その③

文字数 1,980文字

「ここか……?」

 ユニコーンに案内されて着いた、『黒の理想郷』のアジトと思われる場所。

「閉鎖された市の体育館? 確かに立ち入りは禁止だけど、こういうところに隠れているの?」

 アリエスの発言に対し願平は、じゃあ『夜空の黄道』の隠れ家はどうなんだ、と聞いてみたかった。辞めた理由は、無駄に口を開きたくないからである。

「とにかく、入りましょう。そのユニコーン……もとい蓬莱を信じるなら行くべきです」

 オフィユカスのパンチは、体育館のドアを一撃でひしゃげさせた。次に蹴り飛ばして道を開ける。
 体育館の中は、特撮映画の撮影スタジオのようなミニチュアの街が設置されていた。そしてそのドアの近くにいた男が反応する。

「な、何だ…! お前たち…?」

 驚いた顔をしているのは、ニライカナイだ。

「そうか…! 『夜空の黄道』だな…? どうやってここを嗅ぎつけたのかは不明だが、この環境汚染に耐えかねて、原因を探ろうって魂胆だろう…? 違うか…? 違わないよなあ…?」
「うるさいよ、君!」

 前に出た正義。そして神通力を使うのだ。

「とっておきなんだけどね、使うべきは今だと思うんだ」

 その身勝手な化学反応は、ニライカナイの呼吸を阻害した。

「ぐ…? む、胸が痛え…? 何をした貴様…!」
「君にも汚染された空気を味わってもらっているんだ。そういうことをしている自覚はあるかい?」
「だが、これで勝ったと思うなよ…? 勝負はここから…」
「悪いが、ここまでだ」

 正義が少し後ろに下がると、その背後に隠れていた願平が飛び出す。渾身のアッパーをくらわせた。

「……」

 ニライカナイ、沈黙。すると汚染は一気に解消され、まるで何事もなかったかのような雰囲気を取り戻す。

「ヴィルゴ、彼は生きていますよね?」
「気を失っているだけだわ」

 オフィユカスの指示でヴィルゴがニライカナイの傷を治した。とは言ってもそんなにダメージを受けているわけではない。彼女の神通力では、意識を取り戻させることはできないのだが、今回はそれが好都合。

「ちょうどいい! 縄で縛ろう。んでもって俺の神通力で縄を金属に変えれば、もう逃げられない!」

 カプリコーンが拘束する係。

「で、あれはどーするの?」

 スコーピオの指差す先には、ミニチュアの街にドライアイスの煙を流し込んで遊んでいる子供がいる。余程夢中なのか、騒ぎに気づいていないのだ。

「……他に人はいないようですね? ではジェミニ、おねがいしま……」

 命令が途中で途切れたのは、言われるよりも早くジェミニが動いたからではない。ミニチュアの中に、小さくなっている人がいるのだ。しかも、知っている顔である。

「ああー! 僕たち『夜空の黄道』の仲間だ! こんなところに監禁されていたのか! しかもアイツ、遊んでやがる……」

 もう何日も満足な食事をさせてもらえていないらしく、みんな顔色が悪い。怪我をしている人もいて、体が赤くなっているのだ。

「あはは~! ドライアイスだぞ~? ぼさっとしていると死ぬぞ~? 逃げろ、逃げろ~! んで次は~ねずみ花火かな? 爆発爆発!」

 この瞬間、この男…アヴァロンが何をしているのか、『夜空の黄道』たちは理解した。

(弄んでいる! 人を遊び道具としか思っていない、最低な人間!)

 生きる価値なし、との判断が下された。
 ジェミニがアヴァロンの腕を掴むと、

「お、おい何するんだよ? これからが楽しいんだぞ、邪魔するなよな! って言うか、君誰?」

 やっと反応があったが、既に遅い。ジェミニの神通力が作動し、磁力を与えられアヴァロンの体が弾き飛ばされる。

「何するんだよ、人が楽しんでるって時に!」
「じゃああ~、ウチも楽しんでいーんだよね~?」
「はあ? ぼくの邪魔をするな~!」

 逆上したアヴァロンは何も考えずに、スコーピオに突撃する。

「ばっかじゃないの~?」

 もちろん向かってくる相手にスコーピオが神通力を使わないわけがない。毒液を数滴飛ばすと、瞬時に全身に回ってアヴァロンの体が床に倒れた。筋肉が痙攣しているためか、喋ることすらできずに死んだ。
 これによって、アヴァロンの神通力は消滅。ミニチュアの街に閉じ込められていた『夜空の黄道』の仲間たちは無事、元の大きさを取り戻した。

「よかったです。正直言うと、二、三人は諦めなければいけないと思っていました……」

 やっとの思いで再会することができたためか、オフィユカスですら涙を流さずにはいられなかった。そして一人一人抱き合って心臓の鼓動、生きている証を確認する。

「感動的だな、邪魔はしたくはない。外でも見張るか」
「だね。ん、そう言えば蓬莱はどこだ……?」
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