第14話 法王国の王女
文字数 1,339文字
サクラ・リイン・ダルシアは、その日、ダルシア法王国王宮にいた。
もちろん、王女であるのだから王宮にいるのは当たり前のことではある。
しかし、奔放な性格である彼女にとって王宮での生活は退屈でしかなかった。
天気の良い日であったため、彼女は王宮の中庭まで出てきている。
すると、中庭に大柄な男がいた。
「お父さま? お父さまが中庭にいらっしゃるなんて珍しいこと」
サクラがお父さまと呼ぶのは、もちろんダルシア法王国の国王である。
彼はダルシア法王国随一の白魔導士でもある。
「珍しいなんてことはないぞ」
王宮の中庭には様々な花々が植えられている。普段は専属の植木職人が世話をしているが、たまにこうして国王自ら花々の世話をしているのだ。
しかし、まるで熊のような大柄の男である。それが一生懸命に花の世話をしているのだから、なんだか可笑しくなってサクラはふふふと笑ってしまった。
「おお、私の可愛い王女よ、何を笑っておるのだ?」
「だって、お父さまがお花の世話をしているなんて知らなかったものですから」
熊のような大柄の男だという点で既にお分かりであるかもしれない。彼は市中に出るときには、
「サクラよ、お前こそ中庭に出てくるなんて珍しいのではないか?」
王女はその質問には答えなかった。
「王宮での生活は、退屈でございます」
「退屈ほど幸せなものはないのだぞ」
と国王は言う。「退屈ほど幸せなものはない」と言っても、まだ16歳の彼女にとってその意味するところは理解できないかもしれない。
「サクラよ、市中に出ることは当面禁止だ」
「ああ、お父さまにもバレていましたか」
「当たり前のことよ」
「しかし、お父さまこそ、まるで山賊のような姿をして町に出ているではありませんか?」
「おお、王女殿下、バレていましたか!」
サクラ・リイン・ダルシアは、父王の真似をして「当たり前のことよ」と言った。そうして、二人で笑い合った。
サクラはこれまで、花というものにそれほど興味を持っていなかった。その彼女が花の咲く中庭に出てきたのは、恋をしていたからかもしれない。
彼女自身は、自分が恋をしていることにまだ気づいていないだろう。
相手は、ナユタ・エルリカ・アルである。
「サクラよ、アル家の男と出会ったな?」
父王はそれでも優しい口調で聞いたつもりであった。しかし、アルという名前に彼女は動揺を隠せなかった。
「お父さま、なぜそこまでご存知なのですか?」
「王女よ、わしはこれでもこの国の王だ。この国で起こることは、すべてわしの耳に入る」
「アル家の者と会ってはいけませぬか?」
「いけぬとは言わぬ。だが、あの者は……」
法王国の国王は、「だが、あの者は……」の続きを言うことをためらった。
「だが、あの者は何ですか?」
「会ってはいかんとは言わぬが、あの者の背負う運命を考えるとな」
ダルシア法王国国王にして、この国随一の白魔導士、ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは、自分の娘・サクラが、ナユタ・エルリカ・アルの伴侶となれるとはとても考えられなかったのである。
もちろん、王女であるのだから王宮にいるのは当たり前のことではある。
しかし、奔放な性格である彼女にとって王宮での生活は退屈でしかなかった。
天気の良い日であったため、彼女は王宮の中庭まで出てきている。
すると、中庭に大柄な男がいた。
「お父さま? お父さまが中庭にいらっしゃるなんて珍しいこと」
サクラがお父さまと呼ぶのは、もちろんダルシア法王国の国王である。
彼はダルシア法王国随一の白魔導士でもある。
「珍しいなんてことはないぞ」
王宮の中庭には様々な花々が植えられている。普段は専属の植木職人が世話をしているが、たまにこうして国王自ら花々の世話をしているのだ。
しかし、まるで熊のような大柄の男である。それが一生懸命に花の世話をしているのだから、なんだか可笑しくなってサクラはふふふと笑ってしまった。
「おお、私の可愛い王女よ、何を笑っておるのだ?」
「だって、お父さまがお花の世話をしているなんて知らなかったものですから」
熊のような大柄の男だという点で既にお分かりであるかもしれない。彼は市中に出るときには、
ベアー・サンジ・ドルザと名乗っている男
である。「サクラよ、お前こそ中庭に出てくるなんて珍しいのではないか?」
王女はその質問には答えなかった。
「王宮での生活は、退屈でございます」
「退屈ほど幸せなものはないのだぞ」
と国王は言う。「退屈ほど幸せなものはない」と言っても、まだ16歳の彼女にとってその意味するところは理解できないかもしれない。
「サクラよ、市中に出ることは当面禁止だ」
「ああ、お父さまにもバレていましたか」
「当たり前のことよ」
「しかし、お父さまこそ、まるで山賊のような姿をして町に出ているではありませんか?」
「おお、王女殿下、バレていましたか!」
サクラ・リイン・ダルシアは、父王の真似をして「当たり前のことよ」と言った。そうして、二人で笑い合った。
サクラはこれまで、花というものにそれほど興味を持っていなかった。その彼女が花の咲く中庭に出てきたのは、恋をしていたからかもしれない。
彼女自身は、自分が恋をしていることにまだ気づいていないだろう。
相手は、ナユタ・エルリカ・アルである。
「サクラよ、アル家の男と出会ったな?」
父王はそれでも優しい口調で聞いたつもりであった。しかし、アルという名前に彼女は動揺を隠せなかった。
「お父さま、なぜそこまでご存知なのですか?」
「王女よ、わしはこれでもこの国の王だ。この国で起こることは、すべてわしの耳に入る」
「アル家の者と会ってはいけませぬか?」
「いけぬとは言わぬ。だが、あの者は……」
法王国の国王は、「だが、あの者は……」の続きを言うことをためらった。
「だが、あの者は何ですか?」
「会ってはいかんとは言わぬが、あの者の背負う運命を考えるとな」
ダルシア法王国国王にして、この国随一の白魔導士、ウイト・ウェルギリウス・ダルシアは、自分の娘・サクラが、ナユタ・エルリカ・アルの伴侶となれるとはとても考えられなかったのである。