第15話 怒るマルコ

文字数 1,264文字

 決闘だ! とマルコは言う。
 しかし、アラタにはまるで何がなんだか分からない。

「ちょっと、マルコ先輩、いい加減にしてください。
 何が決闘ですか!」
「絶対に許さない!」
「マルコ先輩、どうしちゃったんですか?」
「どうもこうもない! 表に出ろ!」

 マルコは興奮して頭に血が上っている。

「(マルコ・デル・デソートよ、何をそんなに怒っている?)」

 現れたのは女神、ブシン・ルナ・フォウセンヒメであった。

「どいつもこいつも俺のこと馬鹿にしやがって!」
「(馬鹿にはしていないが)」
「わかってるよ!
 でも、アラタと女神さんが朝からあんなことやってるなんて!」
「(あんなこととはどんなことか?)」

 どんなことってえっちなことしてたじゃないか! とマルコは思う。

「(何もしてないが!)」

 マルコの心を読んだのか、女神が言う。
 女神も、もしかしたらとぼけているかもしれない。
 しかし結論から言うと、マルコが見たものは「未来に起こること」である。

 より正確に言えば「未来に起こるかもしれないことの幻影」だ。 
 あれは「夢」ではない。未来である。未来に起こる可能性のあることである。
 マルコは未来視をしたのである。予知ともいう。
 ただそれは、ただの幻であるかもしれないが。

「ところで、マルコ先輩、僕に何か用でもあったんですか?」
「お前なんかに用はない!」
「じゃあ、なんで僕の部屋に来たんですか!」
「くぁぁぁぁぁぁ! 表に出ろ!」

 マルコは興奮して訳が分からなくなっている。
 と、そこに入ってきたのは冒険者ギルド・ギルド長のエイジ・エル・エラルドであった。

「マルコ、何をそんなに怒っているんだ?」

 エイジは椅子に腰を下ろし、柔和な顔でそう言った。

「だって、こいつ、だって、こいつ!」
「なんだ、どうしたんだ?」
「ちくしょうっ!
 エイジさんもアラタの味方だよな!
 だって、エイジさんも『紋章の人』だもん!」

 エイジは左胸を手で押さえた。
 左胸には『紋章の入墨』がある。アラタのものと同じものだ。
 それは、王家に伝わる『魔導の星』と呼ばれている特殊な紋様である。
 お忘れかもしれないが、エイジもまたアラタの異母兄弟だ。

「こんなものは呪わしいだけだよ」

 エイジは優しく諭すように言う。

「俺、悔しいんだ。
 いつもいつも、みんな、アラタ、アラタって」
「そうだな」

 エイジ・エル・エラルドはマルコに同意した。
 そして、しかしその顔は無表情であった。

 マルコが見回すと女神はいなくなっていた。
 彼女はこのエイジという男が苦手だ。と本人はそう言っている。
 いや、苦手というのは違うだろう、厳密に言えば関わり合うのを避けたいのだろう。

「それより、マルコ、ゾンダーク教のことを依頼したはずだ。
 アラタと喧嘩しろとは言っていないぞ」

 エイジはあくまで優しくそう言う。
 マルコは少し項垂(うなだ)れたようにして、アラタを見た。
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