その②

文字数 2,459文字

 その日の夜のことである。千葉県のとある砂浜に、二人の男が立っていた。

「こんなところに呼び出して、一体何がしたいんだ、アルカディア?」

 一人は『黒の理想郷』を陰で操っている、常田である。

「常田様、その辺は申し訳ないとは思っている。でも僕たちも、ハッキリさせないと気が済まないんでね…」
「何だ? 何が言いたい? まるで俺が、隠し事をしているかのような口ぶりだな?」
「そうでしょう? 実際に」

 アルカディアのこの態度は、本来なら絶対に許されないものだ。自分の君主に毒を吐く騎士がどの世界にいるだろうか? 

「あなたの語る、神通力者だけの世界に憧れ、僕ら『黒の理想郷』はシャイニングアイランドを裏切った。そして今、そのシャイニングアイランドは崩壊して消滅した。今田の考えよりも常田、あなたの方が正しかったわけだ」

 事実今田の安否は不明で、他の神通力者の集団もどうなっているのかはわからない。

「ああ、そうだ。俺の方が常に正しい」

 そういう常田に対しアルカディアは冷たく、

「そうかな? 僕には、いいや僕らには、そうとは思えない」

 と返事をした。

「どういうことだ、アルカディア?」
「だから、あなたが隠し事をしている。それを暴き、しかるべき報いを受けさせるためにここに呼んだ!」

 まるで常田が罪人であるかのような口ぶりだ。これには常田も黙っていない。

「おい貴様! そんなことを言ってタダで済むとでも思っているのか? いくら『黒の理想郷』でも、これは聞き逃せないぞ?」
「聞き逃す? 寧ろ逆だ、最後まで聞いていただきたいね。そして……」

 一旦ためてから、

「そして、この世からご退場願おうか常田烈!」

 言うと同時に、アルカディアは常田のことを睨んだ。

「クッ!」

 瞼の動きに反応し、常田は横に飛ぶ。

「やはり…。僕の神通力を知っているなら、そう動く! いいや、動かざるを得ない。何故なら僕が睨んだその瞬間、あなたは消えてしまうから!」

 常田の背後にあった消波ブロックが一個、突然消えた。

「どうやら、本気らしいな……。お前、俺を相手にすると? 常識的な判断ではない」
「これは僕の独断ではない。みんなと話し合って出した、『黒の理想郷』としての決断だ。たとえここを切り抜けても、もう誰もあなたにはついて行かない」

 分隊の方にはディストピアにしか伝わっていなかったが、『黒の理想郷』の本隊は、常田の疑惑について調べていたのだ。

「フンッ! 俺が何をしたって言う? 常に『黒の理想郷』のためになることをしているだろうが!」
「では、最初の疑問をあなたにぶつけよう」
「疑問だと? 疑われるようなことは常にしていないぞ!」

 アルカディアは、いや『黒の理想郷』はあることに疑念を抱いていたのだ。

「ディストピアに言った時、彼は、同胞の血を流したくない、と言って納得していた。でもそれは彼の解釈であって、僕らの解釈ではない」

 何のことだ、と常田が聞けば、

「それが第一問! どうして『夜空の黄道』の者たちを生かしておいたのか、ということ!」

 アヴァロンの神通力を使って彼らをミニチュアの街に隔離していた。それは、生かしておくようにという命令があったからだ。

「一見すると腑に落ちるような流れにはなっている。が! 実はそうではない! あなたの隠し事故の矛盾が、姿を現している!」

『夜空の黄道』と敵対しているのは、『黒の理想郷』だけだ。しかも『黒の理想郷』からの一方的な敵意である。こちらから喧嘩を売らなければ、『夜空の黄道』が反応することもなかったのだ。

「仲間は常に多い方がいいだろう? 違うか?」
「仲間……? あなたは本気で、誘拐した人物を従えられるとでも思っているのか? 生かしておいたのには、理由がある。それをまず、あなたに尋ねよう」

 発問を受けて常田は、

「ディストピアの言った通りだ。常にできることなら、神通力者の血を流したくはない。それに、シャイニングアイランドについて聞きたいこともあった。だから人質の命を奪わなかったのだ。これが理にかなっていないように聞こえると言うのか、アルカディア!」

 彼はコクンと頷くと、

「シャイニングアイランドを裏切った以上、僕らとシャイニングアイランドはわかり合えない完全な敵同士。どちらか一方のみが立っていることを許される間柄。言い換えるなら、シャイニングアイランド側の人間は一人も生かしてはいけないということ。それなのに人質? それはおかしい」

 アルカディアの指摘はまだまだ続く。

「それに! ディストピアから聞いた話じゃ、水蠆池高校とかいう場所には神通力者が集められたクラスがるとか……。そんなことができる人間は、シャイニングアイランドぐらいだろう。でもそこはもう崩壊したし、そもそもあの園には『太陽の眷属』なるシャイニングアイランドに起源を持たない神通力者もいた」

 彼は、水蠆池高校に神通力者を集めていたのは常田の仕業ではないかと疑っている。

「まあこちらは確証がないのでハッキリしないけど。でももしそうなら、あなたの行動はとあることに起因していると言える!」

 その、とあること。それは、

「あなたは帰りたいんだ、シャイニングアイランドに!」

 裏切り者であるはずの常田が、そんなことを願うはずがない。だがアルカディアは、でまかせを言っているとは思っていない。

「そんなことを俺が、常に考えているとでも? バカを言え! 俺たちはシャイニングアイランドを見限り裏切った! 戻りたいと思うわけがないだろうが、常識的に考えろ!」
「その、ジョーシキ的じゃない発想を抱かせるのが感情なんだよ」

 常田の反論に全く動じないアルカディア。ただ、自分が調べ上げたどり着いた事実を述べる。

「既に調べはついている。白を切るのは勝手だが、あなたの中身は真っ黒だ」
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