第24話 貧民窟の掃討作戦

文字数 2,609文字

 最初の異変はギルド長の部屋からであった。
 ギルド長のエイジ・エル・エラルドが大騒ぎしているので、アラタはギルド長室へ行ってみた。
 ギルド長は「蛙! 蛙がぁ!」と騒いでいる。
 見ると、(ダーク)(フロッグ)がギルド長室にたくさん湧いていた。

「これはダーク・フロッグですね」
「俺は蛙だけはダメなんだ! 蛙、嫌い!」

 アラタはひのきの短剣でダーク・フロッグを刺してみる。
 ダーク・フロッグは弱く、なんということもなくやっつけることができ、赤い魔石となった。
 それより、以前から聞いてみたかったことがある。

「エイジさんは僕と同じ『紋章の入墨』が入れられているんですよね。ということは......」
「そんなことより、蛙! 蛙をなんとかしてくれ!」

 (エイジさん、ギルド長なんだから強いはずなのに)

 仕方なくアラタは次々とダーク・フロッグをやっつけていった。
 ギルド長室のすべてのダーク・フロッグを退治すると、今度は外から騒ぎ声が聞こえた。

「ダーク・フロッグだ! ダーク・フロッグの大群が押し寄せてきたぞ!」

 窓から外を見ると、町中が蛙の魔物(モンスター)、ダーク・フロッグであふれかえっている。

 アラタは外へ飛び出て、ダーク・フロッグをやっつけていった。
 町の皆さんもアラタが作ったひのきの短剣でダーク・フロッグと戦っている。

 これが、女神の言う『王による貧民窟の掃討作戦』なのだろうか?
 まるで子供のイタズラみたいだ、とアラタは思った。

「なんだこのモンスター弱いじゃないか」
「俺たちでもやっつけられるぞ!」

 ダーク・フロッグは次々とやってきたが、町の皆さんも次々と蛙のモンスターをやっつけていく。
 討伐されたダーク・フロッグは赤い魔石となる。

 問題はその赤い魔石であった。
 しばらくすると復活してまたダーク・フロッグに戻ってしまうのだ。
 通常は冒険者ギルドにて赤い魔石に処置を施し、モンスターに戻らないようにするのだが、今回は量が多すぎて処置が間にあわない。
 どうしよう?

 クロヒメの提案で「町の広場に魔石を集めてください」というので、町の皆さんに手伝ってもらい、大量の赤い魔石をいったん広場に集めることになった。
 しかし、集められた赤い魔石は、どんどん山のようになっていく。

 そうこうしているうちに、また押し寄せてくるダーク・フロッグ。
 山となっていく赤い魔石。
 魔石から復活するダーク・フロッグ。
 やっつけてもやっつけてもキリがない。

ご主人様(マスター)、私の【魔法陣・剣】と白梅さんの【魔導結界・梅】の発動許可を出してください!」

 【魔法陣・剣】と【魔導結界・梅】の仕掛けは、クロヒメと白梅が事前にこの広場にしておいてある。

「え、発動許可? 発動許可が必要なんですか? しかし、クロヒメさんはこないだ、魔道具屋さんで発動許可なんてなしに魔導を発動してましたよね?」
「いいえ、あのときマスターは " 助けてください!" と言いました」

 (あ、そういえば言ったかも)

「でも、白梅さんはM(マンマ).M(マリア).M(マキナ)に許可を得ないといけないみたいですよ」
「マキナ? マキナの許可が必要なの?」

 クロヒメは白梅に聞いた。

「はい。一応そういうきまりになっていますが」
「そうなの。でもマスターの許可があればかまわないんじゃないかしら?」
「クロヒメ先輩がそうおっしゃるならそうします」

 (マキナって一体なんなんだろう?)

「ちなみにそれってエネルギー吸われるやつですか?」
「魔法陣・魔導結界に騎士のエネルギーは不要です。」
「ええと、騎士のエネルギーって何ですか?」

 アラタは分からないことだらけであった。

「もう! ご主人様(マスター)、早く発動許可を出すのです!」
「は、はい。発動許可します。発動してください。お願いします」
はい(イエス)! ご主人様(マスター)! 黒い海に集う神々の名において【魔法陣・剣】を発動します!
 白梅の【魔導結界・梅】と共に!」

 クロヒメの左前足の肉球から赤い光が、白梅の両手の肉球からもうっすらと白い光が放たれた。
 【魔法陣・剣】と【魔導結界・梅】が発動した。

 赤く光る魔法陣と白くて透明な梅の花弁が、山となった赤い魔石を覆った。

 【魔法陣・剣】は魔石から復活するモンスターを自動的に撃退し、【魔導結界・梅】はモンスターが結界内から逃れられないようにする効果がある。

「なんだ! そんな便利なものだったのなら早く言ってください」
「といいますか、ご主人様(マスター)が魔導に関する知識がなさすぎる気がします」

 とはいえ、ダーク・フロッグはさらにこの町へやって来る。
 ダーク・フロッグを討伐するたび、広場の魔石の山はどんどん大きくなっていった。
 やはり、やっつけてもやっつけてもキリがない。

 と思っていたら、なんか魔石と魔石が合体していっているような......
 いや、合体していってる!
 魔石は合体し巨大魔石となった。
 そして、巨大魔石が巨大ダーク・フロッグになったのである。

 (巨大ダーク・フロッグ! ど、ど、ど、どうするんですか? これ)

ご主人様(マスター)! 魔法陣と魔導結界が破られるまであと9.5秒です!」
「ええーっ、9.5秒って、ど、どうすればいいんですか!」
ご主人様(マスター)! 落ち着いて! 力を解放して真理に語りかけるのです!」

 真理に語りかけるって?
 真理に語りかける......真理......真言......アル家の真言......
 アラタの心の中に懐かしい言葉がよぎった。

「【真言・斬・神聖なる剣よ】」

 アラタの口からその懐かしい言葉が漏れた。
 それは、アル家に伝わる真言(まな)と呼ばれる呪文である。
 いつそんな呪文を覚えたのか彼は自分でも分からない。

 アラタが呼び出した神聖なる剣が巨大ダーク・フロッグの心臓を突き刺す。
 巨大ダーク・フロッグは咆哮とともに口から血を吐いた。
 その魔物(モンスター)は魔石には戻らず赤い魔障となり消えた。
 そして、神聖なる剣も消えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み