その③

文字数 2,725文字

「あなたは誰でしょう?」
「あたしはザナドゥ。あんたには負けないわよ!」

 オフィユカスはザナドゥと名乗る女と対面していた。

「行くわよ! 殺してやるわ、あんたなんて簡単に!」
「そうですか。では早速」

 ポケットから卵を取り出し、それを孵化させて成長させ、ワニをザナドゥに投げつける。

「きゅああああ!」

 腕に噛みつかれたザナドゥは甲高い悲鳴を上げたが、オフィユカスは躊躇うつもりがない。次の瞬間には、食いちぎられた。

「片方の腕を失って、バランスが悪そうですね。一気に楽にしてあげましょう…」

 だが、ザナドゥの力も強い、片腕だけでワニの脳天をパンチで貫いて殺す。

「でも、あたしの神通力が計算に入ってないでしょう?」

 そう言うと、突然ザナドゥの失われた腕が、再生した。

「ん、これは……」

 これが彼女の神通力だ。脳か心臓のどちらかさえ残っていれば、体を何度でも再生することが可能。もちろんこのことは知られれば弱点となるため、ザナドゥは口が裂けても言うことはない。

「さあて、ちゃんと始めるわよ?」

 しかも疲労までぶっ飛ぶのか、体力が減っている様子もない。

「ですが、既に遅いんです」

 この校庭についた時点で、オフィユカスは地中に植物の根を張り巡らせていた。地面の下なら、地表がいくら吹雪いていても関係ない。いつでも根を出現させて攻撃できる。
 飛び出した植物の根は、槍のようにザナドゥの体を貫いた。

「無駄だわ! あたしの神通力がわかってないんじゃないの?」

 しかし、彼女はその根を切断して体から抜くと、空いた穴を再生させて塞いだ。

「どうやら……あなたを倒すには、一撃で殺めないといけないらしいですね」

 蓬莱のように空想動物を使えれば、それは簡単だろう。だがオフィユカスは普通の生物を異常に成長させることしかできない。

(毒でも試してみますか…)

 スズメバチを生み出し、ザナドゥのことを刺させた。

「いった~い! やったわね!」

 するとザナドゥの体から、刺された部分が即座に剥がれた。そして彼女は逃げ出そうとしたハチを握りつぶした。

(毒が体内に入っても、その部分を強制的に切り離すことができるというわけですね…。となると、毒も効きそうにない)

 これは手間がかかる。オフィユカスがそう確信した瞬間、ザナドゥの方が走り出して拳を振って襲い掛かった。策を考えていたために一瞬反応に遅れ、オフィユカスは殴られてしまった。

「どうよ!」
「……よくもやりましたね、あなた……」

 静かに怒るオフィユカス。もう作戦に頼ることはしない。ただ本能で戦う。もしかしたらそれが最適解なのかもしれないのだ。
 考えるよりも前に、オフィユカスの手が伸びる。見事にザナドゥの顎を打ち抜いた。

「す、鋭いパンチ…! これは油断ならないわ!」
「本気で来ることをお勧めしましょう。じゃないと後悔するでしょう…」
「なら、お望み通りにしてやるわよ!」

 ザナドゥも本能全開で戦うつもりだ。もとよりここに来ている時点で、相手は一人も生かしては帰せないのだから。
 先に動いたのは、ザナドゥ。足を瞬時に伸ばしてオフィユカスの腹を蹴った。

「……そう、来ると思いました、よ…」

 痛みを堪えて向こうから差し出してきた足を掴み、力を入れて骨ごと砕く。

「いつつ…。でも意味はない! あたしの神通力ですぐに再生できる!」

 砕けた部分かトカゲの尻尾のように千切れ、切れ口から新しい足が伸びる。この時ザナドゥは痛みしか感じない。だからオフィユカスのこの行為はザナドゥの言うように無意味。

「……と、本当に思っていますか?」
「どういう意味よ?」

 だがこの時、足を再生している間がチャンス。オフィユカスはジャンプし、ザナドゥの額を膝蹴りした。

「あっう!」

 神通力を使える状態だと、いつまで経ってもザナドゥを倒せない。ならば、意識を失わせればいいのだ。多少汚さは感じるが、気絶している間に叩く作戦。脳を揺さぶれば意識が飛ぶはず。
 なのだが、

「馬鹿ね、あんた!」

 全然効いていない。逆に着地する前に、パンチを二発もくらってしまった。そのせいで態勢が崩れ、地面に落ちた。

「結構やりますね……」

 ここまで自分の思い通りにならないと、絶望する。

「さあどうするのよ? 言っておくけどあんた、絶対に逃がさないわよ? あの世でサボテンなりカエルなり育ててなさいよ」

 優位に立っているザナドゥは余裕の表情を見せている。

(本当に一撃で絶命させなければ、勝てないというわけですね……)

 それは、不可能である。自分の神通力を誰よりも深くわかっているオフィユカスがよくわかっているのだ。

(もう、ムキです)

 考えることをまたやめた。そしてザナドゥに殴り掛かる。耳や唇を掴んで思いっ切り引っ張る。

「いたたたたた! 何すんのよ!」

 当然ザナドゥも反撃をしてくるが、意に介さない。まるで子供の喧嘩のように、引っ張ったり引っ叩いたりの繰り返しだ。先に音を上げた方が負け。

「んぐぐぐ……」
「さっさと死になさいよ、コイツ!」

 女同士なのに華がない戦い。オフィユカスはこの戦法が正しいとは思っていない。それは、これで倒せるとは考えていない、という意味ではない。本当に何も思いつかないので、ただ手足や体を動かして雑に戦っている、ということだ。神通力すら使用していないのがその証拠。

「くっ! うっ!」

 ここでザナドゥが隙を見つけ、後ろに下がった。これ以上オフィユカスから暴力を受けたくない意思が現れているのだ。そこに、無言で突っ込むオフィユカス。本来の彼女なら、相手の動きを予想し、最適な生き物を成長させて差し向けていただろう。だがここは、体当たりを選んだ。

「ああっ……!」

 その突進を受け、ついにザナドゥの体が地面に崩れる。どうやら気力が尽きたらしい。

「ふ、ふう……」

 ここでやっとオフィユカスは我に返った。

「どうせ殺すことはできないんですから、拘束しておきますか……」

 地面の下から植物のつるを出現させ、ザナドゥの体を巻き付け動けないよう縛る。

「ここはこれでいいです。どうせあなたの神通力は、再生力だけなんですから。この植物は私の意思がなければ枯れることもありませんし、それにあなたは動けなければ戦力にはなりません」

 何とか勝利したオフィユカス。引っかかれたりして負傷したが、まだ戦えるので、吹雪の中に新たな敵を求めて飛び込む。
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