第6話 襤褸を纏った老人

文字数 1,268文字

 ミラノ・レム・シエルクーンはウキグモの剣をもう一度布で包むと、養成所の元にあった場所に戻した。
 ひとまず、冒険者養成所から去ることにしたが、マルコ・デル・デソートのことはやはり不可解に思う。
 マルコはもう、養成所の子供たちの指導に戻っていた。

 その日は本当に日差しの強い晴天の日であった。
 ミラノは眩しいと思った。
 彼にとって、何もかもが眩しく思えた。

 陰気な王宮で暮らすミラノにとって、この晴天の下で暮らす者たちが眩しく見えたのだ。

「ミラノ様、ミラノ様、本当によろしいのですか、このままあの者を放っておいて」
「さあ、分からぬ」

 彼は分からぬと言う。もちろん、魔導王国王家の者は常人とは違う。魔導の力が強い。
 それでも、未来までを見通す力は無いだろう。
 しかし、本当に分からなかったのであろうか。
 マルコ・デル・デソートは、彼にとって将来、敵になるはずであろう者だ。
 何か予期めいたものすらなかったのであろうか。
 彼はこの街を『掃討』しようとすら思ったのに。

 いや、何かは予期していただろう。
 それでもなお、この日のこの晴天は彼には眩しく思えた。

「さあ、行こう」少年王は言った。
「は、はあ」

 ノリスはやや煮え切らないような声を出し、そして振り返りマルコを見た。
 マルコは熱心そうに子供たちに魔導の指導をしている。
 しかし、王が行こうと言うならば、それに従うしかない。
 ノリスは少し残念そうな顔をした。


 さて、ミラノとノリスは貧民窟の路地を歩きだす。
 向こうから盲目と思われる老人が歩いてくるのが見えた。

 老人はつぎはぎだらけのボロボロの衣を着ている。
 ミラノはその老人のことをよく知っていた。

「なぜ、こんなところを歩いている?」

 少年王は、楽しそうな声で聞いた。
 老人はその声に聞き覚えがあったようだ。

「おお、おお、わたくしはアル様を、アル様を探しているのでございます。
 シエルクーンの新しき王様、どうぞ、わたくしのことはお忘れくださいませ」
「忘れてくれ? 父王の第一の家臣であったお前を?」
「おお、わたくしは確かに先王の家臣でございました。
 わたくしは、あなた様に殺されても致し方ありません。
 どうぞお殺しくださいませ」

 襤褸(ぼろ)を纏った老人はそう言う。
 特に命乞いはしないようだ。

「ああ、言われずとも殺してあげるよ。
 だって、こんなところを自由に歩いていていいなんて僕は言ってないよね?
 自由に動けないように目を潰したやったというのに。
 それとも、足を潰してあげた方が良かったかな?
 まあいいや。
 ところで、なんでアルを探しているの?」
「わたくしはこの国を秘密を知りとうございました」
「秘密?
 そもそも、先代シエルクーン王・第一家臣であったお前が、
 この国の秘密を知らないはずもなかろう?」

 ミラノは不快そうに言った。
 こんな穢い老人とこの国のことについて会話するのも嫌であるといった様子だ。
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