第12話 滅びゆく世界

文字数 1,248文字

 エスタは青い光の塊の言葉を遮るように、

「そうね」と言った。

「そうね。そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
「……」

 青い光の塊、襤褸(ぼろ)を纏った老人であったものはもう喋ることをやめた。
 
 エスタは、「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」ともう一度言った。

 アルがこの世界の王になる。
 そうだ。その通りだ。
 アルは、確かにこの世界の王になるだろう。
 エスタはそのことを知っている。

 しかし、それが何だと言うのだろうか?
 アルが王になることに何の意義があるのというのか?
 エスタにはそれが分からない。
 分からなかった。
 いや……

 青い光の塊はエスタの両手の中で、またブルブルと体を震わせた。

 ええ、分かってる。
 あなたの言いたいことは、分かってるの。
 エスタは青い光を見つめた。

 光の塊が()けていく。
 青い光の粒々となった空気中へ拡散していく。
 一瞬、世界が青く光ったかと思うと、辺りの光景は一変した。

 そこは、ひとけのない古びた王城であった。
 かつて王国であった場所。滅びた王国である。
 やがて滅びゆく運命の時間軸であった。
 エスタは滅びゆく世界にたった一人で立っていた。

「ドラン・ドゴリカ王国――」

 エスタ・ノヴァ・ルナドートは、そっとその王国の名前を言った。
 この世界は、彼女が滅ぼした世界だ。

 あのとき、エスタは『異界の神の使い』と戦っていた。
 この王城がその最終戦場だったのである。

 その戦いはフォウセンヒメを救うためにしたものであった。

 本当は戦いたく無かった。
 本当はこの世界を滅びに導くつもりは無かったのだ。とエスタは思う。
 しかし、彼女は『異界の神の使い』がフォウセンヒメにしたことがどうしても許せなかったのである。

 それゆえ、彼女は使ってはいけない『石』の力を使ったのである。
 彼女が首から下げている3つの石のうち赤い色の石だ。
 その石の名は、まさにそのままであるが、『滅びの石』という。

 ちなみに、緑の石は『賢者の石』、橙色の石は『太陽の石』と呼ばれている。
 それぞれに、強力な力を持った石であるが、おそらくこの先エスタがこれらの石の力が使用することはないだろう。
 エスタ・ノヴァ・ルナドートは決してもう石の力を使わないと決めている。

 この廃墟の王城にはびっしりと魔導草が生えていた。
 魔導草は花を咲かせ、青い花粉を散らしている。
 しばらくすると、王城の魔導ランプに灯りがともされた。

 そこに、ひときわ大きな花を咲かせた魔導草がいた。

「王のご帰還をお待ちしているのです」

 魔導草が言った。

「王?」

 エスタが聞き返した。

「ええ、王でございます」
「アルのこと?」
「いいえ、

様のことでございます」
「そう。あなたたちはここでずっとニコルを待ち続けていたのね」

 エスタは悲し気に言った。
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