第11話 魔導書の白猫

文字数 2,040文字

 ベアー・サンジ・ドルザは【白魔導書・白梅】と思われる古書をしばらく読んでいたが、難しい顔をして言った。

「こいつぁ、読み解くのがかなりやっかいでやんすね。古代言語の中でもかなり特殊な言語で書かれていて、ところどころは読めやすが......」
「じゃあ、女神さんなら読める?」

 アラタは女神、ブシン・ルナ・フォウセンヒメに聞いてみたが、

「(なぜ俺が読んでやらねばならぬのだ? 自分たちでなんとかしろ)」
「あ、読めないんですね?」
「(読めるわ! 自分たちでなんとかしろと言っておるのだ!)」

 不機嫌そうな顔をしてどこかへ行ってしまった。
 たぶんあの女神様、古代言語、読めないんですよ。とアラタは思った。
 そういうアラタも養成所の古代言語の試験はいつも赤点であったのだが。

「マルコ先輩は古代言語、得意ですか?」
「アラタ君、俺は神童と呼ばれた男だよ。どれ見せてごらん」

 マルコ先輩は【白魔導書・白梅】を手に取り、パラパラとめくっていたがしかしやはり難しいようであった。

「これは、古代言語の中でも習得が難しいと言われるニホンゴで書かれている。しかも、かなり古い時代のニホンゴだ」
「先輩、神童なんですよね?」
「アラタ君、俺が神童と呼ばれていたのは本当だ!」

 アラタも読んでみたが、やはりさっぱり分からなかった。
 いや、これがニホンゴでしかもかなり古い時代のものだと分かるだけでもすごいです......マルコ先輩、本当に神童だったのかも......

 とアラタが思っていたら、突然【白魔導書・白梅】から真っ白い猫が出てきた。
 え? 本から猫が出てくるの? 
 そしてその猫がアラタに語りかけた。

「あなたが【白魔導書・白梅】の現所有者ですか?」
「現所有者? は、はい。僕の持ち物です」

 ベアーは「こいつぁたまげたでやんす。古い魔導書には魔導書の精が宿ると聞いたことがあるでやんすが、初めて見たでやんすよ」と言った。
 この猫のように見える生き物は【魔導書の精】というものらしい。

「あなたは、魔導書の精なんですか?」
「そ、そうですが、それが何か?」
「あ......い、いえ、魔導書の精さんを見るのが初めてだったもので......僕はアラタです。アラタ・アル・シエルナです」
「そうですか、はじめまして。私は〔白梅 - ZE017〕です」

 アラタは名乗ると、魔導書の精も自分の名前らしきものを言った。

「ハクバイ・ゼットイーゼロイチナナ? なんかその、ちょっと変わった名前ですね」
「は、はあ、私は試作期の量産型『魔導書の精』ですので」
「量産型?」
「はい。たくさん作られたものという意味です。
 17番目に試作されたものという意味になります。
 白梅タイプは、おそらくこの時代に現存するのは私くらいだろうと思います。
 単に【白梅】と呼んでくださると嬉しいです」

 マルコは【魔導書の精・白梅】を見て「か、可愛い」と呟いている。
 彼は猫が好きなようだ。

「何かお困りのようですね?」
「は、はい。実は『蒼き死の病』という病気が発生していまして......」

 アラタは【魔導書の精・白梅】にこれまでのいきさつを説明する。

「『蒼き死の病』ですね。その女神様がおっしゃるように進行を止めることはできますが......」

 白梅はアラタの説明を聞いてそう言った。

「そ、その方法を教えてもらいたいのです。お願いします」
「方法といいますか、その白魔導の術式を詠唱するのはご依頼があれば私が致しますが......」

 やってくれるんですか? すごい。

「ただ、その詠唱にはすごい集中力エネルギーが必要でして、ご依頼者様のエネルギーを吸わせて頂きたいのです......」
「全然、構いません! むしろ吸ってください!」

 マルコ・デル・デソートはさっきまで泣いてたのにすっかり元気になっていた。
 しかし、「むしろ吸ってください!」という発言はやや意味不明である。
 吸われたいくらい猫が好きなのだろうか?
 アラタは奇異なのものを見る目でマルコを見た。

「しかし、おそらく今の皆様のエネルギーでは無理かと......」

 白梅がそう言って両手を広げると、3つの小さな縦笛が現れた。

「この篳篥(ひちりき)という笛が吹けること、あと〔飛空術〕で最低でも一時間は宙に浮かんでいられること、この二つが同時に出来るくらいの集中力が必要なんです」

 つまり、〔飛空術〕で宙に浮かびながら篳篥(ひちりき)という笛を吹ける必要があるらしい。
 マルコが試しにその篳篥(ひちりき)を吹いてみたが、プーともブーとも音が出ない。おそろしく肺活量の必要な楽器のようだ。

 アラタは〔飛空術〕なら得意なのである。
 親方からみっちり特訓を受けましたからね、何時間でも宙に浮かんでいられるんですよ! と彼は思った。
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