その③

文字数 2,998文字

「やっとまともなダメージを与えられた!」

 斿倭はガッツポーズをした。間欠泉に放り込まれた時は焦ったが、斿倭は自分で起こした火山や間欠泉によって傷つくことはないので、服がずぶ濡れになった程度で済んだのである。

「それで勝った気かよ? とんだ甘いヤツだな!」

 一々発言に食いつく願平。

「どうした? 勝ちたいなら、もっとやって来いよ!」
「ああ、行かせてもらうぜ!」

 まずは斿倭、神通力を使って願平の立つ地面を隆起させ盛り上げた。これでバランスを再び崩す作戦だ。でもそれは通じず、願平は丘になった地面から飛んで逃げる。

「その先に、ぶち込む! 間欠泉を!」

 着地に合わせて地面が熱湯を噴き出す。しかし、

「ワンパターンなヤツだ。そんなの通じない!」

 これも読まれている。湯の柱の切れ目を器用に通り抜け、そして安全に着地したのである。

「次は………」

 再び願平は神通力を使い、未来の動きを予想する。

「地割れか!」

 下を向いた。すると地面が割れ始めた。

「フンっ!」

 今度は大ジャンプをし、先ほど斿倭が隆起させた丘の頂上に戻る。

「まただ、また避けられ………。いや、違う!」

 この時、斿倭の中で閃いた。

(コイツ、俺が地割れを起こす前に、叫んでいた。ということは、俺が何をするか予め知っていたってことだ。すると導き出される答えは……)

 ここでやっと、願平の神通力の正体がわかる。

(未来予知! それ以外にない!)

 斿倭の神通力で地面がどう動くかを知っていれば、避けるのは難しいことではない。それは先ほどから願平が身をもって証明している。

(どう戦う? 予知が相手じゃ、こっちの打つ手は筒抜けだ。意表を突かないと勝てない。どうやって予知の外から攻撃を加えるか……!)

 悩んだ末、斿倭はある行動に出る。

「おい、どうした…?」

 何と彼は、自分が割った地面の中に飛び込んだのだ。

「これも何かの作戦か!」

 丘から降りた願平は、反射的に目を閉じ未来を見る。

(い、いや! 何も起きない! 斿倭の姿は数秒先にはない!)

 でもまだ安心できない。何度か神通力を使い、ちょっとずつ先の未来を見てみる。けれども一向に斿倭が出て来ないのだ。

「どうしたんだ? 何がしたいんだ、斿倭! まさか逃げたのか!」

 叫んでも返事はない。

「もしや、蓬莱が……」

 まさかのことを考え蓬莱の方を見たが、彼は座っているまま。

「違うとなると…?」

 やはり地面からの攻撃、と考えるのが普通だ。だがここで願平は困惑することになる。何度未来を見てみても、地震や地割れ、隆起や陥没が起きることはないのだ。火山もなければマグマも噴き出さない。

「おい蓬莱! これは、斿倭は勝負を放棄した、と見なしていいだろうな?」

 しびれを切らして願平は叫んだ。これに蓬莱が頷けば、自分の勝利になる。
 だが、

「私はそうは考えない。一つアドバイスをするなら、目のやり場が違う、としか言えない」

 蓬莱は信じているのだ。斿倭は決して諦めないと。

「はあ? 意味不明だぜ? 何でお前にそんなこと言われないといけねえんだよ、俺が!」

 未来を先取りできる願平からすれば、このアドバイスは屈辱そのもの。自分が一番、斿倭の出現に気を使っているからである。

「もういい! 斿倭は自滅したんだ! 次はお前だ!」

 我慢の限界が来て蓬莱に手を挙げようとしたその時である。
 ドス、ドスっと何かが地面に落ちる音がした。

「何だ?」

 それは、岩だ。黒く、そして白い煙を吐き出しているほど熱い岩。

「こんなものがどうし……」

 バチン、という音がした。

「ぐげええ!」

 頭を叩かれた願平は立っていられずに、地面に崩れ落ちた。そして立ち上がろうとしたが、誰かに頭を押さえつけられて動けない。

「だ、誰だ! 蓬莱か!」
「俺だぜ?」

 疑ったが、そうではなかった。何と斿倭である。

「何でお前がここに? 地割れに自分から飲み込まれたはずじゃ…?」
「そうだ。そして地面に潜って適当な場所までマグマの中で移動し、火山を噴火させる。火山弾と一緒に俺の体をここ目掛けて飛ばしたんだぜ」
「馬鹿なことが、そんな……」

 しかし現実である。斿倭は実際にそれをしてみせたのだ。

「だから私は言ったんだ。目のやり場が違う、とな。もっとも斿倭の神通力を知っていれば、下に注意が行くのは仕方がないことだろうが…」

 身動きは取れず、おまけに地面に打ち付けられた願平には、もはや勝つ術はない。


「チクショウ……。この俺が負けるとはな……」

 善戦はできたのだが、結果は敗北。これでは意味はない。

「願平! お前に聞きたいことがある。誰かが命令しているんだろう?」
「と言うと?」

 蓬莱が解説を入れた。

「千里たちは自ら進んで勝負を挑んだように見えるが、私はそうではないと考える。まだあのクラスの状況を完全に飲み込めてはいないし、司や寛治の件もあるから、純粋に実力を試すことが目的とホームルームの時まで考えていたが、そうではない。神通力者が集められていることを考慮すれば、誰かに命じられて格付けするために勝負を挑んできた、とわかる」

 つまりは、あのクラスには親玉が存在する。そしてその人物は、転校生である斿倭や蓬莱のことを支配下に置きたいのだろう。だからクラスの神通力者を差し向けてきたのだ。

「でも、愛子や恒吉に聞いてもさ、答えをはぐらかされるんだ。言っちゃいけない、って感じに。だけど願平、ここなら誰も見ていない。だから言っても大丈夫だぜ? いや、答えてくれ。俺と蓬莱が直接その人物と勝負する!」

 二人の発想は単純である。

「私たちは別にクラスを支配したいんじゃない。全員と友好的な関係を築くには、敵対する意思を潰さないと駄目だ…。そう判断したんだ」

 蓬莱が、言葉だけだが斿倭の心情を代弁した。すると願平は隠すこともなく、

(もん)潤一郎(じゅんいちろう)だ」

 と答えた。意外にも素直だったので、逆に二人は驚いた。

「どうせ、俺が負けたらアイツらが直に動く。黙っている意味はないからな…」

 それを聞いた斿倭と蓬莱は、すぐにでも戦いを挑むために学校に戻った。


「斿倭…。きみは本当に、願平らを動かしていた人物とわかり合えると思うのか?」

 戻る最中、蓬莱が斿倭に聞いた。

「ああ。だって同じ神通力者だろう? だったらできるはずだぜ。どんな人とだって、仲良くな!」

 しかしその思考は、蓬莱には全く理解できない。

(神通力は人を傷つけるためにある力…。それ以上でも以下でもない。実際に願平は戦いを挑んできているわけなんだ、向こう側もそれをわかっているはず。なのに、友好的になれるわけがない! それは神通力の正しい使い方じゃないんだ)

 彼にはそういう発想があるために頭が、斿倭の思考を拒んでいるのだ。それは神通力者にとっては全く新しい発想。神通力者の常識を把握しきっていると言えば聞こえはいいかもしれないが、言い換えれば今までの神通力者のことしか知らない蓬莱は、まだ飲み込める段階にいないのである。
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