第21話 白いドラゴン

文字数 1,248文字

 アラタ・アル・シエルナたち一行は、ともかくもその日はゾンダーク神殿から帰ることにした。
 マルコはその帰路の途中も、ひとりで何かぶつぶつ言っていた。
 女神、フォウセンヒメも、何か考え事をしているようであった。





 さて、少し時間をさかのぼる。
 ウキグモ・ジョサ・レイクが自死したとき、その娘、フタバ・ディア・レイクは、怪鳥マーマ・マリアに「この世界の秘密を見せてあげる」と言われ異界へ連れていかれた。

 そこは見渡す限りの麦畑であり、その麦畑の中に猫を抱いた少女がいた。
 風が吹いていた。
 麦と少女の髪が風になびいていた。

「あの鳥さんに " この世界の秘密 " と言われたのでしょう?」
「鳥さん? マーマ・マリア様のことであるかな?」
「マリア、そう、あの鳥さんはマリアという名前ですね」

 少女が抱いている猫がにゃあと鳴いた。

「私はノヴァといいます。今はユーフルのノヴァ。まったくマリアは大袈裟だわ。世界の秘密だなんて」
「ノヴァ? エスタ・ノヴァ・ルナドートのことか?」
「そう。私はあなたの世界でエスタと呼ばれることになるモノです」

 猫がノヴァの腕の中から飛び降り、フタバの近くに寄った。
 そして、フタバに話しかけた。

「世界の秘密なんていう程のものじゃないぜ」

 猫が言った。

「まあ、ちょっと複雑な話ではあるがな」
「猫? この猫は口がきけるのか?」
「俺は猫じゃねえ。神だ!」
「ニコルさん、初対面の人にいきなり " 神だ! " だなんて言ったら笑われてしまうわ。話がややこしくなるから、ニコルさんはちょっと黙っててね」

 ノヴァはそう言って、ふふふと笑った。

 麦畑に大きめの風が吹いた。
 はるか向こう地平線まで麦畑が続いている。
 フタバは不思議な世界だと思った。

「ここは、この世界は何だ?」
「ここは『エウロハ』と呼ばれる世界」
「エウロハ?」
「ええ。仮想現実(ヴァーチャルリアリティ)ってわかるかしら?」
「ヴァーチャルリア……残念ながら、聞いたことのない言葉だ」
「そうですか。たぶん、この『エウロハ』はマーマ・マリア・マキナが創った世界」

 フタバ・ディア・レイクは、ノヴァが話す内容についていけなくなりつつある。

「マーマ・マリア・マキナとは、マーマ・マリア様のことかな?」
「いえ、マリアとマーマ・マリア・マキナは別のモノです。しかし、同じ名前をしているので何か関係はあるのでしょうけれど」

 太陽が低くなり、世界は夕闇になりつつあった。

「ああ、もう夜になってしまう。マリアの言う " この世界の秘密 " ですけど、そんな大袈裟なことじゃないの。ただこの世界に、あなたのいる世界にも、一頭の白いドラゴンがいるというだけのことなの」
「一頭の白いドラゴン?」
「そう」

 ノヴァは、「完全に夜になったら、彼はここに来るわ」と言った。
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