その③
文字数 2,106文字
ちょっとの沈黙をおいて、斿倭が閃く。
「うおおお!」
地中から脱出し、地表に出た斿倭。アルカディアの目の前に現れた。
「どちらかしか立ってられねえのなら! それは俺の方だ………アルカディア!」
そして殴り掛かる。
「無駄だね! 僕の神通力があれば、あなたの拳を消すことは、呼吸するよりも楽だし時間も食わない!」
そう。本来なら、アルカディアの言う通りだ。
しかしながら、今回ばかりはそうはならなかった。
「うぐえっ!」
何と、アルカディアは斿倭のパンチを止められずに、その一撃を顔面にくらったのである。
「ど、どうして……! ちゃんと蒸発する量のエネルギーは与えた! あなたの手は蒸発して気化し、僕のエネルギーとして吸収されるはずなのに…?」
「いいや、違うぜ!」
二度、斿倭は見ている。
「お前は……マグマが相手じゃ手出しができないんだ! 自分でも気づいてないみたいだがよ、マグマに包まれた状態の俺を、消すことはできない!」
一度目は、アルカディアがマグマの中に落ちた時のこと。あの時彼は、その場にあったマグマを全て消すことはしていなかった。さらに次はさっきの出来事。マグマに包まれた斿倭を消すこともできなかった。
「マグマ自体を消せないわけじゃない! 供給され続けるマグマに、神通力が間に合わないんだ!」
つまり、こうである。
マグマは消せる。しかし、斿倭はそれでも全身の表面にマグマを流し続ける。一部分が消えても、すぐにその部分を補うように新しいマグマが覆ってくれる。そしてそれは、アルカディアが連続して彼の神通力を使うよりも速い。
だからマグマを消されても、エネルギーをアルカディアに与えられる前にマグマの鎧が再生するのだ。
「そ、そんなことが……非常識だ、あり得ない……!」
どうやらそれをアルカディアも理解したようである。
「いっっっけええええええ!」
一度に両方の拳を斿倭は放った。それは防ごうとするアルカディアの腕をすり抜け、彼の顔面に炸裂した。
「ぐっ! がばあっ……!」
アルカディアの体は力を失い、その場に崩れた。
「やったのか、斿倭!」
蓬莱が駆け寄る。
「た、多分……だぜ。コイツもディストピアと片並べられるほどにタフだから…」
でも、今の一撃では気を失った程度で死んではいない気がするのだ。神通力は人を傷つける力ではないと信じる斿倭が無意識の内に手加減をしていたのかもしれない。
「……確かに、まだ息がある様子だ。どうする、斿倭?」
アルカディアの背中に耳を当てて心臓の鼓動を確かめた蓬莱は、彼をどうするか、斿倭に聞いた。
「こんな奴でも、俺はやっぱり死んで欲しくはないな……。わかり合えるはずなんだ!」
「やはり、そう言うと思った。では残っている『黒の理想郷』のメンバーと共に、身柄を拘束しよう」
蓬莱も異議はない。きっと斿倭の思いが移ったのだろう。それはオフィユカスも同じで、仲間をやられたのにもかかわらず彼女は何の怒りも感じていないのだ。
「さ、速くしようぜ? グズグズしてると日が暮れ……って、もうほとんど落ちかけ……」
それは、斿倭が喋っている最中に起きた。
何と、アルカディアの体が勝手に動き出したのだ。だが、意識が戻ったようには見えない。まるで何者かに動かされている様子だ。
「何だ、一体…?」
さらに、彼の体が突然、熱を放ったと思ったら、蒸発する。
気体となって消えたアルカディアの体。しかし、そこに一人の男が立っている。
「……馬鹿な男だ、アルカディア! この俺に逆らうとは! 非常識だぞ!」
それは、謀反してきたアルカディアに消されたはずの、常田烈である。
「何が起きている……? 誰だこれは?」
この現象に理解が追いつかない三人。
これは、完全なイレギュラーである。本来蒸発しエネルギーとして吸収された常田の体は、たとえアルカディアがそのエネルギーを放出しても再構築するのは不可能である。現に彼に吸収された他の人や物は、その姿を取り戻せていない。人間が他の動物のタンパク質を食べ消化して吸収する際に、人のタンパク質として再構築するのと同じだ。だがこの異常事態は、それを可能としたのだ。これは常田の魂がアルカディアに憑依していたからだろう。
「俺は見ていた! 俺を裏切ったアルカディアの行動、『黒の理想郷』の意向、そしてここまでに至る戦いの全てを! 斿倭と言ったな? アルカディアを倒したことは褒めてやるが、その快進撃もここで終わりだ!」
この状況で冷静でいられる斿倭ではないが、彼は本能的に察する。
「コイツが、『黒の理想郷』の黒幕! 倒すべき真の相手だ!」
そうと決まれば、やることはただ一つ。戦うのである。
「いいだろう。斿倭! 滅ぼしてくれる!」
常田の思考が、取り憑かれていたアルカディアに影響されていたのか、彼の当初の目論見とは全く真逆のことを言った。
暗くなりだす大地の上で、真の最終決戦が始まる。
「うおおお!」
地中から脱出し、地表に出た斿倭。アルカディアの目の前に現れた。
「どちらかしか立ってられねえのなら! それは俺の方だ………アルカディア!」
そして殴り掛かる。
「無駄だね! 僕の神通力があれば、あなたの拳を消すことは、呼吸するよりも楽だし時間も食わない!」
そう。本来なら、アルカディアの言う通りだ。
しかしながら、今回ばかりはそうはならなかった。
「うぐえっ!」
何と、アルカディアは斿倭のパンチを止められずに、その一撃を顔面にくらったのである。
「ど、どうして……! ちゃんと蒸発する量のエネルギーは与えた! あなたの手は蒸発して気化し、僕のエネルギーとして吸収されるはずなのに…?」
「いいや、違うぜ!」
二度、斿倭は見ている。
「お前は……マグマが相手じゃ手出しができないんだ! 自分でも気づいてないみたいだがよ、マグマに包まれた状態の俺を、消すことはできない!」
一度目は、アルカディアがマグマの中に落ちた時のこと。あの時彼は、その場にあったマグマを全て消すことはしていなかった。さらに次はさっきの出来事。マグマに包まれた斿倭を消すこともできなかった。
「マグマ自体を消せないわけじゃない! 供給され続けるマグマに、神通力が間に合わないんだ!」
つまり、こうである。
マグマは消せる。しかし、斿倭はそれでも全身の表面にマグマを流し続ける。一部分が消えても、すぐにその部分を補うように新しいマグマが覆ってくれる。そしてそれは、アルカディアが連続して彼の神通力を使うよりも速い。
だからマグマを消されても、エネルギーをアルカディアに与えられる前にマグマの鎧が再生するのだ。
「そ、そんなことが……非常識だ、あり得ない……!」
どうやらそれをアルカディアも理解したようである。
「いっっっけええええええ!」
一度に両方の拳を斿倭は放った。それは防ごうとするアルカディアの腕をすり抜け、彼の顔面に炸裂した。
「ぐっ! がばあっ……!」
アルカディアの体は力を失い、その場に崩れた。
「やったのか、斿倭!」
蓬莱が駆け寄る。
「た、多分……だぜ。コイツもディストピアと片並べられるほどにタフだから…」
でも、今の一撃では気を失った程度で死んではいない気がするのだ。神通力は人を傷つける力ではないと信じる斿倭が無意識の内に手加減をしていたのかもしれない。
「……確かに、まだ息がある様子だ。どうする、斿倭?」
アルカディアの背中に耳を当てて心臓の鼓動を確かめた蓬莱は、彼をどうするか、斿倭に聞いた。
「こんな奴でも、俺はやっぱり死んで欲しくはないな……。わかり合えるはずなんだ!」
「やはり、そう言うと思った。では残っている『黒の理想郷』のメンバーと共に、身柄を拘束しよう」
蓬莱も異議はない。きっと斿倭の思いが移ったのだろう。それはオフィユカスも同じで、仲間をやられたのにもかかわらず彼女は何の怒りも感じていないのだ。
「さ、速くしようぜ? グズグズしてると日が暮れ……って、もうほとんど落ちかけ……」
それは、斿倭が喋っている最中に起きた。
何と、アルカディアの体が勝手に動き出したのだ。だが、意識が戻ったようには見えない。まるで何者かに動かされている様子だ。
「何だ、一体…?」
さらに、彼の体が突然、熱を放ったと思ったら、蒸発する。
気体となって消えたアルカディアの体。しかし、そこに一人の男が立っている。
「……馬鹿な男だ、アルカディア! この俺に逆らうとは! 非常識だぞ!」
それは、謀反してきたアルカディアに消されたはずの、常田烈である。
「何が起きている……? 誰だこれは?」
この現象に理解が追いつかない三人。
これは、完全なイレギュラーである。本来蒸発しエネルギーとして吸収された常田の体は、たとえアルカディアがそのエネルギーを放出しても再構築するのは不可能である。現に彼に吸収された他の人や物は、その姿を取り戻せていない。人間が他の動物のタンパク質を食べ消化して吸収する際に、人のタンパク質として再構築するのと同じだ。だがこの異常事態は、それを可能としたのだ。これは常田の魂がアルカディアに憑依していたからだろう。
「俺は見ていた! 俺を裏切ったアルカディアの行動、『黒の理想郷』の意向、そしてここまでに至る戦いの全てを! 斿倭と言ったな? アルカディアを倒したことは褒めてやるが、その快進撃もここで終わりだ!」
この状況で冷静でいられる斿倭ではないが、彼は本能的に察する。
「コイツが、『黒の理想郷』の黒幕! 倒すべき真の相手だ!」
そうと決まれば、やることはただ一つ。戦うのである。
「いいだろう。斿倭! 滅ぼしてくれる!」
常田の思考が、取り憑かれていたアルカディアに影響されていたのか、彼の当初の目論見とは全く真逆のことを言った。
暗くなりだす大地の上で、真の最終決戦が始まる。