第8話 王の狂気

文字数 1,208文字

 気づくとミラノはノリスの体を打ち続けていた。
 その様子は狂気に満ちていただろう。
 殺す気はない。ただ、怒りを止めることができなかっただけだ。

「おい、お前何やってるんだよ!」

 騒ぎを聞きつけ、やって来たのはマルコ・デル・デソートであった。
 彼はうずくまるノリスとミラノの間に体を入れた。
 ミラノの杖がマルコを打ち付けたところで、やっと少年王は我に返った。

 打ち付けられたマルコの体から白い光子が跳ねるように放出された。
 ノリスを血まみれにした杖であったが、マルコには効いていない。
 その白い光子は、魔導による防御である。

「邪魔をするな」
「邪魔って何だよ! そんなに打ち付けたらこの人死んじゃうぞ」
「死にたいらしいから、打ち付けたまでだ。
 お前には関係なかろう」

 マルコから放出されている光子の量が多くなり、マルコとノリスを光の(もや)で包んだ。

「フォウセンヒメの力か、
 なぜ、あの女神の力を持っている?」
「女神の力? 知らないよ」

 知らないと言うが、忘れているだけだろう。
 彼はフォウセンヒメから【神の祝福】を受けている。
 その力にどんな効果があるのか、彼は理解していないが、
 マルコはいわゆる【恩寵】とは別に【神の祝福】も受けていることになる。

 生涯にわたりアラタの右腕となる彼は、神から2重の力を得ている。
 それが、神の意図したことなのかどうかは分からない。

 女神が彼に【神の祝福】を与えたのは、この辺りの地域で『蒼き死の病』が出たときのことである。
 ちなみに、あのときフォウセンヒメは何か勘違いをしていただけのようであったけれども、マルコの「誰かの役に立ちたい」という気持ちにいたく感動して【神の祝福】を与えたのである。

 マルコも気分屋なところもあるが、事実、今回もノリスを救おうとした。
 彼が「誰かの役に立ちたい」という気持ちを持っていることは確かであるようだ。
 いや、本来マルコは非常に感情豊かな人間なのである。

「本人が死にたがっているのだ、邪魔をするな」
「死にたがってるなんて、そんなわけないだろう!」

 マルコとノリスを包む白い光の靄は、さらに光量を強めている。
 そして、光子の一粒一粒が、ノリスの破れた皮膚を癒そうとその傷口に集まっていく。

「邪魔をするな」

 ミラノはもう一度言った。
 しかし、もうノリスをもマルコをも打ち付けようという気持ちは失せているようだ。
 少年王の表情にかすかに影が落ちる。
 僕は……

「もういいやめろ、その光の靄を止めろ」
「ダメだよ、このまま放っておいたら本当にこの人死んじゃうよ」
「いい。僕がやる」

 ミラノはそう言って、その小さな手でノリスの体に触れた。
 ノリスが細かく震えているのが、ミラノの手に伝わってきた。

 僕は……殺そうとだなんて思っていない。
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