その①

文字数 2,481文字

 シャンバラの横槍はあったものの、『夜空の黄道』のメンバーは無事に校舎に移動できた。会議室までの道のりにも怪しい人物はいない。

「何だあれ? 部外者じゃねえの?」
「知らない人物が平然と校内を歩いているぞ…? 先生に言った方がいい?」

 すれ違う生徒たちからは変な視線を送られるが、そんなものは無視できる。
 そして会議室に六人は到着した。

「ようこそ、私立水蠆池高校へ。いい学舎だろう? 偏差値も高めで、評判も悪くない」
「歓迎はありがたいです。私が『夜空の黄道』のリーダー、オフィユカスです。その他のメンバーで残っているのはここにいる、ヴィルゴ、アリエス、スコーピオ、ジェミニ、カプリコーンで、計六人。あなたたちは?」
「十四人だ。二人抜けているからな」

 挨拶もほとんどなしに話を始める潤一郎とオフィユカス。

「ところで、博から興味深いことを聞きました」
「ほう?」

 潤一郎が博の方を向くと、彼はそのワードを言う。

「『黒の理想郷』とかいう集団だ」
「初めて聞くな……。ソイツらが俺たちを狙っているのか? そもそもどんな連中で何人いるんだ?」
「詳しくはわかりません……。私もシャイニングアイランドの神通力者に関して全て知っているわけではないので。色部様という人なら知っていると思うのですが、シャイニングアイランド崩壊後は行方不明……」

 オフィユカスから、『黒の理想郷』の情報はわかりそうにない。

「話が変わるんだが、シャイニングアイランドにはどうしてそんなに神通力者がいたんだ?」

 ここで、願平が切り出した。

「言われてみれば……。それは不思議よね」

 千里も同じ意見だ。だからなのか、

「答えられるなら答えて! どうして神通力者が集まっているの? それにシャイニングアイランドの正体は?」

 するとオフィユカス、

「簡単なことです。あそこはただの遊園地ではありません。神通力の才能を持つ人間をおびき寄せる施設だったんです」

 彼女は具体的な個人名は出さずに、遊園地の実態を説明した。

 シャイニングアイランドは、とある人物の野望がつまった園であったということ。その部下である人物に、十五歳以下の子供に記憶と引き換えに神通力を発現させることができる人がいたのだ。オフィユカスだけでなく『夜空の黄道』のメンバー全員が、元々は一般人だった。園に遊びに行った際に誘拐され、そして記憶を無理矢理消去されたうえで神通力を与えられたのだ。

「それ、前に蓬莱が言ってたのと同じ内容だ…!」

 そこに蒐は気づいた。

「蓬莱が言っていたのですか? ということは『黒の理想郷』も同じ認識を持っている、ということですよね」
「そうなるな。ん?」

 ここで潤一郎が閃く。

「『黒の理想郷』は、シャイニングアイランドに関係しているのか?」
「無関係なら知っているはずがありません。ですので、そうなるんです」
「じゃあさ、君たちの仲間…なんじゃない?」

 正義がツッコミを入れると、潤一郎も。

「そうじゃないことを証明できるか?」

 協力する立場としては、そこはハッキリとしておきたい。

「それは………」

 言葉に詰まるオフィユカス。

「やっぱり仲間なんだろう? 違うか!」

 恒吉も追い打ちをかけた。

「仲間ではないわ! そもそもシャイニングアイランドのチームは、他のチームと連携したりしないわ!」

 反論をするヴィルゴだったが、根拠がないので説得力に欠ける。

(裏で『夜空の黄道』と『黒の理想郷』が繋がっていたら、かなり危うい状況だ。昨日のあの出来事も、公園で待ち伏せされていたことを説明できてしまう。だが……)

 しかし、何かが潤一郎の心の中で引っかかる。

(だが、仲間じゃない気がしてならん。昨日オフィユカスが合流した時、そのまま俺と願平を始末することだってできたはずだ。それに……)

 その先は、口から出た。

「『夜空の黄道』は俺たちの味方をしてくれた。それは博が証明してくれている…」
「でもそれも作戦だったら? 相手に自分たちを信用させて、それからこの先の行動をしやすくするって! 詐欺師も似たようなこと、するだろう?」

 すぐにそういう意見が飛んで来る。

「いや、ある!」

 何が、と聞かれて潤一郎は自分の考えを述べる。

「もし『夜空の黄道』と『黒の理想郷』が繋がっているなら、戦うことはできないはずだ。オフィユカス、そっちで残っている人なら誰でもいい。今度『黒の理想郷』が襲ってきたら、ソイツを撃退してくれ。仲間同士だったらそんなことはできないが、違うのならできるだろう?」

 その提案にオフィユカスは首を縦に振って答える。

「何なら、私がでましょう。潤一郎、あなたは私がそれを達成出来たら信じてくれるのですか?」
「もちろんだ。ここにいる俺の仲間たちが何と言うかまでは保証はできない。が、俺は信じる」

 仲間か否か。その話はこれでまとまった。

「では次の話を……」

 始めようとした時、突然窓ガラスが割れた。

「何だ?」

 この教室にいた全員が、困惑する。何が原因でガラスが割れたのかが、全くわからないのだ。破片は室内に転がっているために、外から何かが投げ込まれたのだろう。しかしその何か、が見当たらない。

「もしかして、『黒の理想郷』?」

 景子が顔を出し窓の外を見た。今日は部活が休みだからか、校庭には生徒は全くいない。だから、その人物をすぐに見つけることができた。

「あ、あれ! 潤一郎! 校庭のど真ん中にいる!」

 乗り出そうとした潤一郎だったが、オフィユカスが手で制する。

「私が行きます。そういう約束でしょう?」
「………そうだな」

 彼女は割られた窓から飛び降りる。着地を決めると校庭の方に走った。

「念のためだ。司、様子を見に行け! ただし手は出すなよ? 全てはオフィユカスにやらせろ!」
「了解!」

 命令を受け、司も外に出る。
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