第23話 剣を抜く者
文字数 1,270文字
ナユタ・エルリカ・アルが泊っている安宿屋がある、ダルシア法王国とシエルクーン魔導王国の国境の町から、歩いて二時間くらいのところに、彼の家がある。
彼の家、つまりアル家は、魔導書を創ることを生業としてきた。
特殊な家柄ではあったが、その家屋自体はこの世界でごく一般的な木造の家であった。
その家は、森の中にある。
ナユタは久しぶりに家に帰ってきていた。
その森の中、彼の家の近くに冒険者の泉がある。
その冒険者の泉にて、彼はブシン・ルナ・フォウセンヒメに出会ったのであるが。
ナユタはいま、泉に向かっていた。
「泉が呼んでおる。泉が呼んでおるのだ!」
彼はまるで夢遊病者のように、そんなことを言いながら泉に向かっている。
「泉が呼んでおるってなんだそれ? 大丈夫か、お前」
トラ柄の猫の姿をした魔導書の精、ドラゴは、本当に心配そうに言いながら、ナユタについて歩いていた。
泉のある辺りには、魔導草が生い茂っている。
魔導草たちは、ちょうど花を咲かせていた。
青く光る花である。
「アル様、お久しぶりです」
声が聞こえた。
「む? 俺を呼んでいたのはお前か?」
「はい。私でございます」
声の主は、花を咲かせた魔導草の一輪であった。
「俺に何か用なのか?」
「はい。突然、剣が空から降ってきたのでございます」
魔導草は、そう言って後ろを振り返った。
確かにその魔導草の後ろには見慣れぬ銀色の剣が大地に突き刺さっていた。
「どこかで見たことのあるような剣だな」
そう言ったのはドラゴである。
「突然、降ってきたものですから、私たちも避けきれず、剣が私たちの根を切りました」
「うむ」
「邪魔でございますゆえ、私たちもなんとか剣を押し上げようとしましたが、うんともすんとも動きませぬ」
「うむ」
「フォウセンヒメ様を呼んでも出て来てくれません。アル様の気配を感じましたゆえ、アル様をお呼びさせて頂きました。その剣を抜いて頂けませんか?」
ナユタ・エルリカ・アルは「うむ」と言って、その剣を抜いた。
「ああ、さすがにアル様でございます!」
「いや、ちょっと重いがそれ程ではない。さすがに草の力では無理かもしれんが」
銀色の剣は、魔導草たちの青い光に照らされ、青みを帯びた光を湛えていた。
ナユタは剣を振ってみた。
「うむ、やはり少し重いか。しかし、なかなかカッコいい剣だ。よし、この剣は俺が貰っておこう」
「貰っておこうって、お前、その剣はもしかして……」
「もしかして何だ?」
「いやいい、何でもない。しかし、お前もの凄い馬鹿力だな……」
「どういう意味だ? 俺が馬鹿力になったのはあの女神のせいだ」
ドラゴは呆れた顔をした。
フォウセンヒメもエスタ・ノヴァ・ルナドートも、どういうつもりなのか? と彼は思ったのである。
「お前が抜いたんなら、その剣はお前のものなのだろう」
ナユタはその剣を気に入ったようで、誇らしげにもう一度、剣を振り下ろした。
彼の家、つまりアル家は、魔導書を創ることを生業としてきた。
特殊な家柄ではあったが、その家屋自体はこの世界でごく一般的な木造の家であった。
その家は、森の中にある。
ナユタは久しぶりに家に帰ってきていた。
その森の中、彼の家の近くに冒険者の泉がある。
その冒険者の泉にて、彼はブシン・ルナ・フォウセンヒメに出会ったのであるが。
ナユタはいま、泉に向かっていた。
「泉が呼んでおる。泉が呼んでおるのだ!」
彼はまるで夢遊病者のように、そんなことを言いながら泉に向かっている。
「泉が呼んでおるってなんだそれ? 大丈夫か、お前」
トラ柄の猫の姿をした魔導書の精、ドラゴは、本当に心配そうに言いながら、ナユタについて歩いていた。
泉のある辺りには、魔導草が生い茂っている。
魔導草たちは、ちょうど花を咲かせていた。
青く光る花である。
「アル様、お久しぶりです」
声が聞こえた。
「む? 俺を呼んでいたのはお前か?」
「はい。私でございます」
声の主は、花を咲かせた魔導草の一輪であった。
「俺に何か用なのか?」
「はい。突然、剣が空から降ってきたのでございます」
魔導草は、そう言って後ろを振り返った。
確かにその魔導草の後ろには見慣れぬ銀色の剣が大地に突き刺さっていた。
「どこかで見たことのあるような剣だな」
そう言ったのはドラゴである。
「突然、降ってきたものですから、私たちも避けきれず、剣が私たちの根を切りました」
「うむ」
「邪魔でございますゆえ、私たちもなんとか剣を押し上げようとしましたが、うんともすんとも動きませぬ」
「うむ」
「フォウセンヒメ様を呼んでも出て来てくれません。アル様の気配を感じましたゆえ、アル様をお呼びさせて頂きました。その剣を抜いて頂けませんか?」
ナユタ・エルリカ・アルは「うむ」と言って、その剣を抜いた。
「ああ、さすがにアル様でございます!」
「いや、ちょっと重いがそれ程ではない。さすがに草の力では無理かもしれんが」
銀色の剣は、魔導草たちの青い光に照らされ、青みを帯びた光を湛えていた。
ナユタは剣を振ってみた。
「うむ、やはり少し重いか。しかし、なかなかカッコいい剣だ。よし、この剣は俺が貰っておこう」
「貰っておこうって、お前、その剣はもしかして……」
「もしかして何だ?」
「いやいい、何でもない。しかし、お前もの凄い馬鹿力だな……」
「どういう意味だ? 俺が馬鹿力になったのはあの女神のせいだ」
ドラゴは呆れた顔をした。
フォウセンヒメもエスタ・ノヴァ・ルナドートも、どういうつもりなのか? と彼は思ったのである。
「お前が抜いたんなら、その剣はお前のものなのだろう」
ナユタはその剣を気に入ったようで、誇らしげにもう一度、剣を振り下ろした。