第16話 ゾンダークのお菓子

文字数 1,404文字

「一緒に来て欲しいんだ」

 さっきまで怒っていたのに、急にしおらしくなる。

「いったい、どうしたというんです?」
「ゾンダーク教のやつらがおかしいんだ」
「おかしい?」

 マルコ・デル・デソートが真面目な顔になる。
 マルコが落ち着いたのを見届けると、エイジは部屋から出ていった。

「こないださ、ゾンダーク教のやつが養成所の子供達にお菓子をくれたんだ」
「いいことじゃない?」
「それがさ、すっごく甘いの。あんな甘いもの俺初めて食べたぜ」
「そう。良かったじゃない。
 それで、ゾンダーク教の何がおかしいの?」

 ゾンダーク教の人たちも、きっと善意でお菓子をくれたんだろう。

「だけど、なんか、あのお菓子から親方の剣から漂うのと同じ匂いがしたんだ」
「親方の剣の匂い?」

 ウキグモが自死したときの剣だ。
 アラタはちょっと嫌そうな顔をした。 

「ああ、甘い香りだ。あれは異界のモノの匂いだ」
「異界のモノの匂い? そんなの食べちゃって平気なの?」
「うむ、食べちゃったものは仕方ない。とりあえず、平気だ」

 とりあえずって大丈夫なのか? とはアラタは思う。

「それに、ゾンダークの神殿に世界中から人が集まってきてるらしいんだ。
 あいつら、何かしようとしてる」
「そう。ただ集まってるだけでしょ?
 別にいいんじゃない?」
「いや、よからぬことを企んでいるに違いない」
「なら、マルコ先輩、一人でゾンダーク神殿まで調べに行ってくればいい」

 マルコの表情がそわそわとする。

「いや、俺、一人で行きたくないんだ」
「なんで?」
「なんでって、お前、そりゃあ、あれだよ」
「あれだよじゃわかんないよ」
「だからさ、リリさんがいるんだ。ゾンダーク神殿にさ」
「ああ、そういえば、マルコ先輩、リリさんに振られたって大騒ぎしてたもんね」
「俺は振られたんじゃない!」

 マルコはムキになってそう言う。

「とにかくさ、一緒に来て欲しいんだ」
「やだよ、めんどくさい」
「めんどくさいじゃない! 一緒に来るんだ!」
「やだよ、僕はもうこの部屋から出ないんだ」
「この引きこもりめ! たまには外に出ろ!」

 ゾンダークの神殿は、シエルクーン魔導王国の中央区域にある。
 シエルクーンの王宮の比較的そばである。
 マルコとしては、リリのことがなくても中央区域には行きたくないのだろう。
 貧民窟で育った者には縁遠い場所だ。

「一緒に来てくれよう。俺、中央区域は嫌いなんだ」
「僕だって中央区域なんかに行きたくないよ。
 あそこはお高くとまった連中ばかりだからね」
「いいじゃないか、お前だって一応、自治領主なんだしさ」
「貧民窟地域の自治領主なんて馬鹿にされるだけだよ」
「そりゃあまあ、そうだな」

 マルコは急に思い出したように話題を変えた。

「そういえば、こないだ、貴族の子供がそのうちお前に会いに行くとか言ってたな」
「貴族の子供?」
「ああ、何があったか知らんが、従者を杖ですげえ叩いてたぜ。
 貴族ってのは、子供でもろくなもんじゃないな」
「杖で叩いてたの?」
「ああ、だから俺、助けてやったんだ。
 なんか、その貴族の子、なんとなくお前と顔が似てたけど……」
「顔が似てた?」

 その貴族の子ってもしかしたら、あの少年王じゃなかろうか?
 アラタは何か嫌なものを感じた。

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