第4話 もう一人のアル
文字数 1,263文字
ナユタが浴室にいったん戻ると、ドラゴが風呂上がりでぬれた毛を【白魔導・暖】で乾かしていた。いや魔導書の精なので風呂に入る必要はないのだが、ナユタにつきあって風呂に入っていたのである。
「あの女が部屋にいた」
「王女様か?」
「あの女、俺の体目的かもしれぬ……」
「バカ言え、そんなわけなかろう。自分の顔を見てみろ」
ナユタが鏡を見ると、そこには犬顔の健康優良児がいた。
ドラゴはナユタを不細工だと言うが、なぜだか彼は女子にもてるのだ。
ともかく、彼は服を着て浴室を出た。いちおう宿屋代を出してもらった恩義もあるので、できるだけ丁重な言葉で王女に話しかけた。
「あの、王女様、何の御用でしょうか?」
「なぜ浴室に戻ったのですか?」
「なぜって、裸だったからでございますが……」
「そう。そんな気遣いは無用ですよ」
いえ、気遣いさせてください。とナユタは小声で呟いた。
「それはそうと、あなたがさっき〈ブシン・ルナ・フォウセンヒメ〉と言っていたから、思い出したことがあるの」
「何を思い出したんですか?」
「その女神様、シエルクーン魔導王国にいるらしいの。アラタ・アル・シエルナという少年と一緒にいるって忍熊が言っていたから」
はて、アラタ・アル・シエルナ……どこかで聞いたことのある名だとナユタは思った。
「忍熊?」
「ええ、忍者の熊よ」
忍者の熊とは何か? ということについては、彼はあえて聞かないことにした。それより、アラタ・アル・シエルナについてである。
と、そこへドラゴが浴室から出てきた。
「トラコ、アラタ・アル・シエルナって誰だっけ?」
「逐一 、訂正するのも面倒だがオレの名はドラゴだ。アラタはお前の父親の妹の息子だ」
「つまりどういうことだ?」
「つまり、お前の従兄弟ということだ」
サクラ・リイン・ダルシア王女は、そのやり取りを興味深く聞いていた。
「アラタ・アル・シエルナは、アル家の血を引く者だと忍熊が言っていたわ」
「俺の親父の妹の子ならそうだろうな」
「で、そのアラタ君なる子が、最近シエルクーン魔導王国のある地域の自治領主になったそうなの」
ナユタ・エルリカ・アルは決して頭の良い方ではない。むしろ健康優良児であることだけが取り柄のような男の子である。
自分の従兄弟が探していた女神と一緒にいるというところまでは理解できたが、そのアラタという奴が自治領主となったとまで言われると、彼の理解力を超えるのである。
やはり、この自称王女様は妄想が激しいのだろうな。と彼は思った。
「アラタ君は今、自治領主様なんですね」
「ええ」
「ちょっと複雑な話しですね?」
「ええ、シエルクーン魔導王国の動きが不可解です。なぜアル家の血を引く者を自治領主にしたのか……」
サクラは真に不可解そうな顔をして言った。
「にわかに信じがたい話しなのだが」
「ええ、そうでしょうね」
「まあ、いずれにしても俺はあの女神に用がある。アラタの所へ行ってみるか」
「あの女が部屋にいた」
「王女様か?」
「あの女、俺の体目的かもしれぬ……」
「バカ言え、そんなわけなかろう。自分の顔を見てみろ」
ナユタが鏡を見ると、そこには犬顔の健康優良児がいた。
ドラゴはナユタを不細工だと言うが、なぜだか彼は女子にもてるのだ。
ともかく、彼は服を着て浴室を出た。いちおう宿屋代を出してもらった恩義もあるので、できるだけ丁重な言葉で王女に話しかけた。
「あの、王女様、何の御用でしょうか?」
「なぜ浴室に戻ったのですか?」
「なぜって、裸だったからでございますが……」
「そう。そんな気遣いは無用ですよ」
いえ、気遣いさせてください。とナユタは小声で呟いた。
「それはそうと、あなたがさっき〈ブシン・ルナ・フォウセンヒメ〉と言っていたから、思い出したことがあるの」
「何を思い出したんですか?」
「その女神様、シエルクーン魔導王国にいるらしいの。アラタ・アル・シエルナという少年と一緒にいるって忍熊が言っていたから」
はて、アラタ・アル・シエルナ……どこかで聞いたことのある名だとナユタは思った。
「忍熊?」
「ええ、忍者の熊よ」
忍者の熊とは何か? ということについては、彼はあえて聞かないことにした。それより、アラタ・アル・シエルナについてである。
と、そこへドラゴが浴室から出てきた。
「トラコ、アラタ・アル・シエルナって誰だっけ?」
「
「つまりどういうことだ?」
「つまり、お前の従兄弟ということだ」
サクラ・リイン・ダルシア王女は、そのやり取りを興味深く聞いていた。
「アラタ・アル・シエルナは、アル家の血を引く者だと忍熊が言っていたわ」
「俺の親父の妹の子ならそうだろうな」
「で、そのアラタ君なる子が、最近シエルクーン魔導王国のある地域の自治領主になったそうなの」
ナユタ・エルリカ・アルは決して頭の良い方ではない。むしろ健康優良児であることだけが取り柄のような男の子である。
自分の従兄弟が探していた女神と一緒にいるというところまでは理解できたが、そのアラタという奴が自治領主となったとまで言われると、彼の理解力を超えるのである。
やはり、この自称王女様は妄想が激しいのだろうな。と彼は思った。
「アラタ君は今、自治領主様なんですね」
「ええ」
「ちょっと複雑な話しですね?」
「ええ、シエルクーン魔導王国の動きが不可解です。なぜアル家の血を引く者を自治領主にしたのか……」
サクラは真に不可解そうな顔をして言った。
「にわかに信じがたい話しなのだが」
「ええ、そうでしょうね」
「まあ、いずれにしても俺はあの女神に用がある。アラタの所へ行ってみるか」