第17話 魔導書の黒猫

文字数 1,759文字

 クロノ鴉が次々と打ち込んでくる矢を、アラタは器用に避けることができた。
 しかし、避けるばかりではどうにもならない。
 どうやってやっつければいいんだろう?

 アラタは試しに特大〔ファイア・ストーム〕を放ってみた。
 親方のヒヨコを黒焦げにした技である。
 しかし、特大の〔ファイア・ストーム〕であったが、クロノ鴉の羽根を少しちりちりと焦がしただけだった。
 ちっともダメージを与えられていない。

 せめて剣があればと思い、アラタは、剣よ現れよ! と念じてみた......
 剣よ現れよ! 剣よ現れよ! ......しかし、いくら念じても現れない。
 ですよね、そんなもんですよね......アラタは落胆した。

 そんなことをやっていると、奥の書棚の黒魔導書がさらにカタカタと音を立てて床に落ちた。
 バサッと落ちた瞬間、黒魔導書から何か出た。黒猫であった。
 
 (あ、魔導書から黒猫。これきっとあれですね。魔導書の精ですね)

 黒猫は「ご主人様(マスター)! ご助力いたします!」と言った。

 (ご主人様って何ですか? あと、ご助力って、エネルギー吸われるやつですかね? ああでも助けてくれるなら助けて下さい)

「なんだかよく分からないですけど、助けてください!」
はい(イエス)! ご主人様(マスター)! 黒い海に集う神々よ、我に力を与えよ、【黒海・炎・真理の火】」

 魔導書の精・黒猫は、黒魔導【黒海・炎・真理の火】を唱えた。

 黒猫の左前足の肉球が赤く光ると、閃光のような炎がクロノ鴉たちを焼き尽くす。
 クロノ鴉は赤い魔障となり消えた。
 彼らが放った矢も魔障となり消えていった。
 一瞬の出来事であった。
 スゴい! とアラタは思った。

 それと、とりあえず、エネルギーは吸われなかった。
 そういえば、白梅はM(マンマ).M(マリア).M(マキナ)なる者の詠唱許可が必要だと言っていたが、この黒猫は白梅のようにM.M.Mとやり取りしていない。
 不思議に思ったアラタは聞いてみた。

「M.M.Mとかいうものの詠唱許可は必要ないの?」
「M.M.Mの詠唱許可? 何ですか? M.M.Mって?」
「白梅さんはM.M.Mに詠唱許可を得る必要があるって言ってた」
「白梅さん?」

 魔導書の精・黒猫は、きょとんとした顔をしている。

「黒猫さんは白梅さんを知らないですか?」
「存じ上げないですね。あ、それと私の名前はクロヒメです」
「あ、僕はアラタです。アラタ・アル・シエルナです」
「アラタ・アル・シエルナ? ご主人様(マスター)ってそんなお名前でしたっけ?」

 店主の紫スライムさんが驚いている。

「こりゃあ、驚いたねえ、魔導書の精なんて久しぶりに見たよ」
「魔導書の精って、やっぱり珍しいんですか?」
「珍しいなんてもんじゃないよ、しかも坊やのことご主人様だって言ってる」

 そうだ、ご主人様ってなんなんだろう?

「クロヒメさん、ご主人様(マスター)って何ですか?」
ご主人様(マスター)ご主人様(マスター)です」
「ええと、よく分からないんですが......」

 頭が痛くなりそうな予感がしたので、これ以上は聞かないことにしました。

「その魔導書は、坊やにあげるよ」
「え、くれるんですか?」
「かなり値打ちのある魔導書なんだけどね、魔導書の精がご主人様(マスター)って認めちまってるからねえ。もう売り物にならないよ」

 よく分からないことばかりだが、アラタはくれるというなら貰っておくことにした。
 彼が魔導書を拾うと、クロヒメは魔導書の中に戻って行った。

「魔導書をくださいまして、ありがとうございます」

 アラタはきちんとお礼を言った。

「いいよ。魔導書の精なんてめったに見られるもんじゃないしね。いいもの見せてもらったよ」

「ところでなんですが、このへんに冒険者ギルドありませんか? 闇の」
「闇の?
 あるっちゃあるけど、それこそ子供の行く場所じゃないよ。
 まあでも魔導書の精がご主人様って認めるほどなんだから大丈夫かねえ」

 魔道具屋の店主の紫スライムは、そう言いながらアラタに闇冒険者ギルドの場所を教えた。
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