第24話 王宮の花の匂い

文字数 1,552文字

 ナユタは何者かに頭をつつかれて目を覚ました。
 花の匂いがしたような気がした。しかし、匂いはすぐに消えてしまった。
 彼の頭をつついたのは2羽の白い小鳥であった。

「私たちは王宮中庭に住む白い小鳥でございます」
「私たちは王宮中庭に住む白い小鳥でございます」

 2羽の小鳥は異口同音に言った。

「匂いがしたような……この匂いは……」
「この匂いは……何でございますか?」
「いや、何でもないのだ」
「言いかけたままにされると気になります。この匂いは……何でございますか?」
「何でもないと言っているのだ」

 この匂いは、サクラ・リイン・ダルシアの匂いだ。彼はそう思ったのである。

「お姉さま、この男は言うべきことを言いません」
「妹よ、この男は言うべきことを言わなかった」

 2羽の白い小鳥は口々にそう言った。

「ナユタ・エルリカ・アル、アル家の血を引く者よ。あなたは信用に値する男ではない」

 お姉さまと呼ばれた小鳥が言う。

「信用に値する男がどうだとか言われても困るのだ。
 お前たちは何者なのだ?」
「ですので、私たちは王宮中庭に住む白い小鳥でございます。
 そう申し上げました。
 言うべきことを言わない人間は信用できません」
「王宮の小鳥が何をしに来たのだ。俺に何か用か?」
「お伝えすることがあるのですが、あなたは信用に値する男ではありません。
 したがって、お伝えすべきかどうか迷っているところでございます」

 ナユタはだんだんとイライラとしてきた。

「何だというのだ! 用があるなら早く言うのだ!」
「そうですか、信用に値しませんが仕方ありません。申し上げましょう。
 王女、サクラ・リイン・ダルシアが死にました」
「何を言っているのだ。こないだも元気だったのだ」
「こないだは元気だったかもしれませんが、死んだのです。殺されたのでございます」
「何を言っているのだ! サクラは死なないのだ!」

 ナユタは駄々をこねるようにそう言った。

「ああ、お姉さま、この男はやはり駄目です。言葉が通じません」
「妹よ、この男は知能が低いのでしょう。仕方がありません」

 2羽の小鳥はナユタを馬鹿にしたような目で見ると、ベッドに寝たままの彼の顔の横で翼をはためかせた。

「さようなら、駄目な男!」
「さようなら、知能が低い男!」

 彼女たちは、そう言い残して消えてしまった。

「なんなのだ。ろくでもない朝なのだ」

 ナユタが呟くとベッドの中からドラゴが這い出てきた。

「朝っぱらから何を騒いでいるんだ?」
「王宮に住む小鳥とかいうやつらが来て、サクラが死んだと言うのだ」
「小鳥?」
「そうなのだ、小さな白い鳥だったのだ。
 サクラは死んだりしないのだ!」
「そうか、王宮の鳥がわざわざ伝えに来たのか」
「失礼なやつらだ。俺のことを駄目な男だとか知能が低いだとか言って」
「ならば、王宮の鳥は本当のことを言っているのだろうよ」
「どういう意味だ? 俺が駄目な男だと言いたいのか?」

 ドラゴはため息をついた。

「サクラ・リイン・ダルシアは死んだのだろう」
「死なないのだ! 死なないのだ! 死なないのだ!」
「死んだのだろうよ、人間は死ぬのだよ」
「死なないのだ!」

 ナユタ・エルリカ・アルは「死なないのだ」ともう一度、力なく呟いた。

「死んだのだろうよ」
「ドラゴ! お前は父さん母さんが殺されたときも平然としていた!
 お前には人間の心がわからぬのか!」
「お前の父上、母上も死んだ。それがどうしたと言うのだ。
 お前の父上の父上も、その父上も。
 オレは1000年もお前たち一族の死を見続けてきた」

 人間は死ぬのだよ、ドラゴは再び言った。
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