第7話 熊のような男
文字数 1,363文字
「ダルシア法王国に忠誠を誓ったこと、くれぐれも忘れないでくださいね」
サクラ・リイン・ダルシアは、ナユタにもう一度念を押すと亜空間を使い自分はダルシア法王国へ戻っていった。
ナユタ・エルリカ・アルにとって、シエルクーン魔導王国は初めて足を踏み入れる土地である。
少々、不安げな気持ちでキョロキョロしながら歩いていたら、熊のような男にぶつかってしまった。
怪力の彼である。
普段は細心の注意を払ってはいるのだが、不慣れな場所で注意が散漫としていたのだ。
ナユタはその熊のような男を思い切り突き飛ばしてしまったのである。
その熊のような男、見るからに山賊のような風体だ。
ナユタとしても、新しい土地に来ていきなり荒くれ者ともめたくはない。
逃げるか? これは逃げるべきだな。
ナユタはドラゴに合図すると、思い切り駆け足で逃げた。
この怪力の少年、逃げ足も速い。
逃げ足も速い……のであったが――
かなり遠くまで逃げてもう大丈夫だと思った瞬間、目の前にその男がいた。
魔導の力で空間転移してきたようだ。
ナユタは殺されるのではなかろうかと動転した。
「お、お、お、お」
「『お』がどうかしたでやんすか?」
熊のような男は真顔である。
「お、お、お、お願いですから、殺さないでください」
「何を言っているのでやんす? 殺したりしないでやんすよ」
「で、では何で追いかけてきたのでしょうか?」
「それは、坊ちゃんがあっしを突き飛ばしたからでやんす」
そう言って、熊のような男はニカっと笑った。
なぜ笑ったのだろうか? 正直かなり怖い。
殺したりしないというのは、殺さない程度に痛めつけるという意味だろうか? ナユタはそう思った。
「な、何でもしますから許してください」
「何を言っているのでやんすか? あっしは怒っていないでやんすよ」
「では何で追いかけてきたのでしょうか?」
ナユタはもう一度聞いた。
「このあっしを突き飛ばすなんざ、かなりの力でやんす。いえ、あっしはね強ええ男が好きなんでさあ」
もしかして、この男も俺の体目的か? ナユタは気が動転している。逃げよう。もう一度逃げるのだ。
ナユタがまた逃げようとしたとき、雨が降り出した。
最初はポツリ、ポツリと降っていた雨だが、やがてざあざあ降りとなった。
「雨でやんすね。ひどい雨でやんす。今日はもう帰るとするでやんすかねえ」
熊のような男は【白魔導・傘】を唱えた。男とナユタの上に透明な傘が現れ、降りつける雨をはじいた。
ドラゴも慌ててその傘の中に入る。
「魔導書の精でやんすね。それもかなりの由緒正しき魔導書の精とお見受けするでやんす」
ドラゴは何も言わなかった。余計なことは言わないことにしているのである。
「あっしはベアー・サンジ・ドルザという者でやんす。昔は山賊のようなこともしていやしたが、今ではすっかり足を洗ったでやんす。ですから、怖がることはないでやんすよ」
「お、俺はナユタです。ぶつかって、すみません……」
「それにしても、すごい力でやんすね」
ナユタは話してよいものか少し迷ったが、〈ブシン・ルナ・フォウセンヒメ〉という女神から『恩寵』を与えられたことを説明した。
サクラ・リイン・ダルシアは、ナユタにもう一度念を押すと亜空間を使い自分はダルシア法王国へ戻っていった。
ナユタ・エルリカ・アルにとって、シエルクーン魔導王国は初めて足を踏み入れる土地である。
少々、不安げな気持ちでキョロキョロしながら歩いていたら、熊のような男にぶつかってしまった。
怪力の彼である。
普段は細心の注意を払ってはいるのだが、不慣れな場所で注意が散漫としていたのだ。
ナユタはその熊のような男を思い切り突き飛ばしてしまったのである。
その熊のような男、見るからに山賊のような風体だ。
ナユタとしても、新しい土地に来ていきなり荒くれ者ともめたくはない。
逃げるか? これは逃げるべきだな。
ナユタはドラゴに合図すると、思い切り駆け足で逃げた。
この怪力の少年、逃げ足も速い。
逃げ足も速い……のであったが――
かなり遠くまで逃げてもう大丈夫だと思った瞬間、目の前にその男がいた。
魔導の力で空間転移してきたようだ。
ナユタは殺されるのではなかろうかと動転した。
「お、お、お、お」
「『お』がどうかしたでやんすか?」
熊のような男は真顔である。
「お、お、お、お願いですから、殺さないでください」
「何を言っているのでやんす? 殺したりしないでやんすよ」
「で、では何で追いかけてきたのでしょうか?」
「それは、坊ちゃんがあっしを突き飛ばしたからでやんす」
そう言って、熊のような男はニカっと笑った。
なぜ笑ったのだろうか? 正直かなり怖い。
殺したりしないというのは、殺さない程度に痛めつけるという意味だろうか? ナユタはそう思った。
「な、何でもしますから許してください」
「何を言っているのでやんすか? あっしは怒っていないでやんすよ」
「では何で追いかけてきたのでしょうか?」
ナユタはもう一度聞いた。
「このあっしを突き飛ばすなんざ、かなりの力でやんす。いえ、あっしはね強ええ男が好きなんでさあ」
もしかして、この男も俺の体目的か? ナユタは気が動転している。逃げよう。もう一度逃げるのだ。
ナユタがまた逃げようとしたとき、雨が降り出した。
最初はポツリ、ポツリと降っていた雨だが、やがてざあざあ降りとなった。
「雨でやんすね。ひどい雨でやんす。今日はもう帰るとするでやんすかねえ」
熊のような男は【白魔導・傘】を唱えた。男とナユタの上に透明な傘が現れ、降りつける雨をはじいた。
ドラゴも慌ててその傘の中に入る。
「魔導書の精でやんすね。それもかなりの由緒正しき魔導書の精とお見受けするでやんす」
ドラゴは何も言わなかった。余計なことは言わないことにしているのである。
「あっしはベアー・サンジ・ドルザという者でやんす。昔は山賊のようなこともしていやしたが、今ではすっかり足を洗ったでやんす。ですから、怖がることはないでやんすよ」
「お、俺はナユタです。ぶつかって、すみません……」
「それにしても、すごい力でやんすね」
ナユタは話してよいものか少し迷ったが、〈ブシン・ルナ・フォウセンヒメ〉という女神から『恩寵』を与えられたことを説明した。