第11話 幻と現実

文字数 1,255文字

 少年王はマルコ・デル・デソートを見た。
 なぜだろう?
 なぜ、エスタが会いに来たのをマルコだと思ったのだろう?
 彼は嫉妬していたのかもしれない。

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」

 エスタ・ノヴァ・ルナドートはそう言い、マルコに近づいた。

「あなたがマルコ・デル・デソート?」

 エスタ、その者は今日は少女の姿をしている。赤い服を着ていて、胸に下がる赤、緑、橙色の3つの石からできた首飾りが重そうに見える。

「う、う、う、う」

 マルコは返答に困っている。
 目の前にいる少女はいったい誰なんだろう?

「君は誰?」
「私?
 ふふふ、名前を聞かれたのは久しぶり。
 私はエスタ、
 エスタ・ノヴァ・ルナドートよ」
「あ、あ、あの、エスタ?
 っていうか、どういうこと?」
「【神の祝福】ね」

 エスタはマルコの額に手を当てて言った。
 ブシン・ルナ・フォウセンヒメがマルコに【神の祝福】を与えたとき、彼の額に口づけをしたのだ。

「フォウセンヒメもどういうつもりなのかしら?」
「あの女神様、俺の額にキスしたんだ」

 エスタは本当に可笑しそうな顔をした。

「あなたは黒魔導の【恩寵】を受けている上に【神の祝福】も受けている。
 よく魔導臨界を起こさずに済んでいるわ。
 よほど、魔導のキャパシティがあるのね」
「俺、魔導の力は自信があるんだ」

 エスタはまた笑った。
 この世界の【主神】に魔導を自慢するマルコも相当なものだ。

「そう。でも力に溺れてはダメよ」

 エスタはマルコに忠告をし、そして、老人であったはずの青い光の塊へと向かうと、その塊を両手で掴み、

「これはどうするんです?」と、ノリスに聞いた。

「エスタ様、エスタ様、わたくしは、わたくしは」
「ノリス、私はあなたを責めているのではないの。
 これをどうするのか? と聞いているのです」

 青い光の塊はエスタの両手の中でブルブルと体を震わせた。

「『幻』でございます。
 すべて、あなた様が見せている『幻』なのでございます」

 青い光の塊が言う。

「私が見せている幻? 幻なのかしら?
 この世界は私が創った世界ではないから分からないけれど。
 でも、私には『幻』も『現実』もどちらも同じ」
「あなた様が見せている『幻』でございます。
 そして、アル様こそが『真の王』なのでございます」

 エスタはため息をついた。

「アルが真の王?
 それでは、アルは『幻の世界の王』ということかしら?」
「いいえ、アル様が王になったとき、あなた様がこの世界にかけた魔法が解け『幻』が『現実』になるのでございます」

 青い光の塊は、少し間をおいてさらに言葉を続ける。

「あなた様はご自分でなさったことを理解されていないのでしょうか?
 そんなことはありませんよね。
 あなた様は本当のことを言わないのです」

 あなた様は……と青い光の塊がさらに言葉を続けようとしたとき、エスタはそれを遮った。
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