その①

文字数 3,466文字

「早急にわからせる必要があると思うんだ」

 放課後、クラスでは作戦会議が行われていた。

「司も寛治も負けたからな。おまけに蒐は使い物にならなそうだし。全く面倒なことになりそうだぞ、これは」

 転校生の内、片方の神通力しかわかっていない。

「そこで、だ。四天王を使う」
「も、もう出すのか?」
「今出さないで、いつ使うんだ? この機を逃したら大変なことになりかねない」

 その四天王が、斿倭と蓬莱に牙を向けることになる。


「あ、おはよう! 昨日の勝負はどうだったの?」

 蒐は登校してきた斿倭と蓬莱に挨拶をした。

「ああ、俺が勝ったよ」
「ええ、すごい! 寛治の強運に勝てるなんて、信じられない……」
「私も見ていたが、あれは見事だった」
「ちょっといい?」

 三人の会話に、無理矢理入ってくる人物がいた。それは紅星(べにぼし)千里(ちさと)

「なあに千里?」

 蒐が聞くと、

「勝負を挑むわ、お二人に!」
「何と!」

 彼女ももちろん神通力者である。その勝負の内容とは、

「誰でもわかる事柄……すごろく!」

 百マスが書かれたボードとサイコロを一つ持っている。普通なら呆れる場面だろうが、寛治の例もあり二人は一々反応しない。

「それがきみの武器、神通力かい?」
「そうよ! まあ見てなさい!」

 と言って千里は、斿倭、蓬莱、そして蒐の肩を順番に叩いた。

「うう、何だ……? 気分がわ、るい…?」

 すると、急に意識が遠のいていくのだ。

 次に目が覚めた時、四人は千里の用意したすごろくの上にいた。体が縮んでいるのである。

「これが私の神通力よ! あんたたちに断る権利はないわ! 強制的に体を縮ませて、すごろく勝負に持ち込む!」
「おいおい……。これ、元に戻れるんだろうな?」

 斿倭が聞くと代わって蒐が、

「上がれれば元通りだよ。それは千里の後でも前でも一緒。ゴールにたどり着くことだけが大事」
「……と言うことは、途中で戦いを放棄したら一生この小さい体のまま、というわけだな?」
「蓬莱君、察しがいいじゃない」

 一方的に自分のペースに持ち込もうとする千里。しかしそれを遮るかのように、

「まずは俺がサイコロを振る!」

 斿倭が動いた。サイコロは重くなく、普通に持ち上げて振る。

「おいぃ、たったの二かよ?」

 一応、出目通りに進む。すると止まったマスに文字が浮かび上がる。

「『ハチに刺されて一回休み』……? 何これ?」
「マスの指示内容は、実際に起きるわ!」

 その時、蓬莱の目の前をどこからもなく現れたハチが一匹通った。それは他の三人には目もくれず、斿倭の腕に着地すると同時に毒針を突き刺す。

「いったっあ!」
「このすごろくは結構乱暴でね、マスの指示は過激な内容もあるわ。でも大丈夫。ゴールにたどり着ければいくら負傷してても体は元通り!」

 それは逆に、ゴールにたどり着くまでに力尽きたら本当に死ぬことを意味している。

「さあ次は誰の番?」


 強引に始まった、千里が仕掛けた勝負。

(進めれば進めるだけ、体がボロボロになる。しかも命を失う可能性すら……)

 それは何としてでも避けたい。これはこの能力の持ち主である千里も同じ。自分の神通力で死ぬことになったら、シャレでは済まされない。

 斿倭の次は、蒐だ。

「えい!」

 出目は六。結構いい感じだ。だが、

「ええっと何々? 『ゴキブリが出てきて驚く。ニマス戻る』? はあ、何それってえええええええ!」

 現れたゴキブリは、何と蒐と同じ大きさ。これに驚かない人はいない。

「どうせならあと二、三マス戻らせてよ……」

 その次は、蓬莱。

「四、か。指示は『栄養ドリンクを三本飲んで三マス進む』……」

 目の前に、ドリンク瓶が出現。だがラベルには、一日一本まで、と記載されている。これを無理して三本飲むのも、ある意味体を傷つける行為だ。飲んだ後は三マス足を進める。

「ふ、やっと私の番ね…!」

 サイコロを手に取った千里はそれだけで勝ち誇ったような顔をしている。

「寛治が振ればいい目が出るでしょうね。でも私の運勢は普通でいいわ! じゃあ、行くわよ!」

 振った出目は、四。マスの指示は、

「ふ~む、『転んで肘を擦りむく。次の番、出目は一引かれる』ね」

 この反応に蓬莱、

(どうやら千里のすごろく、マスの指示は毎回変わるようだな。出なければサイコロを振って目が出た瞬間に、どういう内容かわかるはず……)

 それはつまり、この勝負は斿倭たちも千里も公平であるということ。

 二巡目。斿倭は休みなので、蒐がサイコロを振る。

「三つ進んで……『カニに指を挟まれる。一マス戻る』か」

 言い終えたその瞬間、既に左手の上にカニが。そして彼女の小指を挟んだ。

「痛い! 左の小指はやめてよ、赤い糸が切れちゃう!」

 続いて蓬莱。今度は五と、好調。

(指示内容だが……神通力の特性を考えるに、過酷な内容しかないはずだ。人を傷つける手段なのだから…)

 肝心の指示は、『カッターで指を切る。次の番、出目が偶数でないと進めない』というもの。

「つ……!」

 この時彼は手を腰に当てたのだが、どうしてか腰のポケットからカッターの刃が出ており、それで切った。もちろん血も流れる。

(流石は傷つけることを目的としたすごろくだ。百マスで本当に良かった。二百もあったら確実に体がもたない……)

 そして最後に千里の番。しかし、出目は一。

「出目から一引かれるってことは、千里ちゃんは動けないってこと?」
「そうなるはずだ。そしてその場合、マスの内容は……?」

 蓬莱の言いたいことを察した千里は、

「変わるわよ、足踏みして同じマスでもね。そういうすごろくだから」

 そしてその発言に違わず、『捻挫して一回休み』と出た。グキッと音がすると立っていられずに千里はしゃがんだ。

「面白い…! 己の身を削りながらのすごろく、そしてそれが千里の神通力…!」

 サイコロを手に取った斿倭の顔は何故か、輝いている。これは気が狂ったからではない。

「相手を知るには、相手の神通力を見るのが一番早い! こういう状況にできる千里の神通力は、俺の神通力が通じないんだ。ここは勝つことで、自分に磨きもかかるし相手も知れる」
「勝つって、本気? 私にあんたが?」
「おう! だって勝負ではそれが当然の感情だろ?」

 そしてサイコロを振る。斿倭のやる気に答えるように、出目は六。

「あぁ、でも指示は『結膜炎になる。次の番、四以上なら逆に戻る』かよ。次はデカい目は出せないな…」

 しかしまだこの勝負は千里が優勢なのか、多く進めなくなるマスの指示は辛い。

「さ、次の番は蒐だろう? 早く振れよな!」

 これには千里だけではなく蓬莱も驚いた。

(この、傷つくだけのすごろく……普通なら続けること進めることにためらいがあってもいい。進めば進むほど、傷が増えるんだから。しかもあがれなかったら、体が安全という保証はない。となれば、できれば少しずつ時間をかけてダメージを受けた分体を回復させて、それからちょっとずつ攻略していくのが普通の考え。何も急ぐ必要はないはず。だが斿倭はその一般的な思考とは決定的に違う! 狂気じみているが、そうでもない。神通力者同士のぶつかり合いに、何かを見出そうとしているんだ)

 その何かは、以前斿倭が言っていたことを指すのだろう。

(わかり合うこと、か。人を傷つける力を彼は、そう解釈してるんだ。だから全力で勝負に挑んでいるわけか。相手を知るには、神通力を知ればいい。そうしたら仲良くなれると思っているのだろう。これでは相手と精神的に通じ合うための力……でもそれを略しても、神通力になる)

 こうなると、この勝負の邪魔をするべきではないだろう。蓬莱はそう判断し、

「蒐、早く振るんだ。そしてサイコロ私に回してくれ」

 勝負を早く回すことを選んだ。

「え、わかったよ…」

 急かされたために彼女は振った。そして出目通りに移動し、指示に従う。

「うげっ! 『虫歯になる。一回休み』! ていうか、痛い! もう奥歯が痛い! 痛たたた!」

 頬を手で押さえながら蓬莱にサイコロを託す。

(どんな目でもいい。斿倭の足さえ引っ張らなければ……!)
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