その②
文字数 2,550文字
「黄道って言ったら、十二人いるってことなのか?」
「多分。今までに来た『夜空の黄道』は、レオが一人。それにキャンサーとリブラの三人だ」
「おい、誰だそれ?」
蓬莱が口を滑らせてしまった。キャンサーは名乗っていないし、リブラについては襲撃を斿倭は知らない。だがエルドラードに回収させ、『黒の理想郷』の管理下に置かれた二人については、蓬莱は名前を教えられている。
「今日学校に現れた神通力者だ。斿倭と戦ったのがキャンサーで、秘密裏に校舎に侵入していたのがリブラ。私の調査資料によって、名前が判明した」
上手く機転を利かせて、誤魔化した。
「ねえ、おかしいよ?」
「ん、どうした蒐?」
彼女は道を指差して、
「さっきから同じ道を通ってる。ここ、さっきも曲がったよ?」
「そんな馬鹿な? 学校から駅まで道だぞ? 迷子になる方が才能だ」
将元はそう言い返した。当たり前だ。通いなれた道で迷うわけがない。
「でも………」
しょんぼりする蒐に対し友里恵は、
「ちょっと将元、そんな言い方ないじゃない。ここは蒐ちゃんの話を聞いてみましょう」
詳しい話を伺う姿勢。ちなみに斿倭と蓬莱にとっては通学路ではないので、二人は黙っているしかない。
「いいか? 学校を出て、まず道なりに真っ直ぐ進む。大きな通りがあるから、そこを右に曲がる。レンタルビデオ店まで行って、今度は左。そうすると最寄り駅が見えてくる……」
「ねえ将元、今はどの辺なの?」
「まだ大通りに差し掛かってないはずだな? だから曲がるところはないぞ……? ん?」
「アレ…?」
苺も気づいた。
「確か、曲がったよね? もう何度か?」
「ああ、曲がったな」
「でも、真っ直ぐ進むのよね?」
「そのはずだな」
ここで四人は気づく。道を間違えていることに。
「馬鹿な? 俺の通学路だぞ? 君らがどうのこうのは知らないが、俺が間違えるわけがない!」
「でも、将元が率先して曲がったじゃない? それはどう説明するわけ?」
「知るか!」
「無責任ね!」
ヒートアップしそうな二人の間に蓬莱が、割って入った。
「待ってくれ。ここで揉めても意味はない。状況の整理が済んだのなら、可能性について疑ってみよう」
「か、可能性……?」
「そうだ。迷子になっているんじゃない。迷子にさせられているんだ」
「は、はい?」
その発想はなかった。だから二人は口をポカーンと開けている。
「将元が通学路で迷うとは考えにくい。でも事実、私たちは件の大通りにすらたどり着けていない。もしかしたらこれは、何かしらの神通力を受けているのではないか?」
「どういう意味だよ、蓬莱?」
すると蓬莱は近くの建物の上を見て、
「いると思う。近くに『夜空の黄道』が!」
「本当か? どこだソイツは?」
探し出そうとした斿倭のことを蓬莱が止めた。
「やめておくんだ、斿倭。今ここから動けば、私ときみが合流できるかどうかすら保証ができない!」
それぐらい、道に迷うことは恐ろしい。
「蓬莱? 君の言う通りなら、『夜空の黄道』の刺客がもう俺らを嗅ぎつけて周りにいるってことだよな?」
「そうなるが、だからどうだと言うのだ?」
「俺が行く!」
将元が言い出した。もちろん蓬莱は斿倭の時と同じ理由で止める。だが、
「ここでグズグズしてられるかよ? 俺がこの敵を引き受ける。お前らはシャイニングアイランドに行くんだ!」
彼は自分を囮にして、みんなのために戦うと言うのだ。
「危険だ! きみが負けるとは思わないが、ここを離れたら戻って来れなくなるかもしれないんだ」
「それなら私も行くわ」
友里恵も前に出た。二人の意志を前にして、否定することは蓬莱にはできなかった。
「………だが、姿がわからない敵をどうやって相手するつもりなんだ?」
「神通力だ! まずは蒐が占って居場所を特定してくれ。そうすれば俺と友里恵で相手ができる」
「え? でも人探しのアイテムは学校に置いて来ちゃったよ?」
彼女たちは誰かを探しているのではない。だから邪魔になりそうなものは持って来るわけがない。
「大丈夫さ。ここに俺の傘がある。倒れた方向に敵がいる、ってことで」
「どこかで聞いたような……? ま、いいか! えい!」
傘は、左後ろを示した。
「よし、そっちに行くぞ! 友里恵!」
「言われなくても!」
二人は急いで建物の上に駆け上がる。
「どうする蓬莱?」
「…ここは二人に任せよう。動いてもどうせ迷子になるのなら、私たちは、じっとここで待つべきだ」
「おお? 何でオデがどこにいるかわかった?」
建物の屋上にいたのは、タウロス。もちろん『夜空の黄道』の一員で、学校を出た時から見張っていた。
「バレないと思っているからバレるんだよ。さあ覚悟しな! 迷子にさせる神通力ということは、戦闘向きではない。俺と友里恵の相手ができるか?」
二人は構える。そうするとタウロスは、
「うがああああ!」
何も考えずに突っ込んできた。どうやら何も作戦が思い浮かばないらしい。
「馬鹿ね! 倒してくれって言っているようなものだわ!」
友里恵がタウロスを睨んだ。すると彼の動きがかなり遅くなる。
「あ、ああ? 筋肉が痛えぞ? オマエ、オデに何かしたな?」
「ええ、当たり前じゃない? 私の神通力を使わせてもらったわ」
彼女の神通力者は、相手に疲労感を押し付けること。肉体的には何も異常は起きないが、頭は疲れている状態と勘違いしている。だから筋肉痛が起きていると、感じているのだ。
「く、うう」
そして体を動かそうという気力も出ない。疲れ切った頭では何かを考えることすら。
「そうりゃああ!」
動けないタウロスに、将元が背負い投げをおみまいする。彼の神通力は、重さに関係なくものを持ち上げられる。だから簡単にタウロスの体が宙を舞う。
「ぶ、うう…」
これでタウロスは撃沈した。
「よし、いいぞ! 友里恵、蒐か苺に連絡を入れろ!」
「言われなくてもわかっているわ!」
携帯をいじり、メールを送った。
「多分。今までに来た『夜空の黄道』は、レオが一人。それにキャンサーとリブラの三人だ」
「おい、誰だそれ?」
蓬莱が口を滑らせてしまった。キャンサーは名乗っていないし、リブラについては襲撃を斿倭は知らない。だがエルドラードに回収させ、『黒の理想郷』の管理下に置かれた二人については、蓬莱は名前を教えられている。
「今日学校に現れた神通力者だ。斿倭と戦ったのがキャンサーで、秘密裏に校舎に侵入していたのがリブラ。私の調査資料によって、名前が判明した」
上手く機転を利かせて、誤魔化した。
「ねえ、おかしいよ?」
「ん、どうした蒐?」
彼女は道を指差して、
「さっきから同じ道を通ってる。ここ、さっきも曲がったよ?」
「そんな馬鹿な? 学校から駅まで道だぞ? 迷子になる方が才能だ」
将元はそう言い返した。当たり前だ。通いなれた道で迷うわけがない。
「でも………」
しょんぼりする蒐に対し友里恵は、
「ちょっと将元、そんな言い方ないじゃない。ここは蒐ちゃんの話を聞いてみましょう」
詳しい話を伺う姿勢。ちなみに斿倭と蓬莱にとっては通学路ではないので、二人は黙っているしかない。
「いいか? 学校を出て、まず道なりに真っ直ぐ進む。大きな通りがあるから、そこを右に曲がる。レンタルビデオ店まで行って、今度は左。そうすると最寄り駅が見えてくる……」
「ねえ将元、今はどの辺なの?」
「まだ大通りに差し掛かってないはずだな? だから曲がるところはないぞ……? ん?」
「アレ…?」
苺も気づいた。
「確か、曲がったよね? もう何度か?」
「ああ、曲がったな」
「でも、真っ直ぐ進むのよね?」
「そのはずだな」
ここで四人は気づく。道を間違えていることに。
「馬鹿な? 俺の通学路だぞ? 君らがどうのこうのは知らないが、俺が間違えるわけがない!」
「でも、将元が率先して曲がったじゃない? それはどう説明するわけ?」
「知るか!」
「無責任ね!」
ヒートアップしそうな二人の間に蓬莱が、割って入った。
「待ってくれ。ここで揉めても意味はない。状況の整理が済んだのなら、可能性について疑ってみよう」
「か、可能性……?」
「そうだ。迷子になっているんじゃない。迷子にさせられているんだ」
「は、はい?」
その発想はなかった。だから二人は口をポカーンと開けている。
「将元が通学路で迷うとは考えにくい。でも事実、私たちは件の大通りにすらたどり着けていない。もしかしたらこれは、何かしらの神通力を受けているのではないか?」
「どういう意味だよ、蓬莱?」
すると蓬莱は近くの建物の上を見て、
「いると思う。近くに『夜空の黄道』が!」
「本当か? どこだソイツは?」
探し出そうとした斿倭のことを蓬莱が止めた。
「やめておくんだ、斿倭。今ここから動けば、私ときみが合流できるかどうかすら保証ができない!」
それぐらい、道に迷うことは恐ろしい。
「蓬莱? 君の言う通りなら、『夜空の黄道』の刺客がもう俺らを嗅ぎつけて周りにいるってことだよな?」
「そうなるが、だからどうだと言うのだ?」
「俺が行く!」
将元が言い出した。もちろん蓬莱は斿倭の時と同じ理由で止める。だが、
「ここでグズグズしてられるかよ? 俺がこの敵を引き受ける。お前らはシャイニングアイランドに行くんだ!」
彼は自分を囮にして、みんなのために戦うと言うのだ。
「危険だ! きみが負けるとは思わないが、ここを離れたら戻って来れなくなるかもしれないんだ」
「それなら私も行くわ」
友里恵も前に出た。二人の意志を前にして、否定することは蓬莱にはできなかった。
「………だが、姿がわからない敵をどうやって相手するつもりなんだ?」
「神通力だ! まずは蒐が占って居場所を特定してくれ。そうすれば俺と友里恵で相手ができる」
「え? でも人探しのアイテムは学校に置いて来ちゃったよ?」
彼女たちは誰かを探しているのではない。だから邪魔になりそうなものは持って来るわけがない。
「大丈夫さ。ここに俺の傘がある。倒れた方向に敵がいる、ってことで」
「どこかで聞いたような……? ま、いいか! えい!」
傘は、左後ろを示した。
「よし、そっちに行くぞ! 友里恵!」
「言われなくても!」
二人は急いで建物の上に駆け上がる。
「どうする蓬莱?」
「…ここは二人に任せよう。動いてもどうせ迷子になるのなら、私たちは、じっとここで待つべきだ」
「おお? 何でオデがどこにいるかわかった?」
建物の屋上にいたのは、タウロス。もちろん『夜空の黄道』の一員で、学校を出た時から見張っていた。
「バレないと思っているからバレるんだよ。さあ覚悟しな! 迷子にさせる神通力ということは、戦闘向きではない。俺と友里恵の相手ができるか?」
二人は構える。そうするとタウロスは、
「うがああああ!」
何も考えずに突っ込んできた。どうやら何も作戦が思い浮かばないらしい。
「馬鹿ね! 倒してくれって言っているようなものだわ!」
友里恵がタウロスを睨んだ。すると彼の動きがかなり遅くなる。
「あ、ああ? 筋肉が痛えぞ? オマエ、オデに何かしたな?」
「ええ、当たり前じゃない? 私の神通力を使わせてもらったわ」
彼女の神通力者は、相手に疲労感を押し付けること。肉体的には何も異常は起きないが、頭は疲れている状態と勘違いしている。だから筋肉痛が起きていると、感じているのだ。
「く、うう」
そして体を動かそうという気力も出ない。疲れ切った頭では何かを考えることすら。
「そうりゃああ!」
動けないタウロスに、将元が背負い投げをおみまいする。彼の神通力は、重さに関係なくものを持ち上げられる。だから簡単にタウロスの体が宙を舞う。
「ぶ、うう…」
これでタウロスは撃沈した。
「よし、いいぞ! 友里恵、蒐か苺に連絡を入れろ!」
「言われなくてもわかっているわ!」
携帯をいじり、メールを送った。