第21話 女神と神々会議

文字数 1,432文字

 アラタは混乱していた。
 彼は混乱してはいたが、何が起きたかはよく理解していた。

 いくつもの剣が空を舞い、ミニデーモンの心臓を見定めるようにして勢いよく突き刺していった。
 何体もミニデーモンが死に、死んだミニデーモンは赤い魔石と化した。
 ミニデーモンだけでなくこの森のモンスターをすべて殲滅してしまったようである。
 そして、舞っていた剣は消えた。

「(素晴らしい! いつ見ても真言・斬の切れ味は美しいのう)」
「素晴らしいって、ミニデーモンを3匹やっつければよいだけだったのに......」
「(何を他人事のように言っているんだ。自分がやってのけたことだろう?)」

 (僕がやったこと......僕がやったことです)

 しかしアラタは恐ろしくなった。
 恐ろしくなり、そしてその力を怖いとも感じた。

「親分、やりやしたね。さすが親分でやんすと言いたいところでやんすが、これはちっとやりすぎでやんすね」
「やりすぎ......で......すよね。モンスターとはいえ、こんなに殺すつもりじゃなかったのに!」
「親分はまだ自分の力をコントロールできないみたいでやんすね。
 さて、しかしクエスト依頼は完了にするでやんす」

 死んだモンスターの魔石を小さな壺に入れれば、クエスト完了になる仕組みらしい。
 教育係のスライムさんがそう言っていた。

 アラタはミニデーモンの赤い魔石を3つ拾い小さな壺に入れた。
 すると小さな壺から、『クエスト完了です。報酬は30ゴールドです』と書かれた紙が出てくる。
 壺の中を見ると、30ゴールド入っていた。

「ほかの魔石はどうしたらよいでしょうか?」
「集めて全部、冒険者ギルドに持って行ってもいいでやんすし、
 ほっとけばまたモンスターに戻るでやんす」
「どっちがいいんでしょうか?」
「冒険者ギルドに持って行っても、魔石処置代がとられるだけでやんすね。
 どのみちこの森はしばらくすればまたモンスターが湧くでやんす」

 アラタは、ならばと思い、ほかの魔石はほうっておくことにした。
 彼は『モンスター討伐』をしてなんだか心情的に疲れてしまい、
 今日はもう冒険者ギルドの自分の部屋に引きこもることにした。

 アラタはベアーにお礼を言って途中で別れた。

 部屋で引きこもると、アラタは『アル家の血』について考えた。
 アル家というのは彼の母親の家系のことである。
 アラタが知っているのはそれだけだ。

 何度も言うが、彼に母の記憶はない。
 母について知っていることは、彼が幼い頃にこの国の兵士に殺されたということだけ。
 親方から聞かされたことである。

 『アル家の血』について女神様に聞いてみれば、もっと教えてくれるかもしれないが、今はまだそれを聞く心の準備がアラタにはできていない。

「ところで女神さん、最近お見かけしませんでしたが、どこかへ行っていたのですか?」

 アラタは女神に話しかけてみた。

「(ああ、神々会議に出席していた)」
「神々会議?」
「(俺は会議ってやつが大嫌いでな、かといって出席しないわけにもいかず、ああ、会議なんて面倒なものなぜやる必要があるのか!)」

 女神はそう言って少し疲れた表情を見せた後、「ああそうだ、お前職人スキルが高いな。ちょうどいい、何か武器を大量に生産しろ」と言った。
 武器を大量に生産? 突然何を言っているのだろうとアラタは思った。
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