第20話 ゾンダークの司祭

文字数 1,090文字

 アラタは女神、フォウセンヒメに近寄り話しかけた。

「ねえ、どうしたの?」

 アラタが話しかけてもフォウセンヒメは呆然として声を出さない。
 いったい、どうしたというのだろう?

「あなたはどちら様で? はてさて、どこかで見たような気はするのですが」

 ゾンダークの司祭がアラタに話しかけた。
 司祭にはフォウセンヒメは見えていないようだ。

「僕はアラタ・アル・シエルナです。アル・シエルナ自治領の領主です」
「ああ、なるほど、それで見たことがあるような気がしたのですね。アル・シエルナ自治領ですか……」

 司祭は、一瞬、蔑むような表情を見せた。

「それより、この彫像から触手が伸びたように見えましたが、あれは何ですか?」
「これは、〈ダトゥル=ザ・オ・ゾンダーク〉様です」
「ダトゥル=ザ・オ・ゾンダーク?」
「はい。ゾンダーク様はこの全ての宇宙の創造主と言われています」

 ゾンダークの司祭はゾンダークの名前を出すたびに、恍惚とした笑みを浮かべる。
 触手については、何も言わなかった。

「宇宙の創造主? 創造主って、エスタ・ノヴァ・ルナドートではないの?」

 シエルクーン魔導王国や、ダルシア法王国では、ルナドートが主神とされている。

「いえ、ゾンダーク様は『全ての宇宙の創造主』なのです。失礼ながら、ルナドート様は『今現在のこの世界の創造主』にすぎません。しかも……」
「しかも?」
「いえ……ゾンダーク様と、ルナドート様は異なる考えをお持ちのようで……アラタ・アル・シエルナ殿、あなたはゾンダーク教には関わらない方が良いでしょう」
「関わらない方が良い? 何故?」

 司祭はうつむき、急に無表情になった。

「私はゾンダーク教の中でも比較的中立の立場をとっております。それゆえ、シエルクーン王都中央のこの神殿の司祭を任されております。これ以上の詳細は申せません。しかし、決して私はあなたの味方ではございません。シエルクーン王との "みせかけの友好" のために、この神殿にいるのです」

 彼は、小声になりそう言った。

「みせかけの友好って?」
「いえ、さあ、お帰り下さいませ。アル・シエルナの自治領主様」
「いったいぜんたい、皆さんはここで何をやっていたのですか? あのさっきの触手は何ですか?」
「お帰り下さいませ、アル・シエルナの自治領主様」

 アラタが何を言おうが、司祭はもう「お帰り下さいませ」としか言わない。
 女神は呆然としているし、マルコはリリさんのことで動揺している。
 アラタは、「ああもう!」と思った。
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