プロローグ

文字数 1,181文字

 人と人との繋がりとは、実に不思議なものだと私は思う。

 群れを成す動物は少なくない。しかしその多くは、例えば哺乳類のオオカミであったり虫のハチであったり、ほぼほぼ血の繋がりのある個体で形成されている。まあ、彼ら彼女らには感情という概念がない、または薄いので、赤の他人と打ち解けるということができない結果なのかもしれない。

 人間は、この地球上で唯一感情を持ち、それを豊かに表現できる生物であると私は思う。喜びがあれば悲しみがある。緩みがあれば怒りもある。私が表現できないくらいに豊富だ。そしてそれらを他人にぶつけることができる。複雑に絡み合う感情は、全てを共有することなど不可能に近い。
 だから、自分以外はどこまでいっても他人でしかないと私は考えていた。特に友情というものは、とても理解に苦しむ事象だ。

 何故、他人と友好関係を築く必要があるのか。そもそも友達とはどんな存在なのか。私の師はそれを教えてはくれなかった。ただ、言われたことを理解できれば良いのだ。そのような発言を受け、私は信じて生きてきた。
 しかしその人生は、抜け殻のように空っぽだった。私の体に流れる血は温かいのに、心には温もりがまるでないのだ。ぽっかりと開いた穴を埋めるものを私はずっと求めてきた。もしかしたら、そんなものはないのかもしれない。私が何かを求めているということ自体、実は現実ではなく、さらに虚無なことかもしれなかった。
 この道をそのまま歩むのなら、命ある限りずっと一人きりだっただろう。

 神通力という言葉がある。本来の用途は仏教用語なのだが、私の仲間は超能力と混同されるのを避けるために、神通力と言うことを選んだ。神に通ずる力の名が示す通り、科学では説明できず、平凡な人には理解することすらできないだろう。そして、他人を傷つけることが許された能力だ。
 仲間がそれを有している以上、私も持っている。そしてその存在もあって、私は普通の人とは違った生活を送り、当たり前の人生からは外された。

 持って生まれたわけではない。神通力は完全に後天的な才能なのだ。だから生まれた時は普通の人間になる可能性を持っていたし、何なら名前も違った。私も、仲間もみんなそう。記憶を奪われる代わりに、授けられたのだ。神通力者になる以前の思い出は残念ながら、脳から完全に消去されていて、私は親の顔も生まれた場所も思い出せない。
 だから、生きている上で名前があり、記憶もある他人を見ると、妬み、憎く思ってしまう。そういう感情を抱いてしまうから、増々仲良くなることの意味が見えなくもなった。

 本来ならば、あの命令は受けるつもりがなかった。だが、私以外に適任がいないので引き受ける運びとなったのだ。
 その最中、私は出会うことになる。あの男に。それは、私の人生を真逆に変えることだった。
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