第20話 アル家の血を引く者よ

文字数 1,905文字

 翌朝一番にアラタはベアーと武器屋に行った。
 空は晴れ渡り小鳥が気持ちよさそうにさえずっている。
 今日はクエスト日和でやんすねとベアーは言った。

 武器屋に入ると店主の親父がベアーに話しかける。

「これはベアー親分、お久しぶりです。ベアー親分が武器屋になんて珍しいですね」
「俺用じゃないんだ。親分のために買いに来たんだ」
「親分?」

 ベアーは武器屋の親父に親分と呼ばれている。そのベアーがアラタを親分と呼ぶ。
 武器屋の親父がアラタを見た。

「その子が親分の親分ってことですか?
 エラルドの冒険者ギルドの受付の子じゃないですか」
「こんにちは。ぼ、僕のこと知っているんですか?」
「ええ、私も護符を買いましたから。おかげさまで商売繁盛してます」

 (武器屋さんまで僕の護符を買ってくれてたんだ。
 というか僕の護符って商売繁盛の力があるんでしょうか)

「このあたりじゃ、護符作りのアラタ君って有名になっていますよ。
 親分の親分だったとは知りませんでした。これからは親分の親分と呼ばせて頂きます」

 (あ、いえ、親分の親分とか呼ばなくていいですから)

 それはそうと、商売繁盛したおかげで今は品薄だそうで、

・ひのきの短剣 50ゴールド
・炎の短剣 250ゴールド
・炎の剣 500ゴールド
・雷の剣 900ゴールド
・氷の大きな杖 700ゴールド

 品薄のためこの5つしかないらしい。
 とはいえ、アラタは剣なんてどれがいいか分からない。

「僕、どれがいいか分からないので、ひのきの短剣でいいです」
「ひのきの短剣でいいんでやんすか?
 親分、遠慮はいりやせんぜ。
 ......まあでも親分ならひのきの短剣でも充分でやんすかね」

 そういうわけでアラタはベアーにひのきの短剣を買ってもらい、武器屋を出た。

「ところで、ベアーさん、ミニデーモンてどこにいるんでしょうか?」
「ミニデーモンならとなり町の町はずれの森にたくさん生息しているでやんす」

 ベアーに案内してもらい、となり町の町はずれの森へ向かった。

 森にはたしかにミニデーモンがたくさんいたが、みんなベアーを見ると逃げてしまった。
 ミニデーモンはアラタには反応しなかったが、ベアーには反応しているようだ。
 ベアーがAランク冒険者だと分かるようである。

「ミニデーモンはDランクモンスターでやんすから、あっしがいるとみんな逃げちまうでやんすね」
「Dランクモンスターなんですか?」
「そうでやんす。仕方ないので、あっしは遠くで見てるでやんす」

 (Dランクモンスターくらいなら僕ひとりでもなんとかなるかも)

 ミニデーモンはベアーが遠くへ行くと、

「けけけ、ガキ一人になったぜ。思う存分いたぶってやる。
 けけ、こいつEランク冒険者だぜ」

 そう言って、〔プチ・ダーク・ファイア〕をたくさん投げつけてきた。
 が、遅い。
 クロノ鴉の【魔法の矢】ですらスローモーションに見えたアラタにとって、ミニデーモンの〔プチ・ダーク・ファイア〕なんて遅すぎてお話しにならないくらいだ。

 よし攻撃だ! アラタはひのきの短剣でミニデーモンに切りつけた。
 ミニデーモンは「あ、痛てえ」と言ったが、あまりダメージを受けていない。

 アラタは〔プチ・ダーク・ファイア〕を避けつつ、さらにひのきの短剣で切りつけてみる。
 その度にミニデーモンは「痛てえ」と言うが、やはりダメージになっていない。
 これどうしたらいいんでしょうか? 

「けけ、こいつ弱えぞ!」

 ミニデーモンは馬鹿にしたように言った。
 そのとき、声が聞こえた。

「(なにを遊んでいるんだ?)」
「女神様? 遊んでないです。ミニデーモン討伐をしているんです」
「(なら、早く討伐せい)」
「それが、いくら切り付けてもダメなんです!」
「(情けないことよ。アル家の血を引く者よ、お前は真言の唱え方も知らぬのか?)」

 アル家の血?......真言の唱え方?......アル家の血、アル家の血、アル家の血......
 アル家の血という言葉を聞いてアラタは不思議な感覚におそわれた。
 アル家とは―――?
 ―――ずっと忘れていたままでいた何かを不意に思い出したような不思議な感覚。

 昔、昔、ずっと子供だった頃、どこかで聞いた言葉がアラタの頭に浮かんだ。
 懐かしい言葉。
 それは、先日彼が無意識に唱えた呪文であった。

「【真言・斬・剣の舞う空よ】」

 ああ、僕は、僕は、僕は......何を囁いたんだろう? 何を......?
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