第26話 魔導王国の暗殺者

文字数 1,515文字

 ぼくのおにいさまですよね? と少年王は言った。
 そうですか。君と僕は異母兄弟ですか。
 王宮でぬくぬくと育った者に兄弟と言われてもと、アラタは複雑な感情を抱いた。

「というか、お前は邪神にあやつられていたようだが......」
「じゃしん? ああ、いかいのかみのことですね」

 少年王は少し落ち着きを取り戻し言葉を続けた。

「このまどう王国では、しばしば、いかいの神とけいやくが必要になります。
 どうということはありませんよ。
 いかいの神の力を少しおかりしただけです」
「異界の神と契約?」
「けいやく......ええ、契約です。少々、やっかいな出来事がありましたよね?」

 やっかいな出来事?
 よく分からないが、アラタとしては『掃討作戦』のことの方が大事だ。

「貧民窟を綺麗にしようと思ったとか言ったな、それは異界の神とやらの力が必要なのか?」
「いえいえ、あの程度のモンスターを動かすのに神の力など必要ありません。
 それにしてもお兄様と巨大ダーク・フロッグの戦い、なかなか面白かったですよ」

 少年王は戦いの様子を見させていただいておりましたと言った。
 幼子のような口調になっていたのも元に戻っていた。

「面白かっただと?」
「ええ、とても。
 本当はあの地域を綺麗にして、この国の民が憩う公園でも造ろうと思ったのですが」
「公園? お前ふざけてるのか!
 あの町に住む人間をなんだと思っているんだ?」
「ですので、手加減したじゃないですか。
 僕が差し向けたのはダーク・フロッグですよ、
 あの地域にはお兄様もいましたしね。
 ああ、しかし手加減なんてしない方が良かったですね。
 お父様のように兵士を差し向けて、あの町の者を皆殺しにでもした方が良かったのかも。
 汚いものは綺麗にした方が良いですからね」

 アラタはふざけるなと叫び、もがいた。もがくと魔導捕縛がぎりぎりときつくなる。

「お兄様、もがくと危ないですよ......ああ、そうだ。
 いいことを思いつきました。
 あの地域をお兄様にあげます。
 僕はあの辺りの街を好きではありませんし、お兄様も王家の者ですし」

 少年王は「ふふふ」と笑った。

「そう。あの地域をお兄様の自治領ということにしましょう。そうですね。
 アル・シエルナ自治領という名前にするというのはいかがですか?
 シエルクーン魔導王国・アル・シエルナ自治領です。ああ、美しい響きですね」
「ふざけるな!」
「お兄様、少し口のきき方を気を付けてくださいと言いましたよね?」

 少年王はまた「ふふふ」と笑う。

「ああそうだ。お兄様のところへクロノ鴉がいきませんでしたか?」
「お前か! あれもお前の仕業か?」
「まさか。僕がお兄様を殺そうとすると思うのですか?
 この魔導王国・王宮には様々な者がいます。
 中には暗殺者も交じっていることでしょう」

 本当におかしそうに、少年王はまた「ふふふ」と笑った。

「そうそう。お兄様はご存知なかったようですが、お父様は僕が殺しておきましたよ。
 お兄様もお父様のことを憎んでいるでしょう?
 お父様は僕に暗殺者を仕向けたのです。ですので、殺しておきました」
「殺した?」
「ええ、あの男は『キグルイ』でしたからね。
 多くの娘に子を産ませては、その娘を殺しました。
 生まれた子には王家の紋章の印をつけて。そう、お兄様のように」
「気狂い?」
「そうです。『キグルイ』です。そして、アル家の娘から生まれたのがお兄様ですね」

 少年王はもう笑っていなかった。
 正直、僕はお兄様が羨ましいですよ。と彼は言った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み