その④
文字数 2,477文字
斿倭を石に変えたコカトリスは、一旦神通力を解かれて普通のヘビに戻された。それを蓬莱は逃がさず、ずっと持っていたのである。同じヘビから生み出されたコカトリスが破壊されれば、石化も解かれる。そして地中を移動し、ここまでたどり着いたのだ。
「斿倭……。私は、信じていたぞ…。きっと許してくれる、と」
「大丈夫か、蓬莱!」
そして斿倭もまた、蓬莱を信じている。傷だらけの彼の身を案じ、駆け寄った。
「まあいい! 死ぬ人数が一人増えただけのこと! 大して変わらん」
「へえ、言うじゃねえか!」
振り向いた斿倭はディストピアに向かってそう言った。
「じゃあ行くぜ、『黒の理想郷』のヤツ!」
斿倭の繰り出す手は単純だ。マグマでディストピアを溶かそうという判断。
「しかし効きはしない」
マグマに少し触れただけで、ディストピアは自爆する。
「おおっと?」
けれども斿倭も、ただ突っ立てはいない。地を割ると、蓬莱を抱えてその裂け目に避難する。
「ディストピアは自爆し、完全回復する神通力を持っている……。ぐっ!」
また吐血する蓬莱。
「それだけで十分だぜ、もう喋るな! 早くアイツを倒して『夜空の黄道』のヴィルゴを呼ぼう! 怪我なら一発で治してもらえる!」
その裂け目に蓬莱を隠し、斿倭一人だけ地表に出た。
「さあ! ディストピアとかいうクソ上官! 俺と勝負だ!」
「いいだろう。二人まとめて地球上から消してやる!」
この数十秒の間に、ディストピアは斿倭の神通力を理解した。
(地面がいかに動こうと、私を叩いても無意味! 自爆し安全な場所で再生すれば、それだけで避けることができる! コイツに勝ち目はない!)
個人的な怨みはないが、直感で彼は、斿倭が蓬莱を唆したとわかった。だからこそ、許せる相手ではない。最初から命を奪うつもりで行動する。
対面する斿倭も気を抜かない。
(蓬莱があんなにボロボロになってるんだ…。絶対、アイツは強い! 長引くのは避けよう。一気に決めるしかない!)
両者一歩前に踏み込み、そして駆け出す。
「消えろ!」
ディストピアの方が速かった。手を突き出して斿倭に迫る。
「うおおお!」
斿倭も走る。ディストピアに向かって突進するのだ。
「もらった!」
あと少し、ほんの少し手を伸ばして指を曲げれば斿倭の首を掴める。そんな距離。ディストピアは勝ち誇ってそう呟いた。
「どうかな?」
すると地面からマグマが噴き出し、容赦なくディストピアの手を溶かしたのだ。
「……むう? だが意味はない」
ダメージをくらえば、爆ぜるだけだ。彼の体は爆発する。そして何事もなかったかのように、少し離れた場所で再生する。この時、失った手も元通りだ。
「私を一気に殺してしまうという選択肢は、悪くはない。だがな、気づかれずにやらなければ意味がないのだ。いくらでも私は再生できるのだから」
爆風で吹っ飛ばされた斿倭の体は宙を舞った。そして地面に叩きつけられるという時、
「ならば、こっちに来てみろ!」
地面が凹んだ。陥没したのだ。
「私を土の中に埋めてしまうという作戦か……。通じないことを教えてやろう……逆に谷底へ消えてなくなるがいい!」
その穴にディストピアは入り込む。逃げ場は上しかない。それは、ディストピアの神通力がかなり優勢であることを意味している。
「もっと潜ればどうにかなると思っているのだろう? 違うな。掘れば掘るほど、墓穴。私はこの位置でお前の相手をさせてもらう」
地表を手で掴み、いつでも穴から出られる態勢を保つ。斿倭はまだ下にいる。
「いいや! 俺が掘ったのは………お前の墓の穴だぜ! くらえ!」
地面が急に動き出し、穴を塞ごうとした。それに感づいたディストピアは一足先に地表に戻る。
「やはり、お前の負けだ…。穴の中で後悔しているが………」
しかし異変は穴の中だけではなかった。
「うりりゃああああああああ!」
ディストピアが立っている地面が、グラグラ揺れているのだ。
「何事だ?」
爆発音もする。同時に、急に押し上げられる感触が足から伝わってくる。視界が周りの木々よりも高くなる。
「ば、馬鹿な……?」
足場の地面が丸ごと、噴火で吹き飛ばされた。
「母なる大地の力で倒せないのなら! この地球という舞台から追放してやるぜ!」
上昇していく岩盤を見上げて斿倭は叫んだ。その声がディストピアに届いているかどうかは怪しい。しかしディストピアの方は、
「馬鹿め! この程度の子供騙し、一度自爆すれば…!」
爆発し、そして再生する。だが、それは天に昇っていく岩の上で。
「な、しまった……!」
ここで彼は気づく。今の一手が完全に悪手であったことに。
もし早期にこの岩盤から飛び降りていれば、まだ窮地から脱出できたかもしれない。しかしそのタイミングを失った。今ここから飛び降りれば、例え神通力者であっても落下して死ぬ。
「だ、だが! 少しずつ自爆して下に下がれば………」
それも実はできない。上昇の勢いのせいで、動けないのである。
「く、クソ! ………ん、何だ?」
そしてドンドン上昇していくので、空気も少なくなっていく。いつの間にやら雲も突き抜けた。息が苦しくなり始めたのだ。
「こんなことが、あり得ない! この、私、が……!」
空気摩擦で体に火が付いた。これを消そうと爆発してみるが、逆に岩盤に引火してより激しく燃えだした。再生したら次の瞬間、ディストピアの体は燃え上がり、成層圏を出る頃には灰に変わった。
「やったぞ、蓬莱!」
無事なら落ちてくる。落ちてこないなら、タダで済むレベルを越えているということだ。
「宇宙まで行ったかどうかは知らないけど、戻っては来ない! ディストピアを倒した!」
すぐに割れ目から蓬莱を救い出し、彼を抱えてヴィルゴの方に向かう。
「斿倭……。私は、信じていたぞ…。きっと許してくれる、と」
「大丈夫か、蓬莱!」
そして斿倭もまた、蓬莱を信じている。傷だらけの彼の身を案じ、駆け寄った。
「まあいい! 死ぬ人数が一人増えただけのこと! 大して変わらん」
「へえ、言うじゃねえか!」
振り向いた斿倭はディストピアに向かってそう言った。
「じゃあ行くぜ、『黒の理想郷』のヤツ!」
斿倭の繰り出す手は単純だ。マグマでディストピアを溶かそうという判断。
「しかし効きはしない」
マグマに少し触れただけで、ディストピアは自爆する。
「おおっと?」
けれども斿倭も、ただ突っ立てはいない。地を割ると、蓬莱を抱えてその裂け目に避難する。
「ディストピアは自爆し、完全回復する神通力を持っている……。ぐっ!」
また吐血する蓬莱。
「それだけで十分だぜ、もう喋るな! 早くアイツを倒して『夜空の黄道』のヴィルゴを呼ぼう! 怪我なら一発で治してもらえる!」
その裂け目に蓬莱を隠し、斿倭一人だけ地表に出た。
「さあ! ディストピアとかいうクソ上官! 俺と勝負だ!」
「いいだろう。二人まとめて地球上から消してやる!」
この数十秒の間に、ディストピアは斿倭の神通力を理解した。
(地面がいかに動こうと、私を叩いても無意味! 自爆し安全な場所で再生すれば、それだけで避けることができる! コイツに勝ち目はない!)
個人的な怨みはないが、直感で彼は、斿倭が蓬莱を唆したとわかった。だからこそ、許せる相手ではない。最初から命を奪うつもりで行動する。
対面する斿倭も気を抜かない。
(蓬莱があんなにボロボロになってるんだ…。絶対、アイツは強い! 長引くのは避けよう。一気に決めるしかない!)
両者一歩前に踏み込み、そして駆け出す。
「消えろ!」
ディストピアの方が速かった。手を突き出して斿倭に迫る。
「うおおお!」
斿倭も走る。ディストピアに向かって突進するのだ。
「もらった!」
あと少し、ほんの少し手を伸ばして指を曲げれば斿倭の首を掴める。そんな距離。ディストピアは勝ち誇ってそう呟いた。
「どうかな?」
すると地面からマグマが噴き出し、容赦なくディストピアの手を溶かしたのだ。
「……むう? だが意味はない」
ダメージをくらえば、爆ぜるだけだ。彼の体は爆発する。そして何事もなかったかのように、少し離れた場所で再生する。この時、失った手も元通りだ。
「私を一気に殺してしまうという選択肢は、悪くはない。だがな、気づかれずにやらなければ意味がないのだ。いくらでも私は再生できるのだから」
爆風で吹っ飛ばされた斿倭の体は宙を舞った。そして地面に叩きつけられるという時、
「ならば、こっちに来てみろ!」
地面が凹んだ。陥没したのだ。
「私を土の中に埋めてしまうという作戦か……。通じないことを教えてやろう……逆に谷底へ消えてなくなるがいい!」
その穴にディストピアは入り込む。逃げ場は上しかない。それは、ディストピアの神通力がかなり優勢であることを意味している。
「もっと潜ればどうにかなると思っているのだろう? 違うな。掘れば掘るほど、墓穴。私はこの位置でお前の相手をさせてもらう」
地表を手で掴み、いつでも穴から出られる態勢を保つ。斿倭はまだ下にいる。
「いいや! 俺が掘ったのは………お前の墓の穴だぜ! くらえ!」
地面が急に動き出し、穴を塞ごうとした。それに感づいたディストピアは一足先に地表に戻る。
「やはり、お前の負けだ…。穴の中で後悔しているが………」
しかし異変は穴の中だけではなかった。
「うりりゃああああああああ!」
ディストピアが立っている地面が、グラグラ揺れているのだ。
「何事だ?」
爆発音もする。同時に、急に押し上げられる感触が足から伝わってくる。視界が周りの木々よりも高くなる。
「ば、馬鹿な……?」
足場の地面が丸ごと、噴火で吹き飛ばされた。
「母なる大地の力で倒せないのなら! この地球という舞台から追放してやるぜ!」
上昇していく岩盤を見上げて斿倭は叫んだ。その声がディストピアに届いているかどうかは怪しい。しかしディストピアの方は、
「馬鹿め! この程度の子供騙し、一度自爆すれば…!」
爆発し、そして再生する。だが、それは天に昇っていく岩の上で。
「な、しまった……!」
ここで彼は気づく。今の一手が完全に悪手であったことに。
もし早期にこの岩盤から飛び降りていれば、まだ窮地から脱出できたかもしれない。しかしそのタイミングを失った。今ここから飛び降りれば、例え神通力者であっても落下して死ぬ。
「だ、だが! 少しずつ自爆して下に下がれば………」
それも実はできない。上昇の勢いのせいで、動けないのである。
「く、クソ! ………ん、何だ?」
そしてドンドン上昇していくので、空気も少なくなっていく。いつの間にやら雲も突き抜けた。息が苦しくなり始めたのだ。
「こんなことが、あり得ない! この、私、が……!」
空気摩擦で体に火が付いた。これを消そうと爆発してみるが、逆に岩盤に引火してより激しく燃えだした。再生したら次の瞬間、ディストピアの体は燃え上がり、成層圏を出る頃には灰に変わった。
「やったぞ、蓬莱!」
無事なら落ちてくる。落ちてこないなら、タダで済むレベルを越えているということだ。
「宇宙まで行ったかどうかは知らないけど、戻っては来ない! ディストピアを倒した!」
すぐに割れ目から蓬莱を救い出し、彼を抱えてヴィルゴの方に向かう。