第23話 不器用な指
文字数 1,392文字
サクラはびっくりするナユタを見て明るく笑った。
晴れ渡った爽快な空のような、明るい明るい笑い声であった。
だから、ナユタもつられて笑う。
「恥ずかしいのだ。照れくさいのだ」
そう言って、ナユタも笑った。
しばらく二人で笑い合った後、サクラが話し始める。
「ダルシア法王家に伝わるおまじないよ」
「おまじない?」
「法王家には強い『魔導の力』を持つ者が生まれることが多いから、『魔導の力』をうまく操れるようにおまじないをするの。私もお父さまにしてもらったわ」
確かにナユタの左手の青い光は消え、通常に戻っていた。
「本当なのだ。光が消えているのだ」
ナユタは自分の手を見つめていた。
人より短くて太い不器用そうな指である。
「体中のむずむずも消えたみたいなのだ」
「そう。良かった」
サクラ・リイン・ダルシアは、また嬉しそうに笑った。
本当に明るく朗らかに笑う女の子であった。
「男の子の手ね」
「短くて太いのだ」
ナユタは指を広げてサクラに手を見せた。
サクラはふふふと笑う。
「体が軽くなったような気がするのだ」
急に何か思いついたように、彼はテーブルの上のコップをがさつに掴んだ。
が、何も起こらない。
ナユタは「おお」と言った。
「どうしたの?」
「コップが壊れなかったのだ!」
「〈ブシン・ルナ・フォウセンヒメ〉の恩寵のこと?」
「そうなのだ。あの女神から『恩寵』とやらを与えられて以来、気を付けないと何でも壊してしまっていたのだ」
「『ルナの恩寵』は『魔導の力』を増幅するものだと言うわ」
「法王家のおまじないが効いたのだろうか?」
サクラはまた可笑しそうに笑う。
「おまじないは確かに効果があると思うけど、そんなにいきなり効能がでるものかしら?」
「でもコップが壊れなかったのだ」
「『魔導の力』をうまくコントロールできるようになれば、『ルナの恩寵』の力もコントロールできるようになると思うけど……」
「コントロールできるようになったのだ! ありがとうなのだ!」
ナユタは喜び勇んでサクラに抱きついた。
直情的な男の子である。
サクラは無言であった。
「ああ、大丈夫か? ごめんなのだ。痛かったのか?」
「ううん。痛くない」
「女神の『恩寵』とやらをコントロールできるようになったのだ!」
ナユタは鈍感な男の子であったかもしれない。
女の子の気持ちはもちろんまだ理解できない。
もう少し気の利いた言葉をかけてあげられたら良かったかもしれない。
夕方になり、二人はこの安宿屋の食堂で食事をした。
夜になっても二人は一緒にいた。
普段は、ナユタがベッドに入るとドラゴがベッドに潜り込んで来たが、その日ナユタのベッドに潜り込んだのは、サクラ・リイン・ダルシアであった。
追い出されたドラゴは「ケッ」というとどこかへ行ってしまった。
ドラゴとしても気をつかったのである。
サクラ・リイン・ダルシアは明るく朗らかに笑う女の子であった。
ナユタと同い年であるから、16歳である。
――しかしながらである。
この夜の数日後、ダルシア法王国・王宮中庭の花園でサクラ・リイン・ダルシアは惨殺死体として発見された。
おそらく、王座の間を襲った者達の仲間の犯行であろうと思われる。
晴れ渡った爽快な空のような、明るい明るい笑い声であった。
だから、ナユタもつられて笑う。
「恥ずかしいのだ。照れくさいのだ」
そう言って、ナユタも笑った。
しばらく二人で笑い合った後、サクラが話し始める。
「ダルシア法王家に伝わるおまじないよ」
「おまじない?」
「法王家には強い『魔導の力』を持つ者が生まれることが多いから、『魔導の力』をうまく操れるようにおまじないをするの。私もお父さまにしてもらったわ」
確かにナユタの左手の青い光は消え、通常に戻っていた。
「本当なのだ。光が消えているのだ」
ナユタは自分の手を見つめていた。
人より短くて太い不器用そうな指である。
「体中のむずむずも消えたみたいなのだ」
「そう。良かった」
サクラ・リイン・ダルシアは、また嬉しそうに笑った。
本当に明るく朗らかに笑う女の子であった。
「男の子の手ね」
「短くて太いのだ」
ナユタは指を広げてサクラに手を見せた。
サクラはふふふと笑う。
「体が軽くなったような気がするのだ」
急に何か思いついたように、彼はテーブルの上のコップをがさつに掴んだ。
が、何も起こらない。
ナユタは「おお」と言った。
「どうしたの?」
「コップが壊れなかったのだ!」
「〈ブシン・ルナ・フォウセンヒメ〉の恩寵のこと?」
「そうなのだ。あの女神から『恩寵』とやらを与えられて以来、気を付けないと何でも壊してしまっていたのだ」
「『ルナの恩寵』は『魔導の力』を増幅するものだと言うわ」
「法王家のおまじないが効いたのだろうか?」
サクラはまた可笑しそうに笑う。
「おまじないは確かに効果があると思うけど、そんなにいきなり効能がでるものかしら?」
「でもコップが壊れなかったのだ」
「『魔導の力』をうまくコントロールできるようになれば、『ルナの恩寵』の力もコントロールできるようになると思うけど……」
「コントロールできるようになったのだ! ありがとうなのだ!」
ナユタは喜び勇んでサクラに抱きついた。
直情的な男の子である。
サクラは無言であった。
「ああ、大丈夫か? ごめんなのだ。痛かったのか?」
「ううん。痛くない」
「女神の『恩寵』とやらをコントロールできるようになったのだ!」
ナユタは鈍感な男の子であったかもしれない。
女の子の気持ちはもちろんまだ理解できない。
もう少し気の利いた言葉をかけてあげられたら良かったかもしれない。
夕方になり、二人はこの安宿屋の食堂で食事をした。
夜になっても二人は一緒にいた。
普段は、ナユタがベッドに入るとドラゴがベッドに潜り込んで来たが、その日ナユタのベッドに潜り込んだのは、サクラ・リイン・ダルシアであった。
追い出されたドラゴは「ケッ」というとどこかへ行ってしまった。
ドラゴとしても気をつかったのである。
サクラ・リイン・ダルシアは明るく朗らかに笑う女の子であった。
ナユタと同い年であるから、16歳である。
――しかしながらである。
この夜の数日後、ダルシア法王国・王宮中庭の花園でサクラ・リイン・ダルシアは惨殺死体として発見された。
おそらく、王座の間を襲った者達の仲間の犯行であろうと思われる。