その①

文字数 4,389文字

「大丈夫か、蓬莱!」

 スコーピオを撃破した斿倭はやっと三人に追いついた。

「な、何とか……。では先を急ごう…」
「その前に手当てだろう? 蒐、苺! 何か持ってないのか?」

 二人は首を横に振る。応急処置は二人もしたのだが、それで完璧とは言えない。

「案ずるな、斿倭…。私は大丈夫だ、心配いらない。それよりも先に、シャイニングアイランドのコンピュータに向かおう…」
「蓬莱……」

 彼の意思を蹴ることは、斿倭にはできなかった。だから四人はシャイニングアイランドの事務局らしい建物に移動。

「ああ、これは…!」

 そこは目も当てられないぐらい悲惨だった。ほとんどのコンピュータが、破壊されているのだ。電源を入れようにもボタンすらなくなっているのがほとんどである。

「どうしよう、これじゃあ何もわからない…!」
「何かないのか! せっかくここまで来たって言うのに!」

 すると苺が、

「これならいけるかもしれないよ」

 と言って、ある物を手に取った。
 それは、携帯電話だ。誰のものかは不明で、おそらく業務用の通信機器だろう。

「……それにハッキングできても、あまり意味がないんじゃ?」
「やってみるべきだ」

 否定的な蒐に対して蓬莱は言った。

「そうだぜ! あらゆる可能性を試そう! やってみてくれよ、苺!」
「わかったよ!」

 幸いにもその携帯はまだ電源が生きている。苺がそれに触れると、液晶画面が光る。彼女の神通力は発動中、ハッキング対象の電源も確保できるので安心できる。

「これで一度でもメインコンピュータと接触していれば、私の神通力で何でも聞き出せるよ! 知りたいことは何?」
「まずは、残りの『夜空の黄道』は何人いるか。そうだよな、蓬莱?」
「ああ……。敵の戦力がどれぐらい残っているのか、確かめて安心したい…。苺、調べてみてくれるか?」
「オッケー!」

 まずはシャイニングアイランドの構成から検索。当然神通力者の存在は隠されているので、単に『夜空の黄道』と入れても何もヒットしない。
 だから、極秘ファイルの類も全てチェックする。それには一秒もかからない。

「ん?」
「どうしたの?」
「色部って人物がいてね。この人、経営や開発、宣伝に全く関わっていないの。なのに結構偉い立場…」

 その名を聞いた蓬莱は、

「それは怪しい。是非とも調べてくれ、苺!」

 強く促した。当然知っているからだが、それは口が裂けても言えないこと。

「うん、わかっ…!」

 頷こうとした矢先、急に電源が落ちる。

「え? どうして? 私の神通力、今までこんなことなかったのに!」

 困惑する四人。

 部屋の扉の方で、物音がしたのを斿倭は聞き逃さなかった。

「誰だ!」

 一気に地割れを起こし、音の主を捕まえる。

「あひゃ~~……」

 地面の割れ目に、女の子が一人はまっていた。

「この人が何かしたってこと?」
「そうみたいだな。やい、お前は誰だ!」

 しかし気を失っているためか、返事はない。
 代わりに、

「その子は、アリエスだわ。周りの電子機器を停止させることができる神通力者だわ」

 扉の向こうから声が聞こえた。

(ここにいることが、バレている…?)

 慌てて口を閉じる四人。だが、

「もう出できた方がいいわ。あなたたちがいることは既にわかっているわ。もし出て来ないなら、建物ごと潰すわ」

 脅しをかけられては、もうジッとしていられない。仕方なく顔を出すとそこには、

「あ、お前は……?」

 見覚えのある顔だ。というよりもさっき見たばかり。スコーピオが立っているのだ。

「あ、あなたは……ジェミニ!」

 スコーピオだけではない。瓦礫に突っ込んだはずのジェミニも、平然と立っている。

「あれは僕も死ぬかと思ったよ。でも良かった。ヴィルゴがすぐに駆け付けてくれてね」

 チラッと視線を送った先にいる美少女が、そのヴィルゴである。

「私にかかればあんな傷、へでもないわ!」

 彼女の神通力は、簡単だ。傷を治すことである。本来、神通力は人を傷つけるためにある力だが、まれにそう言った優しい力が出現することもあるのだ。だが、本来なら死に至るはずの傷を無理矢理治して、また負傷することを強いるとこもできることを考えると、彼女の神通力が間違っているとは一概には言えない。

「まずはアリエスを返してもらうわ!」

 斿倭たちの後ろから、急にカプリコーンが駆け抜けてアリエスのことを地割れから引き出し、助けた。そしてヴィルゴが手をかざすだけで、傷口が塞がる。

「一、二、三………。五人! ってことは『夜空の黄道』が全員ここに?」

 最初にその発想に至ったのは、蒐であった。

 アリエス、タウロス、ジェミニ、キャンサー、レオ、ヴィルゴ、リブラ、スコーピオ、サジタリウス、カプリコーン、アクエリアス、パイシーズ。十二星座が全て揃っているのだ。

「そうは思わないわ!」

 だがヴィルゴの意見は違う。

「さあ、誰でもいいわ。誰かが代表して、この戦いに決着をつけてもらうわ!」
「まだ戦うつもりなのか?」

 斿倭は言った。

「当たり前だわ」

 即答するヴィルゴ。

「私たちは、探し物をしていただけだわ! なのにあなたたちが邪魔するから、仲間と離れ離れになってしまったわ。返してもらうまで、ここから逃がすわけにはいかないわ!」
「待ってくれ、それは誤解だ!」
「ちゃんとした理解だわ!」

 拮抗する意見。斿倭としてはこれ以上、神通力を誰かを傷つけるために使いたくない。だがヴィルゴたち『夜空の黄道』は違う。自分たちの要求が通らないなら、相手を潰してしまっても仕方ないという発想。

「それにあなたたち、自分たちの状況が理解できてないみたいだわ」
「何?」

 すると突然、地面から植物のつるが飛び出した。とても太いつるで、建物に巻き付き崩壊させながら天へと伸びる。

「うおおお!」
「きゃあ!」

 足場が崩れたと同時に、姿を現した者が。
 それは将元と友里恵だ。二人は拘束され、大樹に吊るされているのだ。

「何だこれは! 将元、友里恵! 大丈夫か?」
「心配する必要はないわ。気を失ってもらっただけだわ。生きててもらわなくちゃ、人質交換の材料にできないわ」

 ヴィルゴによると、無事らしい。

「まさか、負けたから捕まったのか……?」

 蓬莱が言った。そしてその通りなのだろう、ヴィルゴが頷く。

「だが、二人がそう簡単に負けるとは思えない。潤一郎は、戦力として申し分ないと評価していた……。傷を治すことしかできないきみに負けるとは思えない」

 それ以外にも、電子機器の相手しかできないアリエスにも負ける要素がない。この時点で神通力がわからないカプリコーンになら敗北する可能性も蓬莱は考えたが、実のところ二人は彼に善戦できていた。

(スコーピオやジェミニが復活し、二人が負けたのか? それにしては早すぎる)

 何か、得体の知れない者がいる気がしてならない。しかし『夜空の黄道』は既に十二人が発覚している。だから隠されたメンバーなど、存在するとも思えない。

「……そういう考えは、やめて欲しいわ!」

 その常識にとらわれる考えを、ヴィルゴは否定する。

「その辺にしておきましょう。全員殺してしまったら、仲間の居場所がわからなくなってしまいます。ヴィルゴ、下がってください」

 奥から、女の声がする。ヴィルゴたちは振り向き、頭を下げた。

「ようこそ、シャイニングアイランドへ。でもできれば健在だったころに来て欲しかったです。今やこの園は見る影もない廃墟ですから」
「誰だ一体?」

 その十三人目に、斿倭は反応。

「私は、オフィユカスというコードネームを与えられた者です」
「おひ…?」

 聞きなれない言葉に混乱する斿倭。一方の蒐は、

「聞いたことがある! 確か、へびつかい座…!」

 黄道星座は、十二個とは限らない。さそり座といて座の間に、へびつかい座という星座が確かに存在するのだ。占星術にはあまり取り入れられないが、占いに関する知識が豊富な蒐は知っていた。

 オフィユカスは、真面目で物静かなイメージを与える少女だ。しかし考え方は他の『夜空の黄道』と同じで、

「あなたたちが私たちの仲間を誘拐し、どこかに監禁しているのは事実です。ですので、私たちが捕まえたあの二人と交換しましょう。そうしてくれれば、今回の件はこれ以上は咎めません。それともこの交換に応じないと言うのなら、あなた方の命は保証はできません」

 と、やや物騒で暴力的。

「そんなことは知らない! 二人を返せ!」
「それはできないと言ったばかりでしょう? 返して欲しいなら、交換に応じるか、それとも武力で解決するか……。賢いと思う方を選んでください」

 交渉は決裂。それもそのはずで、斿倭や蒐、苺には、『夜空の黄道』の他のメンバーがどうして行方不明になっているかがわからないからだ。
 理由は、蓬莱だけが知っている。

(私の仲間…『黒の理想郷』が捕まえているからだ。そうか、彼女ら『夜空の黄道』は、高校の神通力者たちが仲間をどこかに拉致・監禁していると思って襲撃してきているのか…)

 同時に責任も感じる蓬莱。

「なら、俺が出る!」

 横にいる斿倭が突然、言った。

「出る、とはどういう意味ですか?」
「戦うんだ、俺が! 二人を賭けてお前と!」

 拳を強く握りしめ、斿倭は叫ぶ。

「斿倭……」

 意外にも蓬莱が彼の心配をした。

「蓬莱……。俺は神通力は、みんなとわかり合うためにあると信じたい。でも時には、その力を使わないといけないんだ! 二人の仲間を救うために、今だけでいい……傷つけ合うという神通力の真の意味を俺は受け入れる!」

 己の信念を捨ててまでの覚悟。これはオフィユカスも拍手をして称賛し、

「いいでしょう。私とあなたの一騎打ち。勝てたらあの二人は解放してあげましょう。最も、私に勝てると本気で思っているのならですが…」

 勝負を受け入れる。『夜空の黄道』はまだ五人のメンバーが健在だが、戦うのはオフィユカスだけだ。それは斿倭側も同じ。

「もちろん負けた時は、覚悟していますよね?」
「ああ。どんな拷問でも受け切ってやるぜ!」
「私があなたに尋問するとでも? 生き残った最後の一人に聞けばいいんです。それにあの高校には、あなたたちの仲間もいるでしょう? だったら捕虜はいりません。この場で全員の息の根を絶つまでです」

 その返事に、斿倭はゴクリと唾を飲む。
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