなければ、情報があるかもしれない」

 スコーピオやジェミニも会話に参加。そして移動することに。

「そう言えば……」
「どうしました?」

 斿倭はあることを思い出していた。

「『夜空の黄道』の仲間に、人に泡を吹かせることができる神通力者はいる?」
「おそらくキャンサーのことでしょう。触れた人を発病させることができます」
「結構怖い神通力だな……。ソイツと俺は戦った時のことだけど……」

 あの時、不自然なことが起きたのだ。それをオフィユカスに伝えると、

「……そのような現象を引き起こせる人物は、『夜空の黄道』にはいません」
「そう…なのか? 俺はてっきり、『夜空の黄道』の仲間がキャンサーを回収したんだと思ったよ。でも違うとなると……」
「……他の神通力者集団がいるかもしれないわ」

 ヴィルゴが言った。その言葉に蓬莱がドキッとする。

「もしそうだとしたら、その者たちの目的は一体何なのだろうか?」

 緊張したが、ここで会話に混ざらないのは不自然。故に空気を壊さないよう発言した。

「見当もつきません。色部様が重要な立場にいて『夜空の黄道』に命令を出せたことは間違いないのですが、他の神通力者集団については何も聞かされていませんし。まあおそらく彼の親衛隊みたいな人たちはいたとは思いますが、私から連絡を取れるわけでもないですので…」

 行き詰った。苺の方のハッキングも、上手くいかなかったのだ。

「蒐、占いの方はどうだ?」

 斿倭がそう提案すると彼女は、

「水晶に聞いてみよっか!」

 カバンから水晶玉を取り出した。

「よーしじゃあ、私たちがすべきこと………。見つけるべき神通力者集団とは? いるのかいないのか……」

 呟きながら水晶玉と睨み合う。すると映像が映し出された。

「あれ…?」

 そこには、斿倭や蓬莱たちが映っている。ちょうどリアルタイムの光景であり、例えばカプリコーンが動けば映像内の彼も同じように動いた。

「どうやら失敗のようだ」

 そう言ったのは、蓬莱。

「どうして?」
「私たち水蠆池高校のメンバーも、ある意味神通力者集団だからだ」

 その言葉にその場にいたみんなが納得する。
 しかし、

(危ないところだ。この水晶玉、正解を導き出している…! 水晶内の映像、私が中心。つまりは見つけ出すべき『黒の理想郷』のことを、見事に指し示せている!)

 内心で一番焦っているのが蓬莱であった。誰かが水晶玉の真意に気づく前に、話題を逸らしたのだ。
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