その②
文字数 2,438文字
実は蓬莱、ディストピアの神通力を知らない。
(でも大丈夫だ! 斿倭だって神通力を知らない相手と何度も戦い、そして勝った! 同じことは私にでもできるはず!)
根拠のない自信が彼を支えているのだ。
逆に、ディストピアの方は蓬莱の神通力を隅々まで知り尽くしている。他の『黒の理想郷』のメンバーがいないという状況は良くても、このアドバンテージの差は埋めがたい。
蓬莱はいきなり攻めたりはしなかった。ただ相手の様子を観察した。が、当のディストピアの方もなかなか動かない。まるで襲い掛かってくるのを待っているかのようだ。
(と言うことは、能動的に何かができる神通力ではない…?)
そういう発想に至った蓬莱は、足元にいたトカゲを拾い上げた。これを三頭のヒュドラに変える。
(こういう時は、首を切られても増え続けられるヒュドラだ! かわいそうだが、ディストピアの神通力を探るためには仕方がない……)
それをディストピアに向かって投げる。最悪やられても毒が飛び散り攻撃することができる。
「お前の神通力では、こういうことしかできない。他力本願な力だ」
投げつけられたヒュドラをディストピアは上手くキャッチした。
「噛みつけ!」
指に牙を立てたその瞬間である。
ディストピアの体が爆発したのだ。
凄まじい衝撃波が蓬莱のことを襲い、体を後ろに動かした。同時に爆音も鼓膜に突き刺さる。そして煙で前が見えない。
「何が起きているのだ………? ヒュドラは爆発などしないはずだ!」
突然の出来事に理解が追いつかない。この爆発は少なくとも蓬莱の仕業ではないことだけは確かである。
「これがディストピアの神通力? だとしたら自爆すること?」
命と引き換えに相手を攻撃すること。もしそうなら、ディストピアは戦いが始まって早々に爆発四散したことになる。だが、
「どうしたホウライ? 冷静なヤツと思っていたが?」
煙が晴れると、そこにはディストピアの姿があった。しかも、あれだけの爆発の中心にいたのにかすり傷一つ負っていない。
「……幻覚か?」
自分で言っておいて蓬莱はその考えを疑った。感じた爆風も聞いた爆音も本物で、幻とはとても思えないのだ。
(どちらにしても、今は判断材料が足りない。ここはもう一度攻めて、ハッキリさせるしか)
野ネズミを拾い上げ、また神通力を使う。角が二つあるバイコーンに変える。
「頼むぞ、行ってくれ」
元の生物のサイズが小さいと、神通力を使ったとしても大きい姿には変えられない。頼りないその神話の獣を見るとディストピアは、
「所詮はお前の神通力、他人任せ。人を変えることができないから弱いのだ」
「確かにそうだ。私の力では、人を元にすることは不可能……。だが、あなたを倒すことくらいならできるはずだ!」
バイコーンは雄叫びを挙げてディストピアに突進した。が、小さい角を指でつままれ、さらに胴体も握られて引き千切られた。
「もはやこんな小物に勝利を託すことしかできないか。それなら私の神通力を使うまでもな………」
瞬間、足に違和感が走る。
「油断したな、ディストピア!」
既にヘビを捕まえていたのだ。それをペルーダに変え、地面を這わせ、背中のトゲをディストピアの足に突き刺していた。
「ペルーダのトゲには毒がある。これであなたも終わりだ」
「……本気でそう思うか?」
黙っていたが、蓬莱は心の中で首を横に振る。この程度でくたばるはずはない。
(しかし、解決するために神通力を使うはず! これでディストピアの正体がわかる!)
するとディストピアは、再び爆発した。
「…………! また、これか! さっきと同じことが」
やはり爆発に関する神通力で間違いない。問題はその先。煙の中に人影がある。
「そしてその中から、あなたがまた出てくるわけか」
ディストピアの姿だ。蓬莱は足元を見たが、トゲが刺さっていない。
(爆発で吹き飛ばした? だが、怪我の形跡すら見えない…? 体に回った毒はどうなった?)
その、蓬莱の疑問に答えるかのように、
「……私の神通力は、自爆することだ。だが、ただ無駄に爆ぜたりはしない。爆発の後、私の体は完璧に修復される。たとえどんな重傷を負っていても、なかったことになる!」
言った。
「な、何だと!」
その言葉は、蓬莱を驚かせた。
(それじゃあ、一撃でディストピアを殺さないと駄目だということか……! ダメージを蓄積させたり毒や火傷を負わせたりしても、まるで意味がないのか!)
道理でディストピアは、蓬莱に負けない自信があるわけである。
「そろそろ私から行かせてもらおうか!」
その言葉と共に駆け出し、一気に蓬莱との距離を詰める。
「だが、あなたに鍛えられた私の実力は、神通力だけじゃない!」
鋭いパンチを蓬莱は放った。が、それを無駄なく避けるとディストピアは逆に彼の腹を蹴り飛ばした。
「ぶわっ!」
内臓が破裂するかと思ったほどの衝撃だ。地面に倒れた蓬莱は、痛みで中々立ち上がれないでいる。
「こっちの方も、私の方が上! さあホウライ、お前を爆破して終わらせてやろう」
来る。だが蓬莱も黙って倒れているわけではない。
(近づいたら、これだ……!)
倒れた拍子に、トカゲを捕まえることができた。
(バジリスク…! 見ただけで死を与えられる力なら、ディストピアを殺せるはずだ!)
文字通りの一撃必殺にこの戦いを託す。
「死ぬがいい、ホウライ……!」
手刀を振り上げてディストピアが叫んだ。その時に蓬莱は、
「いいや! 死ぬのはあなたの方だ!」
バジリスクをディストピアの眼前に突き出したのである。
(見た! これで確実に、死ん……!)
その瞬間に、またディストピアは自爆する。
(でも大丈夫だ! 斿倭だって神通力を知らない相手と何度も戦い、そして勝った! 同じことは私にでもできるはず!)
根拠のない自信が彼を支えているのだ。
逆に、ディストピアの方は蓬莱の神通力を隅々まで知り尽くしている。他の『黒の理想郷』のメンバーがいないという状況は良くても、このアドバンテージの差は埋めがたい。
蓬莱はいきなり攻めたりはしなかった。ただ相手の様子を観察した。が、当のディストピアの方もなかなか動かない。まるで襲い掛かってくるのを待っているかのようだ。
(と言うことは、能動的に何かができる神通力ではない…?)
そういう発想に至った蓬莱は、足元にいたトカゲを拾い上げた。これを三頭のヒュドラに変える。
(こういう時は、首を切られても増え続けられるヒュドラだ! かわいそうだが、ディストピアの神通力を探るためには仕方がない……)
それをディストピアに向かって投げる。最悪やられても毒が飛び散り攻撃することができる。
「お前の神通力では、こういうことしかできない。他力本願な力だ」
投げつけられたヒュドラをディストピアは上手くキャッチした。
「噛みつけ!」
指に牙を立てたその瞬間である。
ディストピアの体が爆発したのだ。
凄まじい衝撃波が蓬莱のことを襲い、体を後ろに動かした。同時に爆音も鼓膜に突き刺さる。そして煙で前が見えない。
「何が起きているのだ………? ヒュドラは爆発などしないはずだ!」
突然の出来事に理解が追いつかない。この爆発は少なくとも蓬莱の仕業ではないことだけは確かである。
「これがディストピアの神通力? だとしたら自爆すること?」
命と引き換えに相手を攻撃すること。もしそうなら、ディストピアは戦いが始まって早々に爆発四散したことになる。だが、
「どうしたホウライ? 冷静なヤツと思っていたが?」
煙が晴れると、そこにはディストピアの姿があった。しかも、あれだけの爆発の中心にいたのにかすり傷一つ負っていない。
「……幻覚か?」
自分で言っておいて蓬莱はその考えを疑った。感じた爆風も聞いた爆音も本物で、幻とはとても思えないのだ。
(どちらにしても、今は判断材料が足りない。ここはもう一度攻めて、ハッキリさせるしか)
野ネズミを拾い上げ、また神通力を使う。角が二つあるバイコーンに変える。
「頼むぞ、行ってくれ」
元の生物のサイズが小さいと、神通力を使ったとしても大きい姿には変えられない。頼りないその神話の獣を見るとディストピアは、
「所詮はお前の神通力、他人任せ。人を変えることができないから弱いのだ」
「確かにそうだ。私の力では、人を元にすることは不可能……。だが、あなたを倒すことくらいならできるはずだ!」
バイコーンは雄叫びを挙げてディストピアに突進した。が、小さい角を指でつままれ、さらに胴体も握られて引き千切られた。
「もはやこんな小物に勝利を託すことしかできないか。それなら私の神通力を使うまでもな………」
瞬間、足に違和感が走る。
「油断したな、ディストピア!」
既にヘビを捕まえていたのだ。それをペルーダに変え、地面を這わせ、背中のトゲをディストピアの足に突き刺していた。
「ペルーダのトゲには毒がある。これであなたも終わりだ」
「……本気でそう思うか?」
黙っていたが、蓬莱は心の中で首を横に振る。この程度でくたばるはずはない。
(しかし、解決するために神通力を使うはず! これでディストピアの正体がわかる!)
するとディストピアは、再び爆発した。
「…………! また、これか! さっきと同じことが」
やはり爆発に関する神通力で間違いない。問題はその先。煙の中に人影がある。
「そしてその中から、あなたがまた出てくるわけか」
ディストピアの姿だ。蓬莱は足元を見たが、トゲが刺さっていない。
(爆発で吹き飛ばした? だが、怪我の形跡すら見えない…? 体に回った毒はどうなった?)
その、蓬莱の疑問に答えるかのように、
「……私の神通力は、自爆することだ。だが、ただ無駄に爆ぜたりはしない。爆発の後、私の体は完璧に修復される。たとえどんな重傷を負っていても、なかったことになる!」
言った。
「な、何だと!」
その言葉は、蓬莱を驚かせた。
(それじゃあ、一撃でディストピアを殺さないと駄目だということか……! ダメージを蓄積させたり毒や火傷を負わせたりしても、まるで意味がないのか!)
道理でディストピアは、蓬莱に負けない自信があるわけである。
「そろそろ私から行かせてもらおうか!」
その言葉と共に駆け出し、一気に蓬莱との距離を詰める。
「だが、あなたに鍛えられた私の実力は、神通力だけじゃない!」
鋭いパンチを蓬莱は放った。が、それを無駄なく避けるとディストピアは逆に彼の腹を蹴り飛ばした。
「ぶわっ!」
内臓が破裂するかと思ったほどの衝撃だ。地面に倒れた蓬莱は、痛みで中々立ち上がれないでいる。
「こっちの方も、私の方が上! さあホウライ、お前を爆破して終わらせてやろう」
来る。だが蓬莱も黙って倒れているわけではない。
(近づいたら、これだ……!)
倒れた拍子に、トカゲを捕まえることができた。
(バジリスク…! 見ただけで死を与えられる力なら、ディストピアを殺せるはずだ!)
文字通りの一撃必殺にこの戦いを託す。
「死ぬがいい、ホウライ……!」
手刀を振り上げてディストピアが叫んだ。その時に蓬莱は、
「いいや! 死ぬのはあなたの方だ!」
バジリスクをディストピアの眼前に突き出したのである。
(見た! これで確実に、死ん……!)
その瞬間に、またディストピアは自爆する。