その①

文字数 2,106文字

「無事だったか、斿倭」
「まあな。でも、相手には逃げられたんだ。神通力は一人一つしかないはずなのに、急に周りが明るくなって眩しくて、目を逸らしたほんの一瞬の隙に……」

 斿倭は、キャンサーが逃げれたのは何かしらの力を隠し持っていたためと考えている。だが、

(それはエルドラードの神通力。目を瞑らずにはいられない光を放てるからな。『夜空の黄道』を回収するのに斿倭が邪魔だったのだろう)

 蓬莱は真相を知っている。知っていて、

「それは残念だ。捕まえられたら何か聞き出せるかもしれなかったのだが……」

 と、とぼけてみせた。

「ところでよ蓬莱、『夜空の黄道』って何なんだ一体?」

 斿倭は疑問をぶつけた。

(やはり来たか。前の説明だけでは納得するはずがないだろうからな。しかし……)

 もちろん教えるつもりだが、どこまで話せばいいのか迷う。この時相談できる『黒の理想郷』の仲間は周りにはいない。

「なあ? どうしてアイツらは危険なんだ? 何が目的で、ここに来るんだ?」
「……どうやら、話すべき時が来たようだな…」

 意味深なことを蓬莱は口にした。


「『夜空の黄道』を知る前に、シャイニングアイランドについて知らないといけない」
「シャイニングアイランド? 確か、夏休みまでは営業していた遊園地だよな? それがどうかしたのか?」
「あそこはただの遊園地ではない。神通力者を選別するための場所。同時に神通力者を再教育する施設でもある」
「な、何ぃいいいい! そんなまさか!」

 驚いたのは、斿倭だけではない。一緒に話を聞いていた蒐もだ。

「確かだ。変だと思わないか? あそこは十五歳以下なら、無料で入れる。どうしてタダにできる? それは簡単で、シャイニングアイランドは神通力を覚醒させる術を持ち、それが適用できるのが十五歳までだからだ」
「で、でもそんなことしたら噂にならないの? 行方不明者が多いとか何とか…」

 蒐が聞いたが、

「……残念ながら、シャイニングアイランドがどうやって迷子を誤魔化しているのかは私も知らない。そういう神通力者がいるのかもしれない」

 流石の蓬莱にも知り得ない情報がある。

「でも知っていることは全て話しておこう」

 話題を切り替えた。そもそもシャイニングアイランドは崩壊済みで、そこに関することを話していても何も得しないのだ。

「シャイニングアイランドが獲得した神通力者は、コードネームを付けられてからチームに配属される。星座をコードネームに持つ者が、『夜空の黄道』というわけだ。その任務は、不明だ」

 ここのわからないということは、本来の任務がわからないという意味である。

「シャイニングアイランドが崩壊した以上、園のためになることを未だに続けているとは思えない。だから野心をむき出しにして、躍起になっているかもしれない」
「何に、だよ?」
「そこは私も知りたい。おそらく、居心地の良いことじゃないだろうな。そしてどういうわけか、この学校を嗅ぎつけ、襲い掛かってきた」

 都合の悪いところは誤魔化した。そして二人はそれに気づいていない。

「襲ってきた以上、何かしらの思惑があると見ていいだろう。問題はそれが、みんなを危険な目に遭わせることかそうではないのか……」

 かなり濁した話だが、斿倭も蒐も信じている顔だ。

(………)

『黒の理想郷』として、蓬莱のこのアドリブは完璧なものだった。だが一人の人として、斿倭の友として、嘘を吐いたことに違和感を抱いていた。言い表すことの難しいムカつきを覚えたのである。

「行ってみようよ!」

 蒐が切り出した。

「どこへ?」
「シャイニングアイランドだよ! 閉園してからまだそんなに時間経ってないじゃん? 何かわかるかもしれないよ」

 と言い、キーホルダーのおみくじを引いた。

「大吉! これは行かなきゃ神通力者じゃないでしょ!」

 運勢はかなり良い。だから行こうという蒐の提案。

「そうか! 蒐の神通力は占いを実現させること。大吉と出れば、必ずラッキーなことが待ってるんだな!」

 斿倭が言うと、蓬莱は止めない。

(シャイニングアイランドなら、既にシャンバラが重要な機密を破壊しているはずだが…? 何か新たにわかることなど……)

 そこで、いいや、と思いなおす。

(行くべきだな。蒐の神通力が言っている以上、新たにわかることが何かあるかもしれない)


 その日の内に、行ってみることになった。

「お前たちだけでは、心細い」

 潤一郎の粋な計らいで、三人の神通力者が追加された。一人は羽黒(はぐろ)(いちご)。触っただけで電子機器にハッキングが行える神通力の持ち主だ。シャイニングアイランドにコンピュータがあれば、彼女がそこから情報を拾い上げる。後は南川(みなみかわ)友里恵(ゆりえ)物差(ものさし)将元(しょうげん)。この二人は戦力として申し分ないという判断。

「よし、行くぜ 出発だ!」

 放課後に六人は学校から直接、シャイニングアイランドに向かった。
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