第27話 アル・シエルナ自治領

文字数 1,691文字

「羨ましい?」
「え、ええ。羨ましいです......そうだお兄様、魔導捕縛を解除いたしましょう」

 魔導捕縛が解除されるやいなや、アラタは目の前にいる少年王に殴りかかった。
 しかしアラタの右手は何も無い空間を殴っただけであった。
 あれ? アラタはあきらめない。もう一度殴りかかる。
 しかし、やはりアラタの右手は何も無い空間を殴っただけである。

「お兄様、いくら頑張っても僕には勝てませんよ。
 この部屋は僕が魔導結界をはっていますし、
 お兄様はまだ、アル家の血の力を思い通りに発動することはできないようですし」

 そう言って少年王はアラタをもう一度、魔導捕縛にかけた。

「僕は本当にお兄様が羨ましいですよ。
 生まれてこのかたこの王宮の中しか知りません。
 そして、この王宮でくり広げられるのはくだらない陰謀ばかり」
「だからなんだと言うんだ?」
「お兄様は分かってくださらないのですね」

 少年王はアラタの理解を得られなく残念そうな顔をした。

「さっきも言いましたが、やっかいな出来事がありましたよね?
 『蒼き死の病』のことですよ。
 お兄様のお友達が白魔導を発動してくださったかと思います。
 でもそれだけではダメです。
 僕は異界の神と契約して、病を発生させている魔物を駆逐しました」
「あ、そうだったの?
 でも女神様が邪神の糸を切っちゃったけど」
「ちょうど、駆逐し終えたところだったので問題ありません」

 それを聞いて、アラタはこの子も結構頑張ってるのかな? とは思った。

「ねえ女神様、あの異界の神は魔物(モンスター)を駆逐してくれたんだって」
「(そうか、しかし俺は邪神を好まぬが)」
「この子も頑張ってるのかも」
「(しかし、シエルクーン王はあの貧しい街を綺麗にしたがっておるぞ)」
「う......うん、そうなんだけど」

 女神はまだ何か言いたげにも見えたが、
 アラタはちょっとこの少年王に気を許してしまった。

「ともかく、あの地域はお兄様に任せます。
 アル・シエルナ自治領とすること、市中に御触れを出しておきますので」
「そんな簡単に決めちゃうの?」
「ええ、僕は国王ですので。この国では僕が決めたことは絶対ですから。
 あの地域はお兄様の好きなようにして下さい。
 それと魔物との戦いで疲れていますから、少し休ませて頂きます。
 お兄様はもう帰っていいです。空間移動魔法で冒険者ギルドへ転送いたします」


 気づくとアラタは冒険者ギルドにいた。
 目の前にギルド長のエイジ・エル・エラルドがいる。
 そうだ、この人も『紋章の入墨』があるんだった。

「エイジさん、エイジさんも『紋章の入墨』があるのですよね。
 ということは僕とは異母兄弟ということですよね?」
「そうだが」

 エイジは「そうだが」と言うだけで、特に何の感情もないようであった。
 もっと「おお! 弟よ!」とかないのだろうか?

「申し訳ないが、俺にはそういったセンチメンタルな感情はないのだ!
 それより蛙の件はありがとう。俺はアレだけはダメなんだ」

 あ、あの、蛙より『異母兄弟』の件の方が重要な気がしますが。とアラタは思う。
 この人ちょっと感覚がずれてるのかも。

「それと、巨大ダーク・フロッグを倒したら、
 国王がこの町をアル・シエルナ自治領にするって言うんです。
 僕が自治領主になるみたいです」
「そうか。大変だな!
 自治領主になるのは構わんが、このギルドの受付係も頑張ってくれ!
 人手不足で大変なんだ」

 ええと、つまり『ギルドの受付係』兼『自治領主』てことですか?

「アラタ君は弟だし、兄である俺のこと手伝ってくれるよね?」

 そういうところだけ、お兄さんづらするのやめてくださいよ!

 アラタのことを兄と呼ぶ少年王。弟と言うギルド長。
 アラタは今まで生まれてこのかた、独りきりで生きてきた。
 急に兄弟が増えてしまったようでもあり、アラタは奇妙な気持ちになった。


『第一部 アラタ・アル・シエルナの物語』 了
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